(yún)()(chá)(うんむちゃ)

天台の春、第二回は天台の特産品である「天台雲霧茶」の茶摘み体験をしてきたので、そのレポートです。

 

宿舎から少し下ると、日によっては雲海の見える絶景ポイントがあります。

 



山の上では夜から早朝にかけて霧がかかることが珍しくありません。まさに「雲霧」です。

 

天台は国清寺に代表される歴史的な仏教寺院の他に、お茶の産地としても有名です。

 

特に連山の主峰「華頂」一帯の「高山雲霧茶」は、生産量が少ない高級茶として、知る人ぞ知る銘茶の一つです。

 

華頂付近の茶畑。

 

日本茶のルーツが天台にあることは以前の記事にも書きました。

 

唐の時代に国清寺で修業をしていた最澄が、帰国の際に一握りの茶の種を持ち帰り、比叡山の麓、日吉大社付近に植えたのが日本茶の始まりといわれています。

 

あるサイトでは東京大学の研究チームが行ったDNA鑑定において、日本最古の茶園といわれる最澄ゆかりの日吉茶園の茶葉と、天台の茶葉とは同種に間違いないとの鑑定結果が発表されたと紹介しています。

 

最澄が修行していた国清寺の入り口。

 

そんな縁のある天台のお茶を、私はこの春二度も摘むことが出来ました。

 

初回の茶摘みは「清明節」の翌日。誘ってくれたのは洗い場のおばちゃんの(ヤン)さんでした。

 

多くの中国茶では「清明節」の前に摘んだ「明前茶」(めいぜんちゃ)と、二十四節気で「清明」の次にあたる「谷雨」の前に摘んだ「雨前茶」(うぜんちゃ)の二つが、特に嫩(わかい)芽の茶葉として特別な価値をもつそうです。

 

楊さんに誘ってもらい、同僚数人と出かけたのは今年の「清明」を1日過ぎた4月6日でしたが、楊さん曰く、標高の高い山の上の茶葉はまだ芽が出たばかりで、必ずしも「明前」が良いとは限らないとの事でした。

 

茶畑までの山道で、楊さんは道の脇に生えている色々な植物を「これは食べたら美味しいよ」とか、「あれは食べたら毒にやられちゃう」、「こっちは漢方薬の材料だよ」などと教えてくれながら歩きました。

 

ようやく茶畑に着き、楊さんに基本的な摘み方を教えてもらってから、各々茶摘みを始めました。

 

小さな新芽と、その下の柔らかい葉一枚がついた状態を「一芽一叶(一芽一葉)」といい、この部分だけを親指の爪で切る様に摘んでいきます。

 

摘みたての茶葉からもほのかにですが、清々しいフレッシュなお茶の香りを感じることが出来ました。

 

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楊さんの畑の新茶の芽。

 

初心者の私たちがチンタラ摘んでいる間に、両手を使って次から次に摘んでいく楊さんの籠の中だけがどんどん増えていきます。

 

この日は日差しも強く、1時間くらいで私たちが音を上げたため、茶摘みは昼前に終了となりました。

 

摘みたての新茶葉。

 

畑を下ったところで、楊さんの知り合いがお茶の加工場を営んでいるとの事で、急遽そのまま工場見学もさせてもらえる事になりました。

 

旭日茶場。後から知りましたが、職場のホテルで仕入れている茶葉も旭日茶場さんのものでした。

 

雲霧茶(緑茶)の製造工程はざっくり言うと

 

1.(tān)(fàng)・・・摘みたての茶葉を広げて茶葉全体の温度を一定にしたり、水分を飛ばしてしんなりさせる工程。

2.(shā)(qīng)・・・高温で茎まで火を通す工程。酸化酵素の働きを止める。青臭さを飛ばし、茶葉の香気を引き出す。

3.(cuō)(róu)・・・揉み工程。お茶を入れた時の香りや味の出方に影響する。

4.(chǎo)(zhì)・・・低温でゆっくりと炒め、水分を抜く工程。

 

の4工程でした。

 

「摊放」の様子。時折上下を返す。

 

摊放が終わり、「杀(殺)青」を待つ茶葉。

 

「杀青」の機械。

 

「杀青」が終わった茶葉は粗熱を取ってから「搓揉」の工程へ。

 

搓揉の機械は日本製。何年もの間一度も壊れたことがなく、とても重宝しているそう。

 

以上は緑茶の製造工程ですが、雲霧茶には「緑茶」の他にも、「紅茶」と「黄茶」の計三種類があります。

 

緑茶と紅茶は同じ茶葉が原料ですが、その加工方法が違うために異なるお茶となります。

 

黄茶は天台でも限られた地域にしかない希少な茶樹の葉が原料となり、その製法は緑茶と同じです。

 

今年の新茶(緑茶)。

 

最高級の「黄茶」を試飲させてもらいました。

 

価格はピンキリですが、上等なものだと工場直売価格でも緑茶と紅茶は1880元(約3万7千円)、黄茶は2880元(約5万7千円)(共に1斤=500gあたり)でした。山下のお土産屋さんや、都市部のお茶屋さんで購入したらもっと高くなることでしょう。

 

また、天台のある同じ浙江省のお茶で、全国的に有名なものに杭州の「(lóng)(jǐng)(chá)(龍井茶)」(ロンジンチャ)がありますが、この「龙井茶」のルーツも古くは天台にあるようです。

http://ttnews.zjol.com.cn/ttxw/system/2013/04/22/016346061.shtml

 

 

楊さんの話によると、この時期、地元の農家の殆どは、自分が所有する茶畑の茶葉を摘んだらこのような加工場に持ち込み、買い取ってもらうことでお金を稼ぎます。

 

同じ天台山の茶畑でも、ワインの葡萄畑と同じように日当たりや標高によって畑のランクがあり、買い取り額が変わるそうです。

 

商売用とは別に先祖代々受け継いでいる茶畑のある人も多く、樹齢の長い高価なお茶は殆ど知り合いや親戚に配ってしまうので、一般には殆ど出回らないとも言っていました。

 

ある資料によると、その生産量を杭州の「龙井茶」と比べた場合、8分の一(約3,000トン)しかなく、また、標高が高い華頂付近の茶畑は、害虫も少ないため一切農薬を使用していないことなどから、とても希少価値の高いお茶であると評価されています。

 

摘んだ茶葉は楊さんが自宅の釜で炒めて茶にしてくれました。

 

若い新芽で作った雲霧茶には産毛が見えます。このような完全手作りの「手工茶」は年々少なくなっているそう。

 

人生初の自分で摘んだお茶。爽やかな香りとほのかな甘味の雲霧茶。

 

二度目の茶摘みは厨房スタッフの(シャン)くんに誘ってもらい、彼の実家の茶畑に連れてきてもらいました。

 

この畑は山奥の竹林に囲まれた小さな茶畑でしたが、陽の当たりが柔らかく、瑞々しく澄んだ空気が何とも言えない心地よい環境です。

 

 

 

 

二度目の茶摘み。少しだけ慣れてきたのもあり、前回よりは速いピッチで摘めました。おまけの筍も持ち帰ります。

 

陽の当たりが柔らかいせいか、茶葉も柔らく、見るからに「嫩芽」(若い芽)の感じがします。

 

今回摘んだ茶葉はそのまま宿舎に持ち帰り、自分たちで炒めてみることにしました。

 

まずは半日ほどテーブルの上で「摊放」をしてしんなりさせます。

 

その後、中華鍋でゆっくり炒めながら水分を飛ばしただけですが、香ばしい緑茶の香りがして、何となくそれっぽい仕上がりになった気がしました。

 

炒めたての自作のお茶を皆と飲みながら、ちょっとした感動も味わうことが出来ました。

 

 

炒めあがった自作のお茶。

 

奥が炒める前の茶葉。左は自作のお茶。右は前回楊さんが炒めてくれたお茶。

 

炒めたてのお茶の試飲。自分で摘んで、炒めて、淹れたお茶は、楊さんのものにはずっと劣りますが、これはこれで格別の味わい…でしたが…

 

しかし、自作のお茶を翌日もう一度淹れてみると、香りが全然しません。

 

前日の炒めたてのお茶は多少の香りがあったように感じたのですが、実際には私たちの炒め方では全く茶葉の香りを引き出せていなかったのです。

 

当たり前ですが、見様見真似で作れるほど簡単なものではなく、手作りのお茶が主流の頃には何人かの「名人」といわれる人もいたそうです。

 

 

私はこれまで「茶」よりも「酒」専門でやってきたのですが、こうやって茶摘みや加工まで体験すると、お酒だけではなく、お茶の魅力ももう少し愉しんでみなきゃと思うようになりました。(本当か!?)

 

来年の春には渡航の制限が元に戻り、両親やお茶好きの日本の友人、知人に是非天台の茶畑案内ができればと願います。

 

楊さんや項くんのおかげで、貴重な春の体験ができました。

 

おわり