「にゃー!」
いやそこまで別におかしくはなっていなかったけど、何となくそんな気分だったし、猫がいないのには本当に焦っていたけど、どこかで俺は、気分が良かったのかもしれない。かかってきた電話が西だったからという理由だったらどうしよう。いっそこのまま告白でもするかな。
「えー、ちょっとどうしたんですか柴田さん、なんすかそれ」
そうだわな、そうなるわな普通。うん、間違ってない反応で嬉しく思うよ俺は。なんとなく落ち着かないので部屋をウロウロして、目についた雑誌や洋服なんかをなんとなく片付けながら、今電話している彼氏が今から部屋に来る女みたいだなーと思う。実際はどうかわからないけど。なに、このどこかしらからくるウキウキ感。気持ちわりーな、俺。
「猫、いねーの」
「猫?あ、あーあの。なんでしたっけ、彼女のお父さんの名前の」
……思い出した、そうだ、なぜか飼い主の父親の名前をつけられていた猫。なんだっけ。
「そー、ひろ、ひろき、あいつ、いねーの」
なんか、名前をいうと、ちょっとだけ小綺麗で、観葉植物とかが置いてある銀河系の家で、一度しか会ったことのない親父の顔がぼんやり浮かんできて、全く悪気のない笑顔でまぁまぁって勧められた発泡酒がまずくて無理矢理飲んだらまぁまぁってまたグラスいっぱいに注がれて早く帰りたかったことを思い出してひどくいやな気持ちになった。だから、というわけじゃなかったけど、俺はお父さん、とも呼ばなかったし、いや、呼べなかったし、猫のことも名前で呼んだことはなかった。可愛がったけど今初めて呼んだ、というか口に出して発音した。
「いなくなったんすか?
「うん、ってゆーか」
「あ、や、今日柴田さん締め切りでしょ?入稿終わってんならメシでもどうかなと思って」
てゆーか、と言っただけで、俺が言いたいことがわかる。そりゃ間違えることもあるし、聞き返されるときもあるけど、ほとんどの確率で命中する。もうほんと、まったくもうスキなんじゃねーの、俺のことが。てゆーかの後がわかるだけでは飽き足らないわけね、なんでスケジュールまで把握してんのよもう、愛してるよほんともう、昨日行ったじゃん、なんか言うわけないよ行こうぜ今日も明日もあさっても。それはヤだけどもう地球の果てまでご一緒するぜとまでは思わないけど、いつもいいタイミングの西に、そして、俺をメシに誘うのは驕ってもらえるからだとかそういう意地汚い考えが全くなくて、ただ単にピュアにおなかがすいて、俺とメシを食おうとしか考えていない感じがたまらなく愛おしいよね。
ヨメは、と愛おしついでにヨメの心配もしてやる。俺だってある程度は大人だし、それくらいはできる。大丈夫ですよという返事を予想してのことだけど、二人には、二人のためにも俺の為にも別れてほしくなかった。だってもしそうなったら、たとえ違う理由だといわれても俺は俺のせいにしてしまうだろうから。それから、なによりも、結婚式の時、それよりも前から、西がヨメと一緒になって、この上なく誰よりも宇宙一幸せだという顔をしているので、そんな西がちょっと気持ち悪いなと思いつつ、悲しい思いをしてほしくない。しかもそれが俺のせいだなんてなった日にゃ、西は俺を責めることもなく、自分を責めるだろうし、とにかく別れてほしくないのである。
「今日は実家帰ってるんですよ」
「なに、ケンカ?」
あっさりした言い方だったので、不穏な空気は感じなかったけど、一応、実家イコールみたいなところがあるのでサラッと訊いてみる。片付けがなんとなくだいたい終わったので、移動ついでにもう一回キャットフードを眺めてみる。変化なし。そりゃそうだけど。
「いえ、妹が帰ってくるそうです」
「あ、そ、で?」
俺は、煙草も吸うし、酒も飲むし、ゴミも捨てるけど、会話に関してはエコではないかと思う。特に、西との会話のときはものすごく省エネで、酸素もあんまり使わないし二酸化炭素もそんなに出さないと思う。
「渋谷行きませんか? てゆうか」
「なに?」
俺が西の、てゆうかの後に続く言葉や何が言いたいのかなんてわかったことはなかったし、考えたこともなかったので、素直になに、と答える。悪いことじゃない、西がよくできているだけだと思うから。
「探さなくていいんですか? 猫」
「……今日はいいわ、とりあえずメシ食おうぜ」
注がれたまずい発泡酒を思い出してしまったので、口なおしをしたかったのか、それとも、何かから逃れたかったのか。癒し、そう、西に癒されたかったのだ、俺は。
いやそこまで別におかしくはなっていなかったけど、何となくそんな気分だったし、猫がいないのには本当に焦っていたけど、どこかで俺は、気分が良かったのかもしれない。かかってきた電話が西だったからという理由だったらどうしよう。いっそこのまま告白でもするかな。
「えー、ちょっとどうしたんですか柴田さん、なんすかそれ」
そうだわな、そうなるわな普通。うん、間違ってない反応で嬉しく思うよ俺は。なんとなく落ち着かないので部屋をウロウロして、目についた雑誌や洋服なんかをなんとなく片付けながら、今電話している彼氏が今から部屋に来る女みたいだなーと思う。実際はどうかわからないけど。なに、このどこかしらからくるウキウキ感。気持ちわりーな、俺。
「猫、いねーの」
「猫?あ、あーあの。なんでしたっけ、彼女のお父さんの名前の」
……思い出した、そうだ、なぜか飼い主の父親の名前をつけられていた猫。なんだっけ。
「そー、ひろ、ひろき、あいつ、いねーの」
なんか、名前をいうと、ちょっとだけ小綺麗で、観葉植物とかが置いてある銀河系の家で、一度しか会ったことのない親父の顔がぼんやり浮かんできて、全く悪気のない笑顔でまぁまぁって勧められた発泡酒がまずくて無理矢理飲んだらまぁまぁってまたグラスいっぱいに注がれて早く帰りたかったことを思い出してひどくいやな気持ちになった。だから、というわけじゃなかったけど、俺はお父さん、とも呼ばなかったし、いや、呼べなかったし、猫のことも名前で呼んだことはなかった。可愛がったけど今初めて呼んだ、というか口に出して発音した。
「いなくなったんすか?
「うん、ってゆーか」
「あ、や、今日柴田さん締め切りでしょ?入稿終わってんならメシでもどうかなと思って」
てゆーか、と言っただけで、俺が言いたいことがわかる。そりゃ間違えることもあるし、聞き返されるときもあるけど、ほとんどの確率で命中する。もうほんと、まったくもうスキなんじゃねーの、俺のことが。てゆーかの後がわかるだけでは飽き足らないわけね、なんでスケジュールまで把握してんのよもう、愛してるよほんともう、昨日行ったじゃん、なんか言うわけないよ行こうぜ今日も明日もあさっても。それはヤだけどもう地球の果てまでご一緒するぜとまでは思わないけど、いつもいいタイミングの西に、そして、俺をメシに誘うのは驕ってもらえるからだとかそういう意地汚い考えが全くなくて、ただ単にピュアにおなかがすいて、俺とメシを食おうとしか考えていない感じがたまらなく愛おしいよね。
ヨメは、と愛おしついでにヨメの心配もしてやる。俺だってある程度は大人だし、それくらいはできる。大丈夫ですよという返事を予想してのことだけど、二人には、二人のためにも俺の為にも別れてほしくなかった。だってもしそうなったら、たとえ違う理由だといわれても俺は俺のせいにしてしまうだろうから。それから、なによりも、結婚式の時、それよりも前から、西がヨメと一緒になって、この上なく誰よりも宇宙一幸せだという顔をしているので、そんな西がちょっと気持ち悪いなと思いつつ、悲しい思いをしてほしくない。しかもそれが俺のせいだなんてなった日にゃ、西は俺を責めることもなく、自分を責めるだろうし、とにかく別れてほしくないのである。
「今日は実家帰ってるんですよ」
「なに、ケンカ?」
あっさりした言い方だったので、不穏な空気は感じなかったけど、一応、実家イコールみたいなところがあるのでサラッと訊いてみる。片付けがなんとなくだいたい終わったので、移動ついでにもう一回キャットフードを眺めてみる。変化なし。そりゃそうだけど。
「いえ、妹が帰ってくるそうです」
「あ、そ、で?」
俺は、煙草も吸うし、酒も飲むし、ゴミも捨てるけど、会話に関してはエコではないかと思う。特に、西との会話のときはものすごく省エネで、酸素もあんまり使わないし二酸化炭素もそんなに出さないと思う。
「渋谷行きませんか? てゆうか」
「なに?」
俺が西の、てゆうかの後に続く言葉や何が言いたいのかなんてわかったことはなかったし、考えたこともなかったので、素直になに、と答える。悪いことじゃない、西がよくできているだけだと思うから。
「探さなくていいんですか? 猫」
「……今日はいいわ、とりあえずメシ食おうぜ」
注がれたまずい発泡酒を思い出してしまったので、口なおしをしたかったのか、それとも、何かから逃れたかったのか。癒し、そう、西に癒されたかったのだ、俺は。