厘花はブルーな気持ちでしんがを見ていた。

「ぼくに何か話でもあったの?」しんがが厘花に話し掛けた。

「・・・ごめん。ボク・・・猫が続けて殺されて・・・猫が逃げてきたあとからしんがくんが出てきたし・・・しんがくんにもう猫は殺さないでって言いにいったんだけど・・・」

ああ!とうとう言っちゃった!


「猫が殺された?」

小寺先生が不思議そうに訊き返す。

「はい。リボンをつけた猫が、始めにクビを絞めあられて宙吊りで。次は、ドブのなかに入れられて。」

あははは!と豪快な笑い声を上げて、小寺先生が笑い出した。

笑うことかよ!と厘花はほっぺを膨らまして抗議する。
「どうして笑うの?」

小寺先生は「ごめん、ごめん」と謝って、厘花の頭に右手を優しくのせてこう言った。

「わたしはね、学校の前の文房具屋さん、ゆちぷ堂だっけ?あそこの柵に首輪をひっかけて死んでしまった猫を解剖したんだよ」

「クビを絞められて殺された猫を解剖したの?」

きょとんとして厘花が訊き返した。

「あのね、厘花くん。あの猫は異物を飲み込んでたんだよ。きっとゴミでも漁ったときにエサと間違えて飲み込んだらしい。飲み込んだあと、苦しみながら柵の向こう側の塀から飛び降りようとして、誤って柵にリボンをひっかけてそのまま死んでしまったみたいなんだ。」

「え?異物って・・・」

「わたしが解剖して猫の喉の奥から取り出したのは、アルミホイルだったよ」

「!アルミホイルって・・・台所でママが使ってる・・・?」

「そうだよ。ホイルはね、生ゴミと一緒に捨てても燃えないし、本来はアルミ缶などといっしょに捨てるものなんだよ。」

「それがどうして・・・?」

「ちょうど袋ゴミの回収日で、ゆちぷ屋の前のごみ集積所でその猫がエサを漁ってたんだろうね。家庭から出る袋ゴミには、心無い人がいい加減に分別せずに捨てたアルミホイルがよく入ってるのさ。」

ああ!と厘花は合点した。

そうか、リボンが不幸にも柵に猫をひっかける役目をしてしまったんだ。
それを見た誰かが、猫を宙吊りにしたと思い込んでこんな騒動になっちまったんだ。

「あ・・・でも二番目のドブに浮かんでた猫は・・・」

「それは、車にはねられた猫が、はねられた勢いでドブの中に嵌まってしまったんだろう。その猫は解剖してはいないけれど、町の衛生部の車で、猫を運んでくれたみたいだよ。」

なーんだ。そうだったのか。

では、夕方の小寺先生の手の中にあった猫の死骸は?


次々と解明される一連の事件の真相に、厘花は呆然としていた。

「ボク、今日友達から、3匹目の猫も殺されたらしいって話を聞いたんです」

今度はストレートに小寺先生に訊いてみる。

「うん。実は今日の猫はその話の猫だと思うよ。」

小寺先生が、難しい顔をして頷く。

「今朝、わたしがクリニックの玄関を開けたときには、もう玄関先に箱に入った猫の死骸がおいてあったんだよ。」

「死んでたんですか?」

「そうだね。あの猫も窒息死だったよ。」

「ぇ?」

厘花が声を出すと、それまで黙ってふたりの会話を聞いていたしんがが声をかける。

「猫を殺したのが俺だと思ってたの?」

「・・・ごめん。」
小さくなって厘花が返事をする。
身体もどんどん小さくなって消えていきそうだ。

「参ったなぁ・・・俺、すごく動物が好きなのに。」

「ぇ?そうなの?・・・そうだよね。お父さんが獣医さんなのに・・・ボク、どうかしてたよ。」
すっかりしょんぼりしている。

「今日の猫は、飲み込んでいたのはラップだったんだよ。」
そんなふたりに小寺先生が説明する。

「今日の猫は、多分飼い猫だと思うよ。首輪はなかったけど、首輪をつけていたような跡が猫の首に残ってたからね。きっと食べ物といっしょにラップまで飲み込んでしまって、上手に吐き出せないまま窒息してしまったんだろう。飼い主がクリニックの玄関に置いていったんだろうと思うよ。」

「家族同然の飼い猫を?どうして人の家の前に置いていけるの?」

厘花にはわからなかった。
動物だって人間と同じ。生き物だ。

死んでしまったら、悲しいけれど丁寧に葬ってやるのが愛情だと思うけど・・・それを口に出す前に、小寺先生が続けて言った。

「このへんにもマンションが立ち並んできたよね。たとえば、飼い猫が死んでも、庭がない人はどうすると思う?他人の庭を掘って埋めてやることは無理だろう?」
眉間にしわを寄せて小寺先生が言う。

「思うに、うちは動物病院だ。そういったときにどうにかしてくださいと、祈るような気持ちで置いて行ったんじゃないかな。」

「だって、ペット専用のお墓だってあるのに・・・」

「ばーか!ペット用だって金がかかるだろうに!」

それまで黙っていた雪乃丞が割り込んだ。

「そこまでしてやろうなんてぇ親切な飼い主は、自分の可愛いペットにラップごと餌をやったりするはずないだろう。」

「うん・・・そうだよね。間違って餌についてたんだよね。気がつかなかったんだ・・・」

厘花もなんだかホイルやらラップやら、地球環境に優しくないものを飲み込んで命を落とした猫たちが、本当にかわいそうになってきた。

でも、それを殺されたと勘違いしてたなんて・・・恥ずかしい・・・。

「きみがうちの庭に迷い込んだときには、解剖を終えたその猫を、うちの庭に葬ってやろうと箱に入れて連れて行ったときだったんだよ。」

そうだったんだ。それを勘違いして、猫を殺した犯人を見つけたような気になってしまってたなんて・・・探偵気取りでしんがのあとをつけたり、病気のくせにしんがの悪行を止めようと家まで押しかけたり・・・。

厘花の浅はかな行動を、しんがはどう思ったろう。

「あの・・・ごめんなさい。小寺先生。・・・しんがくんも。」

「そうだよ、厘花。」

黙って聞いていたパパが厘花を諭すように話し掛けてくる。

「子ども同士でうわさ話をするのはかまわないよ。楽しいもんな。だけど、話に尾ひれがついてどんどん空想が膨らんでいくのは子どもの特権だと言われてもね。大人に迷惑がかかるようじゃしょうがないなじゃないか。」

「まあまあ、芹沢さん。」

小寺先生が割って入る。

「お陰で、芹沢さんとこうしてお知り合いになれて、ゆっくりお茶まで頂いてる。これは厘花ちゃんにお礼を言わなきゃならないと思ってたんですよ。」

「いや、本当に申し訳ない。厘花が失礼なことをしてしまって・・・悪かったね。しんがくん」

ますます厘花は小さくなる。

「ううん。」
しんがが首を振る。

「あしたから、こいつには学校で面倒見てもらいますから。」

にやにやしながら、しんがが厘花を見る。なにやら楽しそうだ。

「そうだ、小寺先生。せっかくですからうちで夕飯食べていかれませんか?」

「おお、いいですね。実は、しんがの母親はこいつが幼稚園のときに亡くなりまして・・・わたしがいつも食事を作るんですが、今日はあれやこれやでまったく何もできてなくて・・・」
頭をかいている。

「あら、それじゃ急いで用意しますわ。」

ママはにこにこして早速台所に立った。

しんがと厘花は顔を見合わせて、にやっと笑いあう。

どうやらこいつとは、うまくやれそうだ。

――お互いにそう思ったのかもしれない。



次の日の放課後。

厘花はしんがを誘って、キバっちとビット、4人で例の秘密基地に寝そべっている。

いつのまにかレジャーシートが敷かれ、その上には幼稚園で使ってたちっちゃな座布団が3枚、乱雑に散らばっている。

そのひとつをお腹とひざの間にはさんで寝転がり、厘花がしんがに訊いた。

「ね、そういえばしんがくんが転校してきた日、どうしてこのへんをうろついてたの?」

「そうそう、結構怪しかったよ」とキバっち。

ビットが続ける。
「それに、猫がしんがくんから逃げてきたように見えたし。」


どうしようかな、というような渋い顔でしんがが答えた。

「・・・実はそうなんだ。猫は俺から逃げてったんだ。」

「ぇえ~~~~~っ!」

一同驚いて、大声を上げる。

「ちょっとぉ、猫を虐待とかしてたんじゃ・・・」
キバっちが決め付ける。

「あーっ!もう!そんなことするはずないだろ。いいや、話しちゃえ!」


しんがの話はこうだ。

春休み中にクリニックの引越しが終わり、新しい学校で使おうと、しんがが文房具を買いに「ゆちぷ堂」へ行った。

店へ入っていったところ、ちょうどミゲールさんは誰かと電話で話していた。

ちょっと待ってね、というふうにしんがにジェスチャーをすると、ミゲールさんはまた電話で話し始めた。

聞くとは無しに店の中にいると、やはり耳にミゲールさんの声が聞こえてくる。

「そうなんですよ。この辺は急にノラ猫が増えたみたいで。うちの前のゴミ収集場も収集日にはかなり猫が集まってきてね。」

どこに電話してるんだろうと思ったら、どうやらこの町の清掃局とからしい。

「ゴミをあさっていたずらはするし、家の中まで入ってくるんだから。もうどうにかしてくださいよ。」

「はいはい。野良猫だけでもちろん・・・まあ、そうですか?」

「ぇぇ、見に来てくださいよ。はい。必ずね。お願いしますよ。」


しんがは考えた。

この辺は野良猫が増えたらしい。
ゴミを散らかしたり、家の中まで入っていたずらする野良猫たち。

町の役場に電話したらしいここの女主人。

・・・野良猫を捕まえてどうするんだろう?

しんがは更に考える。

野良猫だってもともと誰か人間が飼ってた家猫のはず。

それを家猫の去勢もせずに、爆発的に増えたからってどうかするのは人間の我侭じゃないか。

ずるいよ。大人は。

ペットはモノじゃない。生き物だ。

野良猫がエサを狙うのだって、当たり前だよ。

だって生きていくのに必要なんだもん。

ゴミを荒らされてイヤならば、ネットでもかけたり大きなゴミ箱に入れたりして工夫すればいい。

家に入られて困るんだったら、ドアを開けっ放しにしなきゃいい。

かわいそうな野良猫たち。

どうすればいいんだ?


「で、俺が考えたのは、野良猫にリボンをつけて、いかにもどこかで飼われているように見せることだったんだ。捕まえられないようにね。」

「うわ~!しんがくん、あったまイイ!」

ビットが素っ頓狂な声で褒める。

「・・・だろ?リボンや首輪がついてる猫だったら、誰も野良猫とは思わないし。でも無理にリボンをつけようとして猫に逃げられたり、ひっかかれたり大変だった。あの裏庭で会ったときも、猫にリボンをつけたんだけど、お陰でほら、ひっかかれたよ。」

「へーそうだったのかぁ・・・」
厘花が合点する。

「ただね・・・」
急にしょぼんとしたしんがが、3人の顔を交互に見て悲しそうに話す。

「俺がつけてやったリボンのせいで、柵にひっかかって死んじゃったんだよな・・・あの野良猫。次につけてやった猫は交通事故で跳ね飛ばされちゃったらしいし・・・」

結局、しんがは野良猫たちを救うことはできなかった。
それで自分を責めているらしい。


返って、助けようとおもってしたことが、猫にとっては事故につながったようなものだし。

厘花がふと気づいて言った。

「でも、しんがくん。小寺先生は、1匹目と3匹目は、窒息してたって言ってたよ。ううん、リボンでじゃなくて」

「え?」キバっちとビットが初耳って顔で厘花に先を促す。

「1匹目はアルミホイル。3匹目はラップを飲み込んでて、窒息したんだって」

「ホイルは多分エサを漁って間違って飲み込んじゃったらしいし、ラップはエサについてたのをやっぱり間違って飲んじゃったんじゃないか、って先生言ってた」と、続ける。

「そりゃそうだけど・・・」と、しんが。

「どっちにしても、人間のしたことがあの猫たちを死なせちゃったことには間違いないんだから。しかも、自分のペットを安らかに祭ってやることもできないんだよね。」

厘花たち3人も神妙にしんがの話に耳を傾ける。

「俺なんか、今はこんなに動物が大好きだけど、大人になったら、自分さえ良ければいい、ってヤツになっちまうのかなぁ・・・」

ふるふると厘花がクビを振る。

「そんなことないよ。しんがくん。しんがくんのパパ、小寺先生を見てごらんよ。動物が大好きで獣医さんになったんでしょ?しんがくんだって、動物好きな優しい大人になれるって!」

うんうんと他の2人も頷いている。

「ほんと、そうなりてーよ。」

空は今日も快晴。

仲良しトリオが仲良しカルテットになった記念の日。


                                          (おしまい)

月曜日。

週の初めからついてない。厘花は珍しく学校を欠席した。

昨日あれから厘花は発熱した。

夕方帰宅したママには、「布団を蹴飛ばして寝てたから」とお目玉をくらった。

「そういえば俺が部活から帰ってきたときは、リンは何もかけずに横になってた」と雪乃丞が証言したものだから、厘花の敗訴が決まった。

「今日一日おとなしく寝ていれば直るわよ。厘花は野生児だもの。」

おいおい、それって病気で寝てるあんたの娘にかける言葉かよ。

ま、しょうがないな。確かに体が熱いし、だるい。

でも、それよりも、なによりも、夢で会ったあの子が振り返った顔は誰の顔だったのか・・・

目も、口も、なにも覚えちゃいないけど、考えるだけで厘花は背中が凍るような恐怖を感じた。


「厘花!」

部屋のドアがそうっと開いて、ママが顔を出した。

「ね、何か食べたいものある?今からお買い物に行ってくるけど、欲しい物あったら買ってくるわ。」

「じゃ、【ちゃお】買ってきて。」

「食べ物じゃないじゃん」

「いひひひ!暇なんだもん。」

「うーん・・・確かに。」

渋い顔をして諦めたママは、またそうっとドアを閉めて出て行った。

「おとなしく寝てるのよ」の一言を残して。



さて・・・と。

身体はだるいけど、眠いわけじゃないんだよなぁ。
だって、もうかれこれ何時間寝てる?

お昼ごはんに、ママ特製の卵入りおじやを食べてからまた寝ちゃったし、一日の殆どを眠ってるって、今までのボクの記憶にあったかな?

ちぇっ!つまんねーの。

こんなときに風邪ひいちゃうなんて、弱っちーってば!

厘花の部屋のドアごしに、廊下に置いてある電話の鳴る音が聞こえる。

あぁ、ママ買い物に出かけてるんだっけ・・・しょうがねーなぁ。

とろとろと起き上がると、厘花ははだしのまま廊下に出て受話器をとった。

「はい、芹沢です。」

「あ!厘花?」

「おっ、その声はキバっちだな。」

「へー。厘花、風邪だって?厘花でも風邪ひくんだね」

「へいへい、お蔭様で!」

「ちょっとぉ、厘花が寝込んでるときにまたまたニュースよ!」

「えー、またリボンつきのネコでも殺されたとか?」

「はいはい、残念ながら今度はリボンはついてなかったけどね。」

「!」

また猫が殺されたって?

厘花は夢に見たあの猫の死骸を持った子の、のっぺらぼうだった顔を思い出して、思わずしゃがみこんだ。

「厘花?」

「ごめん・・・キバっち。ボク、やっぱ気分が悪くて・・・」

「風邪、本当にひどいんだね。そういや、しんがくんも今日は休みだ。あの子も風邪かな。」

「え。しんがくんも?」

「あたしたちってさ、マユ先生にしんがくんの面倒をみるように、って言われてたのに、ぜんぜんみてあげてないよね。明日もお休みだったら、しんがくんに授業のノートでも届けてやるかな。」

「・・・そうだね。」

「じゃ、厘花。ゆっくり休みなよ。学校に出てきたら、詳しく教えてあげるからさ。」

「うん。ありがと。キバっち」



厘花の頭の中を、3匹目の犠牲者、いや、犠牲猫がぐるぐる廻っている。

風邪ひいたなんて言ってられない。止めなきゃ。

これ以上こんなこと続けてたら、猫に飽きたらずに、今度は矛先を人間とかに向けちゃうかも!

しんがくん、それはいけないことだよ。
わかってるでしょ?


厘花はまだくらくらする頭を、ばしばしっと2回叩いて、カツをいれた。

ママが帰ってこないうちに、素早く家を出て行かなきゃ。

厘花はパジャマをベッドの上に放り投げると、いつものジーンズに穿き替え、また熱が出るとやっかいだ。

暖かだったけど薄いヤッケをうえに羽織った。

時刻はもう4時を過ぎていた。

厘花は学校の外側の道にそって「ゆちぷ堂」の前を通り、しんがの家のそばまでやってきた。

頭のくらくらは治ってきたような気がするけど、今度は寒気がしている。

でも、厘花の頭の中は、しんがと話をすることだけでいっぱいだった。
自分でも慌ててると思う。

でも、今しんがと話をしなければ、もっと重大なコトになるような不安が厘花を支配する。

しんがの自宅の入り口を探すのに、ちょっと手間取った。

KOTERA ANIMAL CLINICの入り口は勿論わかるけど、しんがの自宅の玄関がみつからない。

CLINICの建物を過ぎようとすると、建物の横の細い通路が、奥の庭らしきところへ続いているのを見つけた。

そぉーっと通路に入っていく。
通路は薄暗かった。

ガチャ!と扉の開く音が聞こえたと思うと、厘花の鼻先50cmぐらいのところで不意にドアが開く。

声を出す間もなく、白衣の背の高い男の人が厘花に背中を向けて、奥の方へと歩き出す。

男の人は両腕を前にして、何か箱のようなものを持っているみたいだ。

気づかれなかったことを幸い、厘花はそのままそろそろとあとをつけ始めた。

それにしても、他人の家の通路を、無断でこっそりと歩いている自分が信じられなかった。

厘花の胸はどきどきして、口から心臓が出てきそうなくらいだった。

暗い通路から急に明るい庭先に出たせいか、厘花は目の前が真っ白になった。

目を細めて明るさに慣れようとすると、吃驚した顔の男の人が厘花を見つめていた。

厘花も吃驚したけど、その男の人が手に持っていたものを見たとたん、胸のどきどきが遂に爆発して、何も見えなくなった。
そして、何も聞こえなくなった。

箱の中には、猫の死骸・・・!!



・・・・・・。



どれくらい時間が経ったんだろう。

目が覚めたときには、厘花はもう自分の部屋で、自分のベッドで寝ていた。

気分はそれほど悪くない。

あの男の人と猫の死骸も夢だったんだろうか・・・?

ベッドから起き上がってそろりそろりと動き出す。

良かった!頭も痛くない。

窓にはカーテン。どうやら既に夜の帳(とばり)が降りているようだ。

そうだよ。やっぱり夢だったんだ。みんなみんな夢。

歯ブラシでもするか、と廊下に出た厘花は、リビングのほうで何人かの話をする声を聞いた。

お客さんかしら、と音を立てずにリビングのドアのガラスごしに覗き込む。

「あ!」リビングの中から、男の子の声がした。

雪乃丞の声じゃない。

「あら、厘花。目が覚めたのね。」

リビングの中には、厘花のパパとママ。雪乃丞。

そして・・・しんがと夢の中で見たような男の人がいる。

「あなた、しんがくんの家の庭で倒れたのよ。しんがくんのお父さまが運んでくださったの。お礼をいいなさい。」

「ボク、やっぱりしんがくんの家に行ったんだ・・・」

お礼も言わずに厘花が独り言のようにぽつんと言った。

「まだ、ねぼけてるのか?こいつ」

パパが苦笑いをする。

「ボクね・・・しんがくんと話をしようとして、しんがくんちまで行ったんだけど、玄関がどこなのか探してて、細い通路にはいっちゃったんだ。ごめんなさい。」

厘花が説明しようとすると、しんがの父――小寺先生が
「わかったよ。確かにうちの玄関はちょっとわかりづらい。クリニックの玄関が表にあるんで、うちの玄関はあの通路にただドアが一枚あるきりなんだ。」
とさえぎる。

そして「きみは私が持っていた猫の入った箱を見て倒れたんだね」と優しく言った。

「きみが倒れたあと、うちのしんがと同じくらいの年かなと思って、やっぱり風邪で寝込んでたしんがを起こしてきみを確認してもらったんだよ。きみも風邪で具合がわるいのに、どうしてしんがを尋ねてこようと思ったの?」と訊いた。

厘花は、これまでの猫殺しの一連の事件について言おうかどうか迷っていた。

しかし、それはいかにもしんがを犯人扱いしていたことを告白するようで、ためらわずにはいられなかった。


(つづく)

翌日の土曜日も日曜日も、厘花は探偵を気取って「誰がなぜ猫たちを殺したか」の命題を考え続けた。

ちょうど厘花のパパもママも親戚の法事だと言って一泊で出かけている。

厘花は兄の雪乃丞と二人っきりだった。

雪乃丞は中学2年生。

まるで歌舞伎役者みたいな名前だが、ママが若かりし頃、まさに下町の歌舞伎役者、雪の丞という役者のおっかけだったせいで、芹沢家の長男は時代錯誤の名前をつけられたらしい。

本人はいたって普通の中学生で、小学生のときは大嫌いだった雪乃丞という名前も、中学でバスケ部に入って活躍するようになると、雪乃丞のファンからは「雪さま」と呼ばれて、今じゃスター気取りだ。

厘花はそんな雪乃丞を「おにい」と呼ぶが、雪乃丞のファンは厘花を「雪さまの弟」と信じて疑わない。

たぶん、雪乃丞が厘花を「リン」と呼ぶせいだろう。

「弟」の厘花まで「リンくん」と言われる羽目になっている。

雪乃丞は料理が得意だ。

目玉焼きだって、焼きそばだって、ママと同じくらい上手に作れる。

厘花は女の子ながら、料理を作る、ってぇのは苦手だ。
・・・というか、大嫌いだ。

土曜日の夕飯は、雪乃丞特製のカレーライスだった。

厘花は男勝りのくせに、辛いのがまったくダメ。

だから雪乃丞は、厘花の分だけケチャップをたっぷり入れて甘口のカレーにしてくれる。

「ねえ、おにい?」

「美味いか?リン。」

「ん。いつもの味。厘花、おにいみたいな旦那さん欲しい!」

「馬鹿か、おまえ?」

「いひひひ!」
笑いながら、厘花はゴホッゴホッっと咳き込んだ。

「あれ?辛かったか?変だな。調節したはずなのに。」

「いや、ボク、朝からちょっと喉痛くて。」

「なんだ、早く言えよ。だったらカレーなんかにしなかったのに。」

「おにい、カレー以外に夕飯作れたっけ?」

「馬鹿。」

またもや雪乃丞に馬鹿呼ばわりされても、厘花はへらへら笑いながらカレーをたいらげた。


日曜日は雨だった。

雪乃丞は厘花に、「熱が出るかもしれないから寝てろ」と言ってバスケの部活に出かけていった。

厘花はベッドに横になってはみたものの、布団もかけずに窓ガラスにたたきつけられる雨粒を見ていた。

「誰がなぜ、猫を殺したのか」その命題を考えているうちに、雨粒がガラスに当たる音が子守唄になった。

瞼がどんどん重くなって、いつの間にか眠ってしまったらしい。

目が覚めたときには、もうすっかり雨が上がっていた。

雨上がりの空は、快晴だ。

机の上の時計を見ると、お昼をとうに過ぎている。なのに不思議と空腹は感じなかった。

夕べの夕飯をまた昼飯にしろ、とは雪乃丞の命令だ。またしても食事はカレーライス。

お腹もそれほど空いてないんだから、今からちょっと外でもぶらついてくるかな。

それでお腹が空いたら、パンでもかじればいいや、と厘花は家を出る。



学校に行けば誰か遊んでいるかもしれない。そう思って学校に来たけれど、だあれもいやしない。

ひとり鉄棒で懸垂したり、地獄回りしたりして遊んでいた。

両足を鉄棒に引っ掛けて、宙吊りになって校舎の方を何気なく眺めていると、
「あれ、しんがくんかなぁ・・・」 
しんがらしき男の子が、厘花たちの秘密基地のある校舎の裏庭に消えていくのがさかさまに見えた。

慌てて鉄棒から下りた厘花は、ダッシュでしんがのあとを追った。

裏庭に出たけど、しんがの姿は見えない。

なんだか急に心配になって、秘密基地を覗いてみようと思った。
細心の注意を払って秘密基地まで忍び足。

さっきの男の子、本当にしんがだったんだろうか?

さかさまだから、確信はなかった。

そぉっと藤のつるを右手で上げてみる。


後姿の人影。

その人影が、いきなりくるっと首を回して厘花の方を見た。

立ち上がって厘花に向かってくる。

その子の左手には黄色いリボンの首輪をした、猫の死骸。

リボンをつかんでるから、猫はぶらぶら揺れてた。

そして右手には・・・

「うわ~~~~~~~~~っ!」

自分の声じゃないみたいな、叫び声。

厘花の両足は、そこから逃げたくても地面に張り付いたように動けなかった。



「ひ~~~~~~~!」

「リン!リン!厘花っ!」

カッっと目を見開いた厘花が見たものは、雪乃丞のまんまるな吃驚した目だった。

「どうした?リン?汗かいてるぞ。怖い夢でも見たのか?」

気がつけば、厘花は自分のベッドで横になっている。

「夢?」

「夢、見たんだろ。部屋の外からリンって呼んでも返事がなくて・・・寝てるのかと思ったら急にすごい叫び声あげるんだもんな。ビックリだよ」

「夢・・・だったのか・・・」

それにしても、リアルだったな。あの夢の中の男の子は、しんがだったんだろうか?

それとも、ほかの誰かだったのか・・・?

背中の汗が冷たい。
(つづく)

王子のクラスメイトのお母さんに、土曜日、あるイベントでお会いしました。

その時された、お話です。


そのクラスメイトは、よく王子と遊ぶ近所のHくん。


Hくんたら2ヶ月ほど前、スケートで遊んでいる最中に転んだそうで、

なんと右の利き足を骨折してしまいました。


入院するほどではないけれど、ギブスをして松葉杖の毎日。

もちろん学校へは、Hくんのお母さんが車で送り迎え。


でも、Hくんのお母さんはやはりWorking mamです。

ランドセルや他の荷物を持って、クラスまで送り迎えなんてとんでもないあせる

出勤時間は気になるし、Hくんは上靴も自分ではけない状態で

どうしようかと思案していたところ・・・


さあ、我が愛する王子の登場ですよラブラブ


それから毎日、Hくんの登校を昇降口で待って

彼に上靴をはかせ、ランドセル、手荷物を持って

クラスまで送っていたそうです。


Hくんのお母さんにお礼を言われなければ

知らずじまいの小さな親切でした。


王子、あんたは偉い!すごいねキラキラ


・・・って褒めてやったとたん・・・


それからというものの、誰にでも

「俺って、すごいんだぞ!」

って、威張るようになってしまいました・・・汗


はぁ?

なんなんだよ、それ~~~ハートブレイク


黙ってするから、小さな親切なんだよ。

自分で威張ったら、ただの親切の押し売りやん?


やっぱり、ハハの子どもでした・・・il||li _| ̄|○ il||li

「わくわく手作り♪」 ブック投稿第1弾ですよラブラブ


banana choco cake


姫も王子も春休み中。

「何か作りたい!」の声に応えて

おやつを手作りしてみました。


チョコ生地にバナナの角切りを混ぜ込んで

蒸し器で15分。

みるみる間に膨らんで、美味しいおやつになりました。

「それで?」

ビットが蒼い顔で尋ねる。

「だからさぁ、猫を殺したのはあの転校生かもね、ってキバっちが言うんだよ」

5年2組の教室の窓から、正門のほうをじっと見ながら、厘花が答える。

「確かに俺が見たのは緑のリボンをつけた猫だったけど・・・」

「緑のリボンをつけた猫なんて、そのへんにごろごろいる?」

キバっちが真面目腐って解説を始める。

「だいたいあの転校生、放課後にあんな校舎の裏側にいるのがおかしいよ。他にそんなところに出没する子、誰かいるの?」

「いる。」

厘花が即座に答えた。

「えぇ!誰さ」ビットが鳩が豆鉄砲でもくらったような顔をする。

にやりと笑って厘花が答える。
「ボクたちさ」

「ちょっと、厘花。当たり前でしょ。だいたいあんたがあたしたちを連れ出してあそこまでいったんだから。」

キバっちが膨れっ面で厘花のわき腹をくすぐった。

「ぎゃははは!やめてよ!ボク、わき腹だけは弱いんだから!」

「へん!スポーツ万能の厘花も、くすぐりの術だけには弱いんだね。」
こちらはニヤニヤしながらビット。

「猫はどうして逃げてきたか、って考えれば、そこに居たのがしんがくんだろ。しんがくんが何かしようとして猫が逃げたってしか考えられないよ。」

ビットがいかにも秀才らしい物言いでふたりに断定する。

「そうかな・・・ボク、しんがくんってそんな悪い子に思えないんだけどな。」
「厘花ったら、一度もしんがくんと口きいてないくせに。」

てへへ・・・、と舌をだした厘花が慌てて窓から離れた。

「どうした、厘花?」
ふたりが厘花に続く。

「やばいっ!しんがくんが、また校舎の裏の道から出てきて、今、正門から出てくよ!」

どたどたと廊下に走り出た3人は、一目散に昇降口へと向かって行った。



しんがは、ゆったりした足取りで学校前の「ゆちぷ屋」の前をぶらぶらと歩いて行く。

かっきりお店5軒分の後ろから、3人は後をつける。

「ねえ、尾行って隠れながらするもんじゃないの?」
わくわくした声でキバっちが厘花に言う。

「バカね。それこそ尾行してますって看板しょってるみたいじゃん。」

「そうそう、キバっち、テレビのサスペンスの見すぎだよ。」

厘花とビットがけらけら笑う。

また膨れっ面になったキバっちは、むっとして言い返した。

「だって、しんがくんの家がどこかわからないのに、遠くだったらこのままずぅーっと付いてくのもおかしいじゃん。」

「あれ、キバっち。結構まともなことを・・・」

「なんですって!こら!厘花!」

厘花がいつものように逃げようとしたけど、キバっちが追いかけてこない。

「ん?」

振り返ってキバっちのほうを見ると、キバっちとビットが顎を右に向けて合図している。

どうやら、しんがはこの先の交差点を右に曲がったらしい。

「行こうぜ!」

厘花が慌てて駆け出した。

この先の交差点は変形の5差路だ。十字路のまっすぐと右に曲がる道の間に、もうひとつ道なりに右方向に行く道もある。

結構狭い道が5つの方向に分かれているから、右と言っても一番右とは限らない。道なりに右に曲がったかもしれない。

床屋の角を勢いよく曲がった厘花が、あっと立ち止まった。

厘花が角から2件目のお店の看板を見ている。

ANIMAL CLINIC 

白地に青い文字の看板。文字の両脇には犬と猫のイラストが描かれてある。

「CLINIC?」

「どうしたの?厘花」

「ここって・・・動物病院?いつできた?」

「おばあさん先生がやってた整形外科だったよね、ここって。」

キバっちが看板を見上げる。

はあはあと息をはずませてビットがやっと追いついた。

「ここの動物病院って、整形外科のおばあさん先生が亡くなってからずっと閉まってたけど、やっと次の病院になったんだね。俺も今日初めて見るよ。へー。動物病院なんだ。」

「あれ?しんがくんは?」
キバっちが思い出したように厘花に尋ねる。

黙って厘花は看板を指差した。

「なに?」

厘花に並んで、ふたりがまた看板を見上げる。

動物病院の看板には

  KOTERA ANIMAL CLINIC

と書かれてある。

3人で顔を見合わせた。

「あ・・・ここって・・・しんがくんのお家なんだ!」

どうやら、ふたりともしんがが急に居なくなったのが何故なのか、飲み込めたようだ。


次の朝も、5年2組はにぎやかだった。

昨日と同じようにりりぃが厘花に寄ってきて、「厘花ちゃん、まただって」と話しかける。

「え?またって・・・?」

「うん。今度は首は吊ってなかったみたいだけど、やっぱり学校のそばの側溝で猫が死んでたんだって。」 

りりぃの目にはうっすらと涙さえ見える。

「側溝?」

「学校の正門の横から、ずうっと道路の横に下水が流れるドブがあるでしょ?そのなかに猫が浮かんで死んでたらしいよ。」

厘花には側溝という言葉はよくわからなかったけど、道路の端っこには確かにドブにフタをしてあるところと、してないところがあったような気がする。

「かわいそうだよね。野良猫じゃないみたいよ。青いリボンを首にしてたんだって。どこかの飼い猫だよね。車にはねられたのかなぁ。」

りりぃの家ではハムスターを飼ってたはずだ。
動物が大好きなんだ。

だから自分の飼っている動物じゃなくても、生き物が死んだって聞くと悲しくてたまらないんだろう。

しかも2日も続けて猫が死んだ(殺された?)となれば、心底そんなことをする人間を許せないに違いないさ。

それにしても今度は青いリボンか・・・?

リボンをつけた猫を次々と殺していくような、殺人鬼、あ、ちがっ!殺猫鬼がこのへんをうろついているんだろうか?

しんが?しんがは厘花の席の後ろに黙って座って、ドリルをやってる。

しんがが猫を次々と殺してるのかしら?まさか!

勇気を出して、しんがの前の自分の席にパタンと座り、後ろを振り返って「おはよ」と言ってみる。

「おはよう。」顔を上げずにしんがが答える。

「ね、しんがくんの家って、学校から近いの?」

すると、しんががいきなり顔を上げた。

「なんでそんなこと訊くのさ」

鳶色の瞳は怒ったように、まっすぐ厘花の胸を射す。

だけど、厘花も負けてはいない。

「ボクはさ、西側の門から出ると、かっきり5分で家に着くんだ。しんがくんちはどの辺なのかな、と思ってさ。」

唇をゆがめるように左側の頬で笑うと、しんがは厘花にこう言った。

「俺の家がどこかなんて、聞かなくたって知ってるじゃんか。昨日、パパの病院の前で3人口を開いてぽかーんとしてたくせに。」

厘花の頬が紅潮した。

こいつ、知ってるくせにわざとボクに嘘を言わせた。

鳶色の瞳は、ほら、猫を殺した殺人鬼の目だよ。

猫を殺したくせに。
猫を殺したくせに。
猫を殺したくせに!

「新しい動物病院が、しんがくんの家だなんて、今初めて知ったよ。そう、あそこが君の家なのか。」

言い捨てて、厘花は正面に向き直った。背中だけはしんがの一挙一動を監視してるけど。

しんがはドリルの勉強に戻っているみたいだ。

こいつは本当に猫を殺したのかもしれない。

とにかく、やなヤツ。

ちょうどそのとき、朝の会の予鈴が鳴って、マユミ先生が教室に入ってきた。


今日の放課後は、厘花は一人だった。

金曜日はキバっちはピアノ教室の日だし、ビットはビットのママがやってるお習字教室で、ママのお手伝いだ。

キバっちはもう5年近くピアノを習ってるっていうのに、いつまでたっても発表会で間違えずに弾いた事がないほどピアノが苦手らしい。

ま、キバっちらしいけどね。

ビットといえば、秀才のくせに字まで上手いんだ。

先生のママに特別に教わったわけじゃないのに、5年生でもう2段の腕前だって?

だから今じゃ低学年のお習字教室の生徒さんに、ひらがなの書き方なんか教えてるらしいよって、りりぃちゃんから聞いたことがある。

りりぃちゃんだって、ほんとに女の子らしい長い髪で、その長い髪を高く結ってバレエを習ってるんだって。

ボクのママが言うんだ。
「厘花もちょっと髪を長く伸ばせばとっても可愛いのに。ちっちゃいときはママはあなたの髪の毛を結ったり、編んだりするのがとても楽しかったのよ。」
なんて気持ち悪いことを言う。

ボクの髪の毛を伸ばすんだって?
毎日シャンプーするのも嫌いなのに、そんな長い髪にしたら、乾かすのも面倒じゃんか。

わかってないな、おばさん。

子どもはやりたいことが山ほどあるんだよ。
シャンプーとブローなんかに手間隙かけてちゃ、冒険だってできなくなるんだから!


ランドセルを肩にひっかけて、めずらしく正門から学校を出る。

厘花の足は、まっすぐ「ゆちぷ堂」に向かった。

「ゆちぷ堂」の入り口のガラス戸を、がたがた音をたてて開け中に入る。

店の奥に、ミゲールおばさんのでっかい体が見えた。

「こんちは、ミゲールさん。」

「おや、厘花ちゃん。今日はひとりかい?珍しいね。」

「みんな習い事。ボクは習い事してないからさ。」

「そうかい。いまどきの子どもは可哀想だねえ。むかし、おばさんが子どもだったときは、毎日毎日泥んこになって暗くなるまで遊んだもんだけど。」

「しょうがないよ、いまのご時世じゃ。勉強したり手に職でもつけなきゃやってけないよ」

大人みたいに肩をすくめる厘花を見たとたん、ミゲールおばさんったら真っ赤な口紅をつけた大きな口を最大級におっぴろげてゲラゲラ笑った。

「厘花ちゃんも、どんどん大人になるんだねぇ・・・」
目を細めて厘花を見つめる。

「ね、ミゲールさん。20cmの物差しある?」

「はいよ。かわいい絵のついてるのがたくさんあるよ。どれにする?」

「やだなぁ、子どもじゃないんだから、そんな猫とかのキャラクターは・・・」

言いかけて厘花ははっとした。

「ね、ミゲールさん。」

「なあに?厘花ちゃん。」

「この店の外の柵んとこで、猫が死んでたってほんと?」

「ああ、いやだねぇ・・・」

大仰に天を仰いでため息をついたミゲールさんが、厘花に言った。

「あたしゃ猫が大っ嫌いなんだよ。最近このへんは野良猫が多くてね。誰か餌でもこっそりやってるんじゃないかって思えるくらい、急に増えたんだよ」

「へー!野良猫がいっぱいいるんだ。」

「そうよ。ごみの収集日に生ごみの袋を荒らしたり、開けておいた裏のドアから入ってきて、家の中で糞をされたり、いやな思いを何度もしてるんだ。だから猫が嫌いだっていう薬を店の周りにまいたって、ぜんぜん減りゃしない」

「そんな薬があるの?」

「ああ、あるさ。隣の雑貨屋においてあるよ。猫が嫌いな匂いがあるらしくて、それで作った薬みたいだよ。ま、ちっとも効き目はないけどね。」

「ふーん・・・」

厘花はミゲールおばさんと話をしていて、また犯人候補が増えたな、って思った。

ミゲールおばさん、あなたは猫にいたずらされて、猫を殺しましたね?



ああ、厘花の想像はどんどん膨らんでく。
(つづく)
その子は瞬きをしなかった。

担任のマユミ先生が黒板にでかでかと「小寺 しんが」と彼の名前をチョークで書く間も、ずっと教室の後ろの掲示板を瞬きしない鳶色の目で睨んでた。



転校生を紹介している5年2組は、ちょっとザワザワしている。

「ねぇ、厘花。あの転校生、ちょっとカワユクない?」

隣の席からキバっちがちょんちょんと脇腹を突つく。

「ふーん・・・それより、名前のしんがっていうのはどんな漢字なんだろ」

「え。マユ先生がひらがなで書くくらいなんだから、あたしたち5年生がまだ習ってない漢字なんじゃない?」

「そっかぁ。ボクらがまだ習ってない漢字かぁ・・・」 

「厘花さぁ、あんたいつまでボクなんて男みたいな言葉、使ってんのよ」

呆れたように、キバっちがボクに言う。

「だいたいさぁ、【厘花】なんてカワイイ名前なのに、いつもショートパンツしかはかないボーイッシュな男おんなにいつの間になっちまったんだろうねぇ」

「余計なお世話!」

ふん、と厘花はキバっちに背中を向ける。



「芹沢さん、木場さん!」マユミ先生の大きな声が教室に響き渡った。

「あなたたちは休み時間と授業中の区別もつかないみたいね。お喋りが楽しそうね。」

「あ・・・いえ・・・あ、あの、マユ先生!厘花が、小寺くんの席は一人少ないうちの3班がいいんじゃないかって言ってたんですぅ」

あせりまくってキバっちったら何を言い出すのやら。

「ああ、小寺くんの席ね。そうね、3班はよそより一人少ないから、芹沢さんの後ろの席にしましょうか。」

ほーら、やったぁ!とばかりに、お調子者のキバっちが窓際に置いてある使っていない机に飛びついた。

ふっ!っと両足を踏ん張って、しんがのために厘花の後ろにえっちらおっちらと持ってくる。

「ほら、小寺くん。」マユミ先生がしんがを連れて厘花の横に立ち、

「こっちの元気な力持ちでやせっぽちさんが木場さん。そしてあなたの前の席がボーイッシュな芹沢さんよ」

それから今度はキバっちと厘花に、

「こら、二人とも。自分たちで小寺くんをここに呼んだんだから、しっかり面倒みてちょうだいよ」とにやにやしながら命令するのだった。





「ちょっと、厘花ぁ。あんまり早足で歩かないでよ!」

厘花の後ろからキバっちが、声をかける。

「そうだよ。俺だってなかなか追いつけないんだから。」

ビットがふうふう荒く息を吐きながら、そのあとをキバっちが続く。



今日は水曜日で、週に一日だけの5時間授業の日。

小学校も高学年になると、授業は長いしクラブ活動だってあるし、それに塾だってある。
けっこう忙しいんだ。

だからこんな天気が良くて早く帰れる日は、とーぜん仲良し3人組で日がな一日遊び呆けることになる。

厘花は3人の先頭をきって、校舎の裏庭に出る道をせっせと早足で歩いている。



ビットはちょっと・・・いや、かなり太目の男の子だ。名前は【安達 美人】と書いて「あだち よしと」というのだが、美人だなんてとんでもない!色が白くて運動が大の苦手。

成績は学年で一番の秀才だけど・・・。友だちからは美人をもじって、ビットって呼ばれてるんだ。

ビットの背中には黒いランドセルがそれまで汗をかいてるみたいに、ふうふう言いながら飛び跳ねている。

ビットのすぐ前をまるでおばあさんみたいに腰を曲げながら、やっとキバっちが追いついてくる。

「なんだよ、ビットもキバっちも。今日はボクらの基地によさそな場所を見つけたから見せてやるって言ってたじゃないか。ボク、早く行きたいんだよ。」

「だからさ、厘花。5年生にもなって秘密基地っていうのは・・・」

息を荒げてキバっちが言い返す。

「ねぇ、その秘密基地、なんか食べたり飲んだりできるの?」

にこにこしながら、ビットが訊いてきた。

「もちろんさ!だってボクたちの秘密基地なんだから、いくらでも好きなことが出来るんだよ。マンガを読んだっていいし、おやつを持ってきて三人で食べたっていいし。そこはさ、この先の校舎の裏庭にあるんだ。茂った木がちょうどトンネルみたいになってて素敵なところなんだ」



「わーい!じゃ賛成!厘花に続け~!」ビット大賛成。

「ちょっと、ビット!あんたって・・・」キバっちは、あんたって食べたり飲んだりできればどこでもいいんでしょ、と続けようとして、足元を何かがかすめて走って行ったのに驚いて尻餅をついた。

「な、なに?今の?」

「猫じゃない?」厘花が首をかしげて自信なさそうに言う。

「うん、猫だ。」ビットが確信を持って言い放つ。

「首に緑色の首輪がついてたよ。ちょうちょ結びになってたから、リボンかもしれないけど。」

「あら、ビットってば、目がいいのね。」感心したようにキバっちがビットを褒める。

「なんだろ、あの校舎の角からムキになって走ってきたね。まるで逃げるように。」ビットが続ける。

「逃げるようにって、猫ってみんなわき目もふらず走るもんじゃないの?」厘花が不思議そうにビットに訊く。

今度はビットに代わってキバっちが答える。

「そうねぇ、猫ってさ、ふつうはそろりそろり歩いてて、なにか吃驚したりしたときに、わき目もふらずに逃げてくんじゃないの?」

「ふうん・・・ボクたち、立ち止まって喋ってたのに、猫は何に驚いて走って行ったんだろうね」

厘花の問いに二人とも「さぁ・・・ね。」「校舎の裏になにかあるのかな」とか言いながら、あまり気にもしない様子で「じゃ、厘花。早く行こうよ!」と厘花を促して猫が走ってきた校舎の裏への道を進もうとした。



「あれ・・・あの子・・・?」キバっちが厘花に話し掛ける。

猫が走り出てきたその道から、あの転校生がゆったりと歩いてきた。

「小寺くんだったよね?」キバっちがひそひそ声で厘花に言う。「ん。そうだよ」

「なに?あの子だれ?」隣の1組のビットはまだ2組の転校生を知らない。

「今日、転校してきた子だよ。小寺くんって言うの!」

前から歩いてくるしんがに聞こえちゃうんじゃないかと思うくらいの、ひそひそ声とは思えない声でまたキバっちがビットに教えてる。

こちらの声が聞こえているのか、いないのか、知らん顔をして小寺しんがは3人の横を歩いて行った。

「ちぇっ!挨拶もしねーでやんの!」またキバっちが噛み付く。

「いいじゃん。ボクらだってさよならも言わなかったんだから。」

ビットがもっともなことを言って、キバっちをたしなめた。

猫としんがが去っていった反対側の道をまだ眺めていた厘花も「そうだね。」と踵を返して、キバっちとビットの後に続いていった。



厘花お勧めの場所は、確かに秘密基地にぴったりだった。

学校から裏山に続く崖には石積みの土留めがしてあるけれど、篠がうっそうと茂っていて、おまけに藤のつるがからまった桜の木であまり日が当たらない。

用務員のおっさんが世話をしている花壇の向こう側に、すだれのように桜の木から下がっている藤のつるが、その場所を隠している。

すだれの藤づるを持ち上げると、ほーら君たちの秘密基地だよ、とばかりに奥行き2メートルほどの篠で囲まれたトンネルだ。

トンネルの中は、崖にあるせいでちょっと斜めになってるけれど、ここにゴザでもしけば、雨露もしのげそうだ。



「いいじゃん、ここ。」

キバっちもひと目で気に入ったみたい。もうすぐ5月だ。

膨らんだ藤のつぼみが、いっせいに開いたら天国みたいになるんだろうな、って厘花は思った。

「お菓子は置いといたら、さっきの猫なんかに食べられちゃうよね?」

気弱そうにビットが厘花に訊く。

「あははは・・・!ビットったらそんなこと心配してるの?猫に食べられる前に、ビットがお菓子を残しやしないって!」

厘花はビットの心配を笑い飛ばした。

ほんとうにもうビットったら、食べ物の話になると、つまらない心配ばかりしてる。

でも、楽しい友達だ。キバっちとビット。君らはボクの最高の友達だ。

「ここのことは、ほかの友達には内緒だよ。」

指切りをし合った三人は、三人だけの秘密基地を手に入れた。





次の日の朝、5年2組の教室に入っていった厘花は、いつもの朝より騒がしいクラスに何かいやな予感がした。

「ねえねえ、厘花ちゃん。知ってる?」

「なぁに?りりぃちゃん」

クラスメイトのりりぃが、クラスが騒がしい理由を教えてくれた。

「あのね、学校の前にある文房具屋さんあるでしょ?」

「ああ、ゆちぷ屋ね。あの面白いスペイン人のミゲールおばちゃんがいい味出してるよね」

「え、ミゲールさんてスペイン人なんだぁ。」

「知らなかったの?りりぃちゃん。あのおばちゃんさぁ、おばちゃんが暇なときにお店に買いに行っちゃうと、スペインの話とかしてくれて面白いんだよ。」 

「わぉ!今度消しゴムでも買いに行って、話聞かせてもらわなきゃ」

「でさ、なによ、りりぃちゃん。そのゆちぷ屋がどうかした?」

文房具のゆちぷ屋の看板おばちゃん、ミゲールさんは本当は生粋のスペイン人じゃなくて、日本人とスペイン人のクォーターらしかったが、面倒なので厘花はミゲールおばちゃんはハーフ、ということにしておいた。

詳しく説明しちゃうと、お祖父さんがスペイン人なのか、お祖母さんがスペイン人なのかまで教えるようだもんね。ぺろっと心の中で舌を出す。

「そのゆちぷ屋とゆちぷ屋の隣の雑貨屋さんの間に、鉄で出来た柵があるでしょ?」

「うんうん。」

「その柵のてっぺんから、野良猫がクビを絞めて殺されて、吊るされてたんだって!」

「えっ!」

厘花は背中がゾクゾクした。
それが怖くてなのか、怖いもの見たさでうずうずしているのかわからなかったけど。

そうか。それでクラス全体がその噂でざわめいてるのか。



ゆちぷ屋は学校の正門のほんとに目の前の文房具屋さんだ。

厘花はいつも裏門の西側門から出入りするので、そんな騒ぎにはまったく気がつかなかったらしい。

「厘花」

キバっちが寄ってくる。

「知らなかったよ。猫、殺されて吊るされてたんだって?」

一瞬息を飲んだキバっちが、震えた声で言った。

「・・・ね、厘花。吊るされてたのって、緑色のリボンだったらしいよ」

「!」

キバっちの二重の大きな目と、厘花の一重の切れ長の目が絡まりあって凍りつく。



緑色のリボン・・・?猫・・・?

昨日、どこかで見たよね?



(つづく)

夕べのお風呂でのこと。


王子とふたりでまったりしたバスタイムですよ音譜


「ねえ、王子。3年生になったら何組になるだろうね?」


「うーん。何組でもいいな。」


「でも、○○ちゃんと離れちゃったら寂しいでしょ?」

(○○ちゃんとは、現在王子の彼女であ~る)


「え?平気だよ。」


「あら、そうなの?」


「3年生になったら、一回彼女をリセットして、

他の女を彼女にするんだ♪」


・・・・・・ はぁ???


目がテンのハハでありました。



本日職場で、この話をしましたら、

職場の上司「ケンじぃ」がおっしゃいましたわよ。

          ↓

  彼は若くして孫が出来たので、わたくし尊敬の念を込めて

  「ケンじぃ」とお呼びしておりますの。


「王子をこれからは コレクター と呼ぼう!」


・・・・・・ はぁ???


ああ、どっちもこっちも 変なのばっか。


春休みだというのに、朝6:30起床。

なに?どうかしたのかい、王子?


さっさと着替えを済ませて、顔を洗い、

コタツに陣取ったと思ったら、早速DSですかい・・・・il||li _| ̄|○ il||li


合間に朝ごはんを食べて、その後もDS・・・


「ちょっとちょっと!勉強してからにしてよ、遊ぶのは。」


「いや、遊んでんじゃないから!」


「はぁ?」


「大人の頭脳トレーニングだから。」


あ、そーなの。そういうこと。


で、遊びじゃないって?


チャウヤロ! (≧∇≦)/☆(.. ) 

コ゛ルァ━(゜Д゜Д゜)━!!!!!  

朝には朝のやることがあるだろって!


○ンコするとか、歯磨きするとか・・・


やった?・・・終わったのね?



・・・・・・で、DS?


ε= (´。`) はぁ・・・ どうぞご勝手に。

3月29日(水) アメブロ初投稿。


うちの「悪ガキその1」は新小5の女の子「姫」である。


職場で仕事中にケータイが鳴る。

普段から鍵っ子の姫には、

「学校から帰宅したらハハのケータイを鳴らせ」

と言ってあるけれど、只今春休み中。


今のところ、ハハのケータイに電話を掛けてくるときの用事は、

大概「友だちと遊んでもいいか」だ。

その遊びが、外でなのか、家でなのか、

はたまた友だちの家であるかで、ハハの答えも違ってくる。


しかし、今日の電話はそういう類ではなかった。


「ねえ、ハハ。姫のドリル知らない?」


夕べ、姫が春休みの宿題が出ないのにかまけて、

遊び呆けているのを咎めたら、

勉強するのがない、と言いやがる。


で、4年生のまとめのドリルで、

答えをノートに書いていたのがあったのを思い出し、

無傷のドリルをコピーして一日2枚ずつやるようにと渡したのだった。


ん?

そのコピー元のドリルがどうしたって?


「ドリルがないんだよ」


「だって、コピーしたのに答えを書けばいいんだもの、いらないでしょ、ドリル」


「でも、終わった学年のだから、しまっておかなきゃ」


晴れはは~ん・・・読めたぞ。

姫、ドリルの巻末についてる答えを、書き写すつもりだな。


「あー、ドリルね。ハハがしまってあるから、心配しないでもよろし。」


「えー!なんで?」


「ハハが帰ったら答え合わせするからね?しっかりやるんだよ」


「・・・・・・はい」


勉強ばかりっていうのもなんだけど、

やっぱり中学校に行くまでに、基礎の学力くらいつけなきゃね。


それでも、実際に姫がドリルをやってるかどうか

ほんと、見ものだわ。