これについての話がある。あるところに老女が五人集まって茶飲み話をしていた。一人が言うには、この五人がおそろいの衣装の浴衣で踊りに出たが、すぐに昔話になった。
「本当に光陰春の如しだね」というと、
「今あなたが光陰春の如しといったけど、それってどういう事」
と訊いた。その老女は答えて
「私は生まれつき目がよく、千里先も見える感じでしたけどまだ昨日のことだと思っていたら、今日は早めに霞がかかっているので、春のようだねといったのよ。」
と笑って答えた。次の老女は
「実にその言葉通りよね。でも光陰夏の如しよ。」
という。皆がそれはどういうことかと尋ねると、笑って答えた。
「私は生まれつき耳がよく、隣の家のささやき声でもよく聞こえたのよ。まだ昨日か一昨日の事かと思っていたら、今朝は耳にセミが鳴いているのよ。」
と笑った。次の老女は笑って
「ほんとに面白いわね。でも、光陰秋の如しよ」
というので、みんな尋ねた。この老女は、
「私は生まれつき歯が強くて、鯛の御頭も残さないくらいだったのは昨日か一昨日の事かと思ってたら、今日になって歯が落ちたわ。」
というと、次の老女は感心して
「そうよねぇ。でも光陰冬の如しよ。」
というと、
「皆さんご存知の通り、私は生まれつき髪が黒々としてつやがあったの、櫛を使うときでも楽しかったのはほんの昨日か一昨日ぐらいだったと思っていたのに、今となっては雪が降り積もって頭が白くなってしまったのよ。ああ恐ろしい。光陰は冬のようなものよね。」