「はあ、先ほどからわしがお手柄と言っているのを、貴殿は褒めているお思ってのでござるか。それは大きな間違い。そうとは気の毒ですなぁ。お手柄、お手柄と言っているのは、ほかのことでもない、あなたの祖父万右衛門殿が中年以降、言ったこともない京に出て行って多くの苦労をして、ここまで築き上げた財産を、あなたという家崩しの悪魔が生まれてきて、やりたい放題の花街での遊び、女狂い、一家一門はおろか別家や手代、そのほか縁のある我々まで、町内会やら仲のいい人達が異見してきたのに馬の耳に念仏。万右衛門殿は文盲だったので、せめて孫には眼を開かせてやりたいと慈悲心のあまり、四書五経の一冊を読ませ、相応の付き合いの中でも恥ずかしくないように稽古された遊芸が身の仇になって、かえって中途半端な学問が器用なだけに、それが邪魔になって誰も言っていないのに、自分は器用だ、金持ちだ、いい男だ、俺に惚れぬ女はいないと自分ばかりしょうもない自惚れで、白米が頭のてっぺんに上り詰めての世迷言。ああ気の毒、気の毒。先祖からの家督相続に田地はもとより、有り金貸付金もさっぱりの空穴の大明神。借金は浴びるほどありながら、何か良いものはないかと、小潜上仏壇の修復に八両二分だの、天井の張替えに一貫目を使っただの、サツマイモの掛けが聞いて呆れる。