庄屋の心得として理想的なのは、上への忠勤と村内で師匠となることである。毎朝早く起きて鍬あるいは鎌を腰に差して、田畑を見回り耕作をする時期を考え、百姓の中で油断している者がいたら異見をして精を出させ、上の命令に背かないように教えてさとし、村の中で争いごとが起きないよう心掛けなさい。親に孝行する者があれば、これを褒めて益々孝行するように勧め、兄弟の間は仲良くすることを基本とするのは、先祖父母への孝行である。弟は兄に従い、兄は弟に教え、耕作をしっかりしている人がいたら誉めて精を出させ、ろくでもないことをやっている不孝ものは村内に置いておけないと強く異見をして、百姓全員が上手くいくように、村中全員が一家のように思って接するのが良い庄屋である。このような村は皆長く繫栄するだろう。厚く心得なさい。

 

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今このままやったらプライバシーの侵害だのなんだのと大騒ぎになりますので、時代背景を見ていきましょう。

 

この時代は、村単位での納税義務委があったこと、土地は私有財産ではなく優先的に認められた耕作権があるだけと考えたほうが正しいです。実際土地の売買は原則禁止、天保の改革以降事実上の私有は認められますが、買い戻しの権利も同時にあったそうです。

 

そして、庄屋さんは町内会長のオヤジであって、庄屋選挙があったぐらい庄屋さんは特権があったわけではありません。あくどいことをやられたら、仕返しがあったり、逃げられたりしたら、庄屋さんが丸抱えで税金を払わなければならないので、時代劇のようなえげつない百姓苛めはあり得ません。

 

だから、家の中の問題で一家離散でもやられたら村が連帯責任、特に庄屋が矢面に立つので、その気の遣い方は半端ではなかったようです。

 

今も、田舎の方の中小零細企業では、半径4km圏内で従業員が9割というような会社は沢山あり、PTAの延長、町内会の延長みたいな会社は沢山あります。それが大きくなって大企業でも似たような感じのままその雰囲気を引き継いでいる会社は結構あります。これは日本的経営の起源でもあり、強みでもありますが、本当の意味でのプロフェッショナルな感覚が育たないという悪い点もあります。