「こういう物語も、これを会得すれば出世鯉になる。先ほどからの長い物語の出世鯉の意味が分かれば、この絵を買っていただけませんか。」
という。そこで私は深くお辞儀をして
「さてもあなたの教訓は有難く、出世鯉の意味をよく理解できました。代々子孫に長く伝えるように、秘蔵するように申し伝えます。これ以降は何があっても、頭を下げてへり下だるようにいいます。」
爺さんは
「頭を下げるのも上げるのも、これを心得るところにあります。忠信孝悌仁義の道には、舜[1]はどんな人だったかと勇気を出して、負けまいとするのが出世鯉なのです。また、衣食住や見栄や威張るようなことをしないように質素倹約をして、ぐっと我慢をして頭を下げ、下を見て暮らすのが出世鯉なのです。」
といった。
忠孝の道には 誰も劣らじと 上見てすすめ 人の心に
衣食住 栄耀は 誰もうつむいて 下見て暮らせ 人の心に
[1] 舜は支那の伝説上の皇帝。理想とする支配者として登場する。
この本が書かれたのは分かりませんが、元禄バブルの頃ですかね。もしその頃であれば、金を持つようになった町人が傲慢になっていろいろやらかしたことを諫めるのであれば分かります。
昭和バブルも昭和元禄と呼ばれ、近距離のタクシーでも1万円でつりは要らねぇよと見栄を張るのが粋とされました。その反動で「清貧の思想」とかああいった戒め系の本が出てきましたよね。
今度はその逆ブレで、如何に金を遣わないかで延々とデフレから抜け出せなくなっています。ほどほどがいいと思いますよ。