ある爺さんが鯉の掛け軸も持って帰ってきて、私に向かって言った。

 

「この鯉は世に珍しい出世のめでたい鯉の絵であります。買ってくれませんか。」

 

私はその掛け軸を開いてみると、この鯉の図は勢いがよく、龍門の滝に仰向けで登ろうというものではなく、むしろ滝つぼへ真っ逆さまに飛び込み、頭が半分水中に入っており、尾が上に出ている絵であった。

 

私は興味を持ったので爺さんに言った。

 

「世に言う出世鯉というのは、上向きで登っていこうとする図です。ところがこの絵は頭を下げて、水中に真っ逆さまに入ろうとする絵で、上向きではございません。どうしてこれが出世鯉の図というのですか。これは下る鯉ではないですか。」

 

すると爺さんは、

 

「ああなんと愚かなことか、世の中の人は。あなたに限らず、みな上向きでただ天に上る立身ばかり望んで、下ることが立身だということを知らないのですな。昔、尺取虫が自分の体を伸ばして長くなりたいと天に願いました。すると天帝はお前の体を伸ばそうと思うよりは、まずは水から自分の体を縮めれば、自然と力を入れずに伸ばすことができるとおっしゃったとか。尺取り虫が身を縮めるのは、体を伸ばす元であるのです。偉大な舜の父母が悪を悪とせず、ただ自分の親孝行が足りないと身を縮め、身をかがめ、充分に頭を下げへりくだりなさったのは、四海を統治なさる出世鯉でありますぞ。文王が身をかがめ頭を下げてへり下り、殷に充分従いなさったことが、結果的に子孫が四海を統治なさる出世鯉です。また、韓信が馬鹿にされて人の股の下をくぐる勇気と堪忍が、大元帥に至った出世鯉なのです。趙良が石公に身をかがめ頭を下げて下足番をなさっていたが、漢王朝を開いた出世鯉です。太閤秀吉が身をかがめ、草履取りをなさっていたが後に天下に頭を上げるようになった出世鯉です。その他、外国も日本も出世する人は皆身をかがめ、頭を下げてへり下り。身を慎み堪忍するのがとりもなおさず勇です。最後には天上立身出世鯉なのです。」

 

空也上人の歌に

 

山川の 末に流るる どじょうも 身を捨ててこそ 浮かむ瀬もあり

 

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遜るのは、威圧感で接するより気持ちよく接する目的でやるのであって、卑下することではありません。

 

ある上場企業の取締役がある講演で出身大学のことを「胡散臭い。」「怪しげだ。」「ぱっとしない。」・・・よくぞそこまで言いますなと思うくらいでした。実は恵比寿屋さんと同窓なのですが、それちょろっと言ったら・・・・

 

度が過ぎると駄目ですよというお話でした。