どこの地方だったか、その地方の太守は馬が大好きだった。乗馬をよく好まれていた。可愛がっていた馬の中に荒馬がいた。多くの家臣がいたかがこの馬を手懐けられなかった。ある時の鷹狩りの時、昼時になったので陣を取り休もうとゆっくりと馬を歩かせなさった。陣に近づくとどうしたことか、太守がお乗りになっている荒馬が大声でいななき、急に走り始めた。すぐに引き留めようとして家臣たちが駆け付けたが追いつけない。馬は道を飛ぶように走っていくので、太守と馬は見えなくなってしまった。家臣は茫然としてしまった。馬を走らせたが、どこへ行ってしまったのか太守を見失ってしまった。途方に暮れて、大勢の家臣たちは四方八方に探しに行った。

さて、太守は馬を引きとめ落ち着かせようとしたが、全く止まろうとしない。田畑道路関係なく走り回り、ようやく馬が鎮まった。道に戻ろうと歩かせたが、もうどこだか分からない。昼飯時ではあったがこんな状態で、八つ時になりかなり空腹におなりになった。

細い道があったので馬を歩かせたところ、遠くに一つの集落が見えた。やっとのことで村はずれの入り口に小さい家にたどり着いた。そこに老婆一人が糸を紡いでいた。

太守は小屋に馬を連れて行き、老婆に何か食事があれば出してもらえないかと頼んだ。老婆は太守とは全く思っていなかったが、馬上にいらっしゃる方はどなたかと思った。お供は一人もおらず、御家来の方かと思い

「あなたに食べていたく物は、この村にはございません。ですが、稗団子ならございますので、これでよければ。」

と申し上げた。

「何でもよいから早く出してくれ」

とおっしゃられた。禿げたお盆に稗団子三つほど手造り味噌を塗って差し出した。馬上で手に取って食べてみたところ、非常においしいとお喜びになり、三つあっという間に食べてしまわれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

なんだか落語の目黒のサンマみたいな感じになってきましたが、フランスでは「空腹は最高のスパイス」というそうです。