世の中には水の飲みおきと言って、また起きてもないことをについて実際に起こったかのように腹を立てたり悲しんだり、また喜んだり苦しんだりなどする。何が起こるかわからない事を、自分で勝手にいろいろ考えるのだが、そもそもが起きていないことなので、当てが外れて後で詰まらないことになることが多い。ここに良い例えがある。

昔、木綿屋八兵衛という男がいた。夫婦で京成のそばに住んでいた。ある夜の夢で、この八兵衛が十両拾って大喜びで家に帰った。目が覚めて大声を出して女房を起こして語った。

「思わず金十両を拾ったんだ。」

というと、女房は

「それは良かったねぇ。そのうち私にも三両くださいな。」

と言った。するとこの男は大いに怒った。

「このうち五両は昔に借りた金を払うからお前には一両はやろう。残りは元手ができたと思ったのに、何の弁えもないのか。」

と叱りつけた。女房は大声を出してこれまでずっと貧乏をい問わずに一緒にいた仲なのに、こんなに多くの金があるなら三両か四両ぐらいくれたっていいだろう。何と心無い夫だ。そんな、私を見捨てるなんて。」

と近所まで聞こえる声で叫んだので、近所の人が駆け付けた。すると夫婦がつかみ合って大暴れしている。

「まあ落ち着きなさい。何があったのか話してみなさい。」

と近所の人は言った。すると、八兵衛は落ち着いていった。

「近所の皆さんにご迷惑をおかけして申し訳ない。喧嘩の原因は夜中に十両拾ったと言ったところ、払わなければならない金があるので、女房に一両くれると言ったところ、この女房ったら絶対三両くれと言うのです。三両をくれると支払いの工面で大変だからとなだめたのですが、全く聞き入れません。これまでの恨みつらみを言われて男の一文もたたないのです。こんな次第で腹が立ちまして言ったのです。オ恥ずかしながらこういった次第です。」

というと、近所の人は

「さて、大金を拾われたようですが、どこで拾われたのですか。」

八兵衛は

「いやこれは夢でございます。」

というと一同おかしがった。これは後で聞けばおかしく聞こえるが、日常ではこんなことが多い。十分に注意すべき例えである。しっかりと記憶して忘れてはならないことだ。

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さて、嫁さんとしては言いたいこともあるでしょう。実際には拾ってない話であっても、「お前のことが大事だよ」と言って欲しかったのでしょうが、夫が真面目に答えてしまったことからの大げんかでしょう。

男女の仲はあらゆる問題で一番難しい問題だと、私だったら名付けます。