世の中には業種によって巡り合わせがよく家を買えるような人もいる。また、これを羨む人もいる。一通り羨ましく思うのは、普通の人情であればそうだろう。強くそれを望む人は、強引に金を稼ごうとするので、却って破産する。はたで見て非常に危険である。『徒然草』に、「囲碁に勝つには絶対勝ってやるぞと思って打ってはいけない、負けないように打つべきだ。」と書いてある。金言をよく思い出しなさい。

何事でも他人に目がいくのは庶民のやることだ。家を買おうとするより、家を売らないようにする方が、財産持ちの上策であるというべきだ。これに近いたとえがある。

今、ここに三条から五条にまで門の両方と巡りに柵を用意して、一方を入り口として開け一方を柵で覆う。その入り口に番人を置いて、往来の人をこの柵の中に入ろうとすると、人は全員に封じた札を渡しなさい。その札に印が二つある。何万人になってもこの柵のうちへ入る人数、その札をこちらから指図するとき、一斉に開けなさい。丸印が書いてある人はみな裸にして、衣服や懐の中までこちらで取り上げなさい。一方角印が書いてある札を持っている人がいるだろう。その人に丸印の人から取り上げたものを残らず与えなさいと勧めてみたら、その柵の中に入るだろうか。別にその柵の中に入らなければならないという義理があるわけでもないし、そのうちへ入りさえしなければ気楽なものである。

どれほど無分別であっても、その柵の中に入りそうな者はいないだろう。それとも、もしその中に入ることがあれば、結局のところ大亀谷[1]に金持ちを歩かせているようなもので追いはぎに遭うだろう。今夜一人で行ってこの追いはぎから取り戻してこいというのと同じ。恐ろしいことだ。そんな評判などどうでもよい。

 


[1] 当時は山の中田舎道。

 

FXで年収何億円、ブラックカードをもってフェラーリを乗り回してなんて言うのがたまにTVに出てきますが、所詮金が行ったり来たりしているだけなのでいつここで書かれているように追いはぎに合うように素っ裸にされるかわかったものではありません。

これは江戸時代末期も似たような状態で、各藩が発行する藩札と地方通貨、銅貨、銀貨、金貨で国内ですでにFX状態だったようです。両替屋がこれでぼろもうけ。そりゃ経済破綻するわけですよ。