商売の利潤によって、生計を立てるのか町人の常であるので、利潤を狙うのは憎むべき事ではない。だが、大きく利益を貪ろうとするのは、とんでもない罪人である。その当面の間は繁盛するが、子孫の代まで繁昌はしない。強欲非道に貪って取り立てれば、天罰で困窮するか、家を相続して血筋は耐えていつの間にか他人の者となってしまい長く続く家はないだろう。

さて、現在は何事にも抜け目ない商人が安売りの新しい店を出して、しっかりと売り物に念を入れて不良品はなく、主人と番頭は誠意があって評判がよく、繁昌して流行り出した店を丁稚と小僧の青二才が不愛想にして、商売を台無しにしてしまう店は多い。主人も番頭も商品に念を入れて安売りにするのがウリであるから、店の店員の善悪が気にならないだけので、店には油断してはならない。旦那は奥座敷にばかり引きこもって、番頭は帳合いに意識がいってうつむいて、手代は細々した仕事で店に誰もいない状態になれば、当然客を雑に扱うことになる。

小僧の心の中では、「ああ忙しいことだ。こんなに客が続いていたら、親方は大儲けで宝庫人が大変だ。客をちっとばかり封じ込めて来ないようにしたいものだ。朝は早くから客が来る。夜は寝るまで絶え間なく買いにやってくるってのはあんまりだ。こんなに忙しい店だと知ってたら奉公に来ないものを。今若衆が店に出ると蔵の中に隠れて一寝入りするぞ。こんなんじゃ命が続かない。ありゃまた客が来るそうだ。全くうるせえ。」と思いながら、今奥から出てくる同僚の小僧に向かい

丁稚「おや、吉どん。店に出て来ないか。さっきから俺ばかりで困ってるんだ。さあさあ、商品を出しなよ。」

小僧「今用があって」と言ううちに買い物に来た人が急いでいたので、にらんでばかりもいられず、仏頂面して

丁稚「はい五十文でございます。ええもうその種類の商品だけでございまして、他はみんな同じでございます。」

商品を投げ出す。もっとも買い手にふくれっ面を遠慮なく見せつけて、二度と買に来やがるなと言わんばかりの顔で、客はイラっとしながらもどうしようもないので、こそこそと逃げ帰る。

こんな感じで店が繁昌するか。客商売をしている商人はよく考えて注意しなさい。

丁稚「よう、客を見かけてどこへ行くんだ。上がって商品を見せないか。なに奥に用事があると。間抜けめ、白雲頭め。ざまぁみろ。」

と言うところに客が来ると、敵が来るよりも悔しがって、腹立ちまぎれの商売の仕方、言葉にしつくせないほどの店がかなりある。買い手が怒る事が立てつづいて、特に忙しく繁昌する店は賑やかで、小僧の悪が分かりにくいものだ。よくよく用心しなさい。

丁稚ども、よく聞けよ

盗み食いする罪よりも重い罪は、主人のお得意さんを粗末に扱う奴だ。

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これは田舎に行くほどこういう店ありますね。

出張先で時間があったので地元の図書館に行ってみたところ、その商店街の歴史の本がありました。明治維新の秩禄処分で武士が商売を始めたと云々。

たしかに、昔藩の陣屋があったようなところはこの傾向が強いです。創業文政何年とあっても、一般客なんかでなく殿様を相手に商売してきたので、愛想がなくてもOK。昔からお得意さんがいるので関係ないよ、よそ者なんか知るかと言う感じです。

今はネットがある時代ですからねぇ。下手すると実名どころか動画で態度の悪いのをupされますよ。

と言うことで、この作はわずか4回で終了でした。この人の文章はさすが、作家を本職としてかつ講談師の経験があるので、文章のリズムが違います。小沢昭一の講談を聞いている気分でした。またこの人の文献が見つかるといいのですが。