「右の通りでございます。もっとも人の配置は普段から不足のないように内々に調整しています。その他の件はかなり簡略化しており、親類縁者、旧友や知り合いで浪人がいます。

ですが、支援もできず恨まれる事があります。それでも世間の事は分かっていながら何もせず過ぎてしまっています。そこにきて近年江戸詰担当になり奉公が多くなり、ますます自分が困るようになりました。家や武具、馬具の破損修理もできず見苦しい状態です。とりわけ、公用について人は義理堅いのです。さても役に立たない事に金銀を使うことに何も言わないように、若い人にはよくよく言い含めておきなさい。

こんな財政状態ではございますが、才覚はあると思います。心得の良くて金が足りない人も、仲間内には何人もいます。親から代々引き継いだ金持ちかケチな人かはわかりません。世の中にはだいたい出来ない人もいるだろう。特に、渡り奉公人はまずはその家の家風を伺っておきなさい。」

さて、士農工商はみな上下ともに同じだと日用頭[1]とかいう下民が言ったことが、今更ながら思い当ると言って大笑いになった。非常に興味深い話ではないか。

 


[1] 日用頭(ひようかしら)は、雑役を請け負う専業の商人のこと。

 

このあたり実に日本的というかなんというか。300石の知行と言えば、家老クラス。よその国では通常は身分が高い人は高給取りで、家老クラスとなればもっと支給され、身分の低い者との給料格差は半端ではありません。

日本では地位の高い者と低い者との間の格差は、外国から見てほとんどありません。某自動車メーカーの元会長は10億円なんざ足した金額ではない、ヨットを寄こせ、息子の学資金を寄こせと会社名義で買いまくったようですが、従業員をクビにしてでも上に立つ者は自分の給料を上げるのが常識です。

決して良いことだとは思いませんけどね。