マークⅡバン。通称、マーバン。英二の車だ。真っ黒に黒光りさせる様に塗装をしている。これが、柏原西の通学の坂を一気に下る。いつも下校していたこの坂をこれだけ速いスピードで下るのは初めてだ。ただ、この坂を下って喧嘩をしに行くのは、何回目かはわからないが。
「あいつ何してんねん!」アクセルを強く踏みながら英二が強く言った。
「あのアホ!けー、あいつのツイッター見てや、何がどうなってる?」まっくんが英二の怒り口調に続く様に言った。
「うん、今戸塚のフォロワーから探してる」
「なんやねん、あいつ。一人で行くん好っきやなー、ボケナスが」俺は少し落ち着いていた。どれだけ大垣の事を言ってもあいつは・・・・。
「ああ、たぶんこれや。@Oogakikasiwara。あいつツイッターなんかせぇへん性格やんな?」
「最近のツイートは?」英二が急かす。
「戸塚に送ってるわ。“俺、矢崎んとこの№4やけど矢崎にとりあえずお前潰せ言われてるから、まず俺んとこ来いや”ってツイートしてる」
「おもいっきり嘘ついてるやん。俺何も言うてへんやん。嘘王や。嘘王。筆王とえらい違いや。」俺がふざけると、
「嘘王のアプリ欲っしい~。」英二もふざけ始めた。
「(笑)何に使うねん!そのアプリ!」ここでまっくんのツッコミが入り、
「そんなん言うてる場合ちゃうて。アクセル!いっぱい踏んで」とけーが真面目な方向へ話を進めようとする。
「了解!」ここで俺はしっかりとベタなボケをいれる。
「お前ちゃう!!」最後はけーのツッコミで終わる。
変わってない。高校の時も、喧嘩しにいく時はこれだけふざけあいながら行っていた。違うのは、ツレがやられた画像を見て喧嘩をしに行くという事。携帯も進化したものだ。リアルタイムでツレが負け、倒れた画像を見れてしまうのだから。
大垣進が、朽ち果てて倒れている。そんな画像を。
その画像を見た時、すぐに場所が特定された。
大垣は芝生に倒れていて、後ろには見た事のある木製のベンチが映っていた。
今下っている坂には、坂に沿って線路があり(JR小和路線)、それに沿って182号線、そしてそれに沿って小和川が流れているが、その向こう岸の河川敷は広場になっており、そこでよく仲間とたむろしていた。そこにある木製のベンチ。画像を見た時、全員がすぐにわかっただろう。
この河川敷広場へ行くには、まず通学路であったこの坂を下り、少し先を左折、国豊大橋を渡り、向こう岸の川沿いにある階段を下りる。
マーバンが坂を下りきり、その国豊大橋に入った。そこからその広場を見渡せる。
運転席の英二以外、助手席側の窓から木製のベンチを探した。
「大垣おるぞ!倒れてる!」
助手席側の後部座席に乗っていた俺も雅貴が叫んだと同時くらいに倒れている大垣の姿を見つけた。隣に座っていたけーも国豊大橋に入った時から俺の方の窓から河川敷の方をずっと見ていて、たぶん大垣の姿は見つけていたのだろうが、言葉を失っている感じだった。
「大垣だけ?」英二があまり状況を見れないので聞いてきた。
「他は誰もおらんな」まっくんが答えた。
「帰ったんか。けー、ツイッターでその戸塚とか言う奴にどこおるか聞いてや。矢崎が聞いてるって入れたらええから。」
「オオ。」
国豊橋を渡ったところで左折し、川沿いの道路に入った所で車を停車させたと同時に全員、車を飛び下りた。
「大垣!」まっくんが久しぶりで嬉しそうな呼び方で名前を叫んだ。
「お前、一人で何しとんねん!」英二も嬉しそうだ。
大垣を見つけ、二人はそう叫びながら階段を下り、大垣の方へ走った。けーと俺は何も言わず大垣へと走った。俺は大垣に近づいてから、何か言ってやろうと思っていて、多分、けーもそう思っていたのだろう。
しかし、倒れている大垣を目の前にして4人共、黙ってしまった。
ひどい。画像で見た時はこんなにひどくなかった。まず、何処から出ているか解らないくらい血だらけだ。体は小刻みに痙攣をし目は少し開いた状態で、少し左右に眼球が動き、眼だけが俺らに反応している様で、悲しい気持ちになった。
「もしもし、救急車の人?すぐ来てーや。国分の河川敷にありますやん、広場、・・・そんなんどうでもええからはよ来いよボケェ!!」
ドグシャァ!! 「ヴァアアラア!!」 ドガシャァァ!!
英二が救急車を呼んでいたが、怒りを抑える事が出来なくなったんだろう。怒鳴りながら木製のベンチを蹴りで潰した。
「けー、ツイッター。戸塚から返ってきた?」まっくんが怒りを抑えながら聞いた。
「まだやな」
「しんや、まさかこれでもやらん言わんやろな?戸塚潰すやろ?」英二が俺を睨みつけながら聞いてきた。
「・・・・・」
「矢崎!!」
「・・・・戸塚っちゅうか、寝屋川市潰すやろ」
「・・・始まってもうたなぁー、どうする?今日は大垣に付いとくか?何処
行ったか分からんし」まっくんが大垣を見ながらつぶやく。
「俺は車でこの辺周ってみるわ、しんや、行こうや」
「オオ。」
ティントン♪ティントン♪
英二と車へ向かおうと歩き始めた時、俺の携帯が鳴った。
今、電話なんてどうでもよかったのだが、歩きながら何気にポケットから取り出し、相手が誰か確認した。
―着信 大垣進―
俺はとっさに振りかえり、倒れている大垣を見た。それから、拳を握りしめながら、通話をタップした。
「はい」
『もっしぃ~』何だか腹立つ声が耳に入る。
「お前誰や?戸塚か?」この一言で、英二、まっくん、けーがこっちに視線
を運んだのが分かった。
『何か冷静やなぁ、ツレやられてんのに』
「あぁ?お前何処おんねん??」
『ここ何処?わからーん!』
「その携帯返してもらいに行くから何処おるか早よ言えや」
『今日は疲れたから帰るねんー』
「わざわざ寝屋川から柏原まで来てもらっとんねん、まだおもてなし出来て
へんからな、戻ってこいや。」
『疲れた言うてるやろ?んん?ああ?』
タタン・・タタン・・・タタンタタン・・・
その時この河川敷から川沿いにある鉄道橋に河内国時方面(奈良方面)の列車が通り過ぎた。
タタンタタン・・タタン・・タタン。
その列車の音が、自分の携帯の受話口に近づいて来る。
「・・・・、そこで待っとけボケナスァ!!」
―― こいつは国時駅にいる。―― そう思った瞬間俺は叫んだ。。
「何処や!?」英二が俺に近づきながら聞いてきた。
「国時駅や!」
「けー、大垣頼む!」まっくんがけーに叫んだ。
3人共、土手を一気に駆け上がった。
