国際文化交流を目的とした日本文化や和食の紹介の場を目にします。

日本文化を通じて「日本人とは」を知っていただくことは、相互理解に確かに有効だと考えますが、私たちは、どこまでその日本文化やその食文化を知っているでしょうか。

知らないと紹介できないし、知っている範囲の浅い紹介に留まるでしょう。

 

ステレオタイプに、例えば「鮨」を見せるだけでも、日本への興味喚起や「マンガで見た通りね」と知識をなぞってもらうことはできるかもしれません。

日本食文化紹介の折角のチャンスをいただけるなら、より本質を意識した紹介によって、その本質的なことを深く知ってもらい、国際親善への寄与を目指したいです。そのためには、まず自身が知っている必要があります。周知度が高まれば、日本食文化継承にも繋がると思っています。

 

例えば、お醤油。醤油風調味料を紹介するだけでも、日本の食の紹介と言えるでしょう。

でも、もし本来のお醤油を意識して、以下のような紹介をしたら、より深く日本人を知ってもらえるかもしれません。

 

「海外渡航時に持参する人がいるほど、日本人に馴染み、室町の頃から使われ続けてきました。大豆・小麦・塩というシンプルな素材と、日本に棲む菌のおかげでできた発酵調味料です。

主原料の大豆の栽培の歴史は長く、主食の稲作とも関係します。発酵が盛んになる季節を経るので、1年以上の時間が必要になりますが、その長期の発酵・熟成によって、甘味、辛味、苦味、酸味、そして日本ならではの「うま味」と香りが渾然一体となって絶妙に調和した味、特有の色と香りがあります。

各地域ごとに微妙な風味の特徴があって・・・」

 

このように文化の背景にある本質的なことを意識しながら外国人に紹介すると、まず関心を持ってもらえます。

そこから、日本人が自然に寄り添い、尊重すること、審美観・価値観、精神性などが、食文化に反映されていること、それらが生活に根付く形で伝承されてきたこと、などに興味を示され、日本人とは、の紹介に役立っています。

 

私は、上述した自然への尊重などが日本食文化の本来の特徴だと思っており、それは地球環境保全、事業の倫理・透明性と関係し、最近流行りの「エシカル」「サステナビリティー」に通ずる、という見方もできると考えています。

一般的に、和食は健康的、と特徴付けられます。

その「健康的」ですが、人の身体だけではなく、地球や事業の観点でも、健康的で健全と言える気がいたします。

そうした日本食文化の本質を日本人自身が知らないとしたら、そして知らないためにそのメリット享受を十分にできていないとしたら、もったいないことだと思いますし、衰退の危機を招きかねないことも懸念しています。

 

お醤油の例でいえば、天然醸造のお醤油は減少していて、市場シェアの大半はそうではない醤油や醤油風調味料で占められています。

日本に流通する醤油や醤油風調味料の97%が海外産大豆を使い、短時間で安価に加工生産されているものも多いです。

安価なりの理由、時には犠牲があっても、透明性をもって開示されなければ、消費者の購入基準は、価格や見栄え、メーカー知名度かもしれません。

安価な醤油または醤油風調味料が歓迎される一方、手間や時間をかけて作られる天然醸造のお醤油が廃れる構造。

日本の食に欠かせないお醤油でも、この状況、他の食品においては尚更かもしれません。

 

毎日の食卓に欠かせないお醤油の生産が外国からの輸入大豆に頼っていること、その実情を知っている人は少ないこと、こうした状況になった責任はメーカーだけではなく消費者にもあること、消費者が「ものを言う」前段としてトレーサビリティーが担保されない、同調圧力や予定調和のなかで「物言う人」が歓迎されにくい日本的社会、メーカーの意向が反映され易い国の構造などなど、さまざまな問題が潜んでいるように見えます。

食は日常のことであり、食を選択する度に、これらの問題認識が頭をよぎります。

自国の食文化に誇りを持っているからこそ、衰退を招きかねない状況で、問題認識したからには、取り組みたいと思いました。

問題認識をしている、にも関わらず、そこに対して何も取り組まないままでは、その問題の助長に加担しているようで、落ち着かないですし、気が済まない。食は毎日のことで、自分事として日々考えさせられます。自分自身のため、自己満足のための取り組みが、結果的に社会貢献に繋がればいい、と考えております。

 

日本の食領域には根深くて難しい問題が多過ぎる感がありますが、逆にいえば、伸び代が大きいということで、取り組み甲斐がある、とも受け止めております。

また、問題認識に共感する方も少なくないことを実感する機会にも恵まれ、勇気づけられます。

 

もし、日本の食文化の本質的な価値が認識され、そこに注目する人が増えたら、それを衰退させないようなムーブメントがおきるかもしれず、本質を大事にする生産者たちをプロモートできるかもしれません。

それにより、日本食文化が、その本質をないがしろにされないような形で継承されることを期待していますし、その方向を目指して、国内での日本食文化の啓発に取り組んでまいります。

食文化だけでなく、日本文化、特に日本伝統文化についても同様に取り組みます。

そして、近い将来(海外への渡航が叶う状況になれば)、海外への文化紹介、文化交流を推進していきたいと考えています。