Dear MY SON、
やっぱり、フロリダの陽の当たるアパートの部屋でも、私は泣いていました。
朝、目が覚めるや否や、襲い掛かる悲しみ、孤独、胸の痛み。 “一日の24時間のうち、せめて半分眠ることができたらいいのに... そしたら、苦しむ時間が短くて済むのに...”などと、目が覚めたことを恨めしく思ったものです。
“親の喧嘩を見て育ち、結婚に憧れなどなく、結婚なんてするつもりなんかなかったのに、あの日、あのクリスマス・ツリーの前で頬を寄せ合い微笑む夫婦の写真を見て、私でも長年幸せにつき添う夫婦になれるかも知れないなどと、夢みてアメリカに渡って... 何を考えていたのかしら? 馬鹿だったわ。”
そんなことを考えながら、ベットの中で丸くなっていました。
どうしようもなく悲しくなると、「上を向いて歩こう」を口ずさむのだけど、いつも、“...涙がこぼれないように”まで歌うと声が震えてきて、涙がぼろぼろ出てきて続けることはできなかったわ。
そんな母親だったのに、貴方は明るくて、いつも無邪気に小さな腕を私の首にくるめてキスをしてくれました。 貴方の笑顔を見つめながら、貴方が生まれた日の母としての決意、自分への約束を思い出したの。
“この子には私しかいない... これではいけない... この子のために頑張らなければ... 誇れる母親にならければ... 何か始めないといけない... ”
まずはちゃんと英語がしゃべれるようにならなければいけないと思い、悲しみに浸ってどんよりと毎日を過ごしていた自分を引っ張り上げ、貴方が楽しく過ごせる保育所を見つけ、大学に行く手続きをしました。 それが私の人生を変える決意となったのです。
大学の初日の日でした。 教室の斜め後ろの席に、優しい目をした男の人が座っていました。
そう、その人がお父さん。
20年が経ち、あの辛い頃を振り返って思うのだけど、絶対に繰り返したくはないはないけれど、あれはあれで良かったのかも知れません。 いろんなことに気がつきました。
事故の前夜のことを前夫に謝ることができなかったから、自分の思いを伝えるチャンスを逃してはいけないこと、チャンスは二度と来ないかもしれないことを...
植物人間の前夫や他の患者さんと接したから、生きれるということ、生きれる者は生きれない人達の分までしっかり生きないといけないということを...
大切な人を失ったから、人の悲しみ、苦しみを感じることを...
義父とのことで苦しんだから、人を許すことを...
日本で母子家庭ということでアパートを借してもらえなかったから、人の事情、立場を考えてあげることを...
イギリス、オーストリアで他人からの優しさに触れたから、人に手を差し伸べる人間でなくてはならないことを...
そして、辛い日々の中で、夕焼け、友情、貴方の笑顔、キス、ハグに慰められ、励まされ、心温められたから、人生は小さな幸せでいっぱいなことを...
ディスコのお立ち台で踊っていた頃の私は、そんなことなどに気づくこともできず、幸せになれるはずなどなかったのか知れません。 あの頃の私は、自らの努力なしの幸せ、誰にしてもらう幸せだけを期待していたのでしょう。 幸せとは自分が築くもの、そして二人で築くものなのにね。
今、それを理解し、あの頃を振り返って一つだけ心残りなのは、短い人生だった前夫を生きている間幸せにしてあげれなかったこと。 自分の幸せことばかり考えていて、彼の幸せなど考えていなかったような気がします。 もっと、いい妻、いい人間であるべきでした。 私にとって、お父さんとの出会いはセカンド・チャンスなのかも知れません。
毎年撮るクリスマスの写真。 去年の写真の中には、全ての始まりになったあの前夫の両親の写真のように、中年の夫婦が幸せそうに微笑んでいます。 何度もつまずいて、遠回りしたけれど、あの日夢みたように、お母さん、幸せに辿り着けました。 私でも幸せになれました。
頑張れたのも、そして幸せになれたも、貴方がいつも傍にいてくれたから... ありがとね。
Love、MOM
追伸
雪の結晶というものは、二つとして同じものはありません。 それぞれがゆっくりと形を作りながら、地上に舞い降りて来るのです。 冷たい空気の中を通るものもあれば、強風に吹きまわされるものもあります。 そうして結晶の枝が伸び、小枝が伸びていくのです。 そんな厳しい条件をたくさんくぐり抜けてきた結晶ほど、美しいものとなるのです。 人もそんなものかも知れません。
生きている限り、貴方にも悲しいこと、苦しいことが起こるでしょう。 でも、大丈夫。 貴方もいろんなことに気がつきながら、乗り越えていくわ。 だって、私とお父さん、そして、前夫、貴方のもう一人のお父さんがいつも貴方のことを見守っていますから、美しい雪の結晶になってください。
“WE” love you with all our hearts, and we will always love you no matter what. You are our son forever and ever. どんなことがあろうとも、貴方は私達の息子、愛する息子...
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長い間、お付き合い頂きありがとうございました。 悲しい過去を思い返すことで何度もくじけそうにながらも、皆さんに送って頂いた温かいお言葉に励まされ、最後まで書き終えることができました。 本当にありがとうございました。