道化師の蝶/円城 塔
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無活用ラテン語で記された小説『猫の下で読むに限る』。
希代の多言語作家「友幸友幸」と、資産家A・A・エイブラムスの、言語をめぐって連環してゆく物語。SF、前衛、ユーモア、諧謔…すべての要素を持ちつつ、常に新しい文章の可能性を追いかけ続ける著者の新たな地平。
(「BOOK」データベースより)
ゆんたくです。
今日紹介するのは言わずと知れた第146回芥川賞受賞作だが、率直に言って難解だ。いわゆる実験小説の側面が強く、物語の前提や常識を揺るがすことで、容易には全体像を捉えさせない。あるいは一義的な解釈を拒むようなところがある。
この小説が一体何を目指して、何を成し遂げたかについての評価は文芸評論家に譲るが、このブログで注目したいのは主要人物の一人であるA・A・エイブラムスだ。
エイブラムスはいつも虫取り網を持って、蝶という名の着想を追いかけて旅しているというユニークな事業家だ。
「物事を支えているのはつまるところ着想で、事業というものは常に着想を注ぎ込まなければ維持できない生き物でしてな。」
という経営観の下に、多種多様な事業を育て上げてきた。
その中の一つに出版事業があるわけだが、
「旅の間にしか読めない本があるとよい。旅の間にも読める本ではつまらない。何事にも適した時と場所があるはずであり、どこでも通用するものなどは中途半端な紛い物であるにすぎない。」
という着想を得て、
『飛行機の中で読むに限る』という書籍を出版し、口コミを通じてベストセラーにしてしまう。
読む場所で書籍をセグメントしてしまうという視点に加え、それをそのままタイトルにしてしまうというセンスも小説の中での話とは言え、斬新だ。
さらにそれを単発で終わらせず、続けざまに、
『豪華客船で読むに限る』
『通勤電車で読むに限る』
『高校への坂道で読むに限る』
『バイクの上で読むに限る』
と二の矢、三の矢を放つ辺りはゴーイングコンサーンを使命とする経営者感覚も備えていると言えるだろう。
エイブラムスから経営者・事業家としての着想を拾ってみることもこの本の楽しみ方の一つかもしれない。
【診断士的学び】
ユニークな着想が事業の出発点。事業家たるもの普段の生活から着想を捉えるための自分だけの“網”を持っておくべし。
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