これは私がナースをしていた頃の話です。
 
タイトル通り、私は誰かの死期が近づくと死臭を感じ取ることができます。
 
ある日、捻挫して外科を受診してきた女性。
 
本来ならば湿布と鎮痛薬を処方してお帰り頂くのですが
 
どうも以前から身体の調子が悪いと訴えられ精密検査をして欲しいとのことで
 
入院して頂くことに。その後のいろんな検査で判明したことは
 
『ガンの末期症状』であったこと。
 
パッと見た感じではお元気でどこも悪くなさそうなのですが
 
身体の内面ではガンがあちらこちらに転移している状態で
 
既に手の施しようがない状態になっていました。
 
そんな状態になる前に何かしら身体の異変があったと思うのですが。
 
入院されて3日ほどで容態が急変しとても苦しそうにベッドに寝られていました。
 
すぐに酸素吸入など必要な処置を全て行いました。
 
既にご家族の方へは余命宣告をしていました。
 
でも、ご主人は何とかどうしても助けて欲しいと担当医に
 
懇願していましたが『最善を尽くします』としか言えなかった担当医。
 
そんなある日、ガンに効くという噂を聞いたらしく
 
担当医の元へご主人が来られて『丸山ワクチンを!』と
 
土下座までして何度も何度も頼みに来られました。
 
丸山ワクチンを入手するには手続きが面倒でしかも患者の家族が
 
日本医大へ行かなければならないのです。
 
当時はこの"丸山ワクチンがガンに効く"とメディアなどでも取り上げられ
 
日本医大では毎日徹夜でワクチンを求めに長蛇の列が出来ていました。
 
そして日本医大から戻ったご主人様からワクチンを受け取り
 
その夜から丸山ワクチンを投与し始めましたが
 
効果が出ることはなくもっぱら医療用麻薬で痛みを抑えていました。
 
この頃になると身体が腫れ上がっていて個室部屋だったのですが
 
廊下にまで何とも言えないほどの匂いが立ち込めていました。
 
これがいわゆる死臭です。
 
この死臭、患者さんの死期が近づくとどうしても私の鼻についてしまうんですよね。
 
検温や血圧などを測らなければならない私は正直この部屋にだけは入りたくなかった
 
のですが、仕事なので我慢して入っていましたが本当に我慢出来ないほどの死臭で
 
満たされていました。そして翌日にお亡くなりになってしまったのですが
 
残された小学生のお子様2人はワンワン大きな声で泣きじゃくりその声は
 
3階にあったナースステーションにまで響き渡っていました。
 
もちろんご主人様も涙されていました。
 
そして私たちナースも声を出さずに涙していました。
 
病院は生と死があるところ。助けたくても助けられない時はやはり悔しい。