徒歩通勤になってから、ほとんど陰のない道を歩かねばなりません。

朝はまだ空気が冷たいので、なんとか我慢できるのですが、午後のちょうど帰る時の陽射しは、はんぱではありません。

ちょうどある一箇所だけ木が繁っていて、その時間帯に陰が出来る箇所があるのです。

そこが本当に通り抜ける風とともに、今の陽射しの中で唯一、ほっと息をつける場所なのです。木陰で風が吹き抜ける場所。

そこを通っているとき、「涼しいな」 と思った時に頭に浮かんだのが、この曲でした。

《Ombra  mai  fu 》

歌の中の木はプラタナスのようですが。

 

 昔の人はエアコンもないし、扇風機もなかったわけですから、唯一、涼をとれる場所が木陰だったのだなあと感じるのです。

実感を伴って感じるのです。

 

そしてその木陰を通る時自然にこの  《Ombra  mai  fu  》  が、でてきたのです。

《オペラ  セルセ》  より 《 麗しい木陰よ》です。

 

ヘンデルのこのオペラ作品が有名なのではなく、この曲が単独にコマーシャルに登場するようになって、一気に人気がでたようです。

 

キャスリーン  バトルが白いドレスを着て歌った映像が、かすかに記憶に残っています。

ゆったりした美しいメロディー。

通称 ラルゴ と言われるゆっくりとした曲調です。

 

大先生のところへ通い始めた時に、最初はリートを見ていただけずに、イタリア語のものがいくつか課題として出たのですが、その中にこの曲がありました。

発声のことが頭をいっぱいに占めていて、課題曲の数も多かったので、ついレチタティーヴォを練習せずに、アリアの部分だけ練習していきましたら、「何故レチタティーヴォを歌わないのか?」と指摘され、アリアとレチタティーヴォが一緒でこの曲になるのだからどちらも歌わなければ意味がないと指摘されて、レチタティーヴォは先生がお歌いになり、それに続けて歌うように言われました。

(実は、その時は練習していなかったのですが、以前に歌ったことはありました。しかし、その時に歌わなくて正解だと思いました。先生のレチタティーヴォは、ひと味違っていましたから)

「日本人はよくこのように、アリアだけ歌ったりするけれども、必ずレチタティーヴォも歌わなければ、この曲にならないのだよ」とお話しされました。

 

先生のレチタティーヴォはとても素敵だったのはいうまでもありません。