遥か昔、と言っても私の若い頃、初めてヨーロッパに行った時に、イタリアでカメオを買いました。
何か記念になるものがほしかったのです。お金もあまりないそんな時ですから一般的な美しい女性の横顔が彫られた明るい茶色の地色の貝のカメオです。小さな花が彼女の横に彫られているもので、カメオとしては代表的な図柄です。一緒に行った友達はもっと紫色の地色の貝のカメオが欲しくてずっと迷った挙句にやめましたが、それは私の買った一般的なものより数段高かったからです。
 G ・APAと名前が彫ってあるものでした。ジョバンニ・アパという方の手になるものです。その頃は検索などできませんでしたからどんな方か存じませんでしたが、現在カメオ作家としてお名前が載っているのを発見しました。
しかしカメオって自分のものができて始めて思うのですが、昔とあまり変わらず同じスタイルを保ってきているので実はあまりモダンな格好には似合わないのです。今風の格好にはあの優雅な持ち味が生かせないのです。何度か試しにつけてみましたがちっとも似合わないのです。そのうちしまっておくことになってしまいました。
カメオと一言でいっても、様々な図柄、貝の種類、ストーンカメオといってメノウなどの石に彫られたものなどいろいろあることをそれからいろいろ見聞きしました。
中にはアクセサリーというよりは小さな美術品といえるものもあることを後々知りました。ギリシャ神話や、田園風景などストーリーがあるものや、犬や馬や鳥や羊などの動物柄も彫られていてすごいなと思います。上手な方のものは精緻な彫り方で図柄になっている人の小さな顔にも表情があるのです。
縁あって先のものとは全然違った趣のカメオがやってきました。
図柄的には、男女二人が森の中と思われるところにいて見つめあっているのです。女性の手には自分が花で編んだ冠…花輪を持っていて男性を見つめています。男性は左手を女性の方へ差し出して優しく見つめています。この男女はどう見ても愛し合っているのだと思われます。優しく美しい横顔が小さくてもしっかりと彫ってあります。彼らの周りには草や木々が繁り、女性の横には小さい羊が彫られています。円形のちょうど真ん中には、じっくり見てみると彼女が手にしている花輪がくるようになっています。この図柄にも何らかのストーリーがあるのか、よく題材になる田園の恋なのか、わかりませんがその彫りがかなり上手な方の手になるものだということがわかります。こんな作品は専用の額にいれて美術品としての扱いにしたくなりますが、アクセサリーとしての用途から考えてこれがピッタリと当てはまるスタイルを考えたいなと思いました。
美しき水車屋の娘? ジゼル? 羊がいることによってあまりシリアスな感じがしませんが、あわせてこの図柄にぴったりな話も探してみたいなとも思います。手のひらに乗ってしまう豊かな世界です。