少し前の話になりますが、久しぶりに実家に帰省したときに
母親が慣れないスマホを操作して「これ食べたんだよね〜」と
たい焼きの写真を見せてきました。
ごく自然な会話の始まりで、特に頭を使うことなく
「へぇ〜、どこの?」と返したのですが、
「んーと、赤坂?麻布?の…」と返され、
予想外の返答に危うく腰を抜かしそうになりました。
赤坂??麻布???
その2つの地名は、聞き間違いを疑う余地もないくらい、
はっきりと僕の耳に入ってきました。
それにしても赤坂??麻布???
失礼なことは承知の上で、はっきり申し上げますが、私の母親はそのような綺羅びやかな街に用事があるような人ではありません。
そもそもたい焼きなんて近所にあるじゃないか。
家から自転車でちょっと走ったところにある1個100円のたい焼き屋のことは忘れたのか。あそこ超美味いじゃん。いつから俺の母親はたい焼きを食べるために都心に赴くような人間になってしまったんだ。
まさか、SNSの"映え"とか"PR"とかの影響をもろに受けて、中に半熟卵入れちゃいました〜とか、いちごホイップたっぷり〜みたいな奇を衒ったたい焼きに目覚めてしまったのか……?
などと思考をめぐらせましたが、写真で見せてくれたものは、よく見る茶色い皮にあんこが入った、変わり種ではないシンプル・イズ・ベストなものでした。
「『東京三大たい焼き』って言うらしくて〜」
母が続けます。
東京三大たい焼き?
……ってなんだ?初めて聞いたぞ。
というか、たい焼き界に"三大"という概念があったのか。
昔から"たい焼きをどこから食べるか論争"が根強くあるように、派閥やこだわりが多い界隈で、近年のSNSの影響で増え始めた変わり種たい焼きを認めないお店が「絶対にたい焼きはこうあるべきだ!他の店、特に最近の映えを狙ったたい焼きはたい焼きではない!俺は認めんぞ!キィィィ!!」みたいな思惑から制定したのでしょうか。
調べてみたところ、『東京三大たい焼き』とは昔ながらの製法によって作られているたい焼き屋を指すようです。前述の妄想もあながち間違いではなかった。
母は都内に3店舗あるうちの1つに行ったようで、どうやらあと1店舗で制覇するらしく、「残りの1つにも近々行くんだ〜」と高揚感をあらわにしていました。
スマホに出てきたのか、グルメ雑誌で見たのか、テレビの特集で知ったのか分かりませんが、とにかく行動力がすごすぎる。還暦を迎えた後も母親なりに楽しみを見つけているようでなによりです。
*
その翌日。
帰省したはいいものの、何の予定もなく、ゆっくり起床してしばらくぼけーっとしてたのですが、スマホを弄りながらふと昨日のたい焼きを思い出し、時計をチラッと見ました。
「……今から………行けっか…?」
ありがたいことに都内へのアクセスがよいところでして、
これから出かけても十分間に合います。
で、どうせなら3店舗一気に行きたい。
まぁよく分からんけど半日あれば全店舗行けるっしょ!!
最速で巡ってやるぜ!!!
母親譲りの行動力で出かけます。
というわけで今回は最速で『東京三大たい焼き』を制覇してみようと思います。
お店の場所を調べたところ、
・四ツ谷
・麻布十番
・人形町
であることが分かりました。
母親はきっと麻布十番のところに行ったのでしょうね。
各店舗の営業時間なども考慮しながら行く順番を決めます。
今回も公共交通機関を利用しつつ、最も効率のいい回り方で行こうと思います。
今回使うきっぷはこちら。
東京メトロ線の全線が24時間乗り放題となるフリーパス。
「1日乗車券」ではなく「24時間券」なので、今回のように昼過ぎに購入したとしても損した気分にならないので嬉しいです。
外観を撮影し忘れたのですが、出発は池袋です。
13:39 池袋駅 副都心線ホーム
久しぶりに改札機にきっぷを投入し、東京三大たい焼きRTA開始です。

午前中を無駄に過ごしたので、13:41発の副都心線 急行 元町・中華街行きからスタートします。
行き先を表示するほうのパネルが故障していて、駅ナンバリングから推測しなければならず、なかなかに排他的だなぁと思いました。
でも自動放送はきちんと流れていましたし、とりあえず来たやつに乗ればなんとかなるのが東京です。
13:57 四ツ谷駅

新宿三丁目で乗り換えて四ツ谷に着きました。
丸ノ内線の四ツ谷駅は地上に顔を出したところにあるので、とても明るく開放感があります。以前はホームの端に屋根がなかったので、雨天時は特に野晒しを味わえたんですけど、今はホームすべてに屋根があります。

▲四ツ谷駅
都会の風景に馴染むキリッとした建築の駅舎でした。

国道20号 新宿通りのほうへ進みます。
ひしめき合う建造物に行き交う人々、車の往来も盛んです。
少し歩いて路地に入ったところで遠くに行列を見つけました。
あそこに違いない。
14:04 四ツ谷「たいやき わかば」

ということで1軒目「たいやき わかば」に到着です。
店を囲むように列が形成されていました。
一般的なたい焼きにここまで列ができているとは想定しておらず、少し驚きました。SNSなどで一気に広まったのでしょうか。
住宅地のなかにあるのでたまに車が通るんですけど、ちょうど並んでいたときに店の脇の路地へ入る車が来まして、その運転手が一旦停まるなり、お店の案内看板を雑にどかしていたのを目にして、ご近所さんとの関係があまり良くないのかなと思いました。
店の脇の道は私道に見えますが、案内看板や列形成のための赤いコーンをはみ出るように置いてしまっているので、それが近隣住民の不満の一因になっているのかもしれません。
店員さんもこまめに巡回して列を整理し、近所の車が来た際は通路を確保し誘導するなど、やれることはやっていたように見えました。我々も1列で間隔を空けずに並ぶなど協力が必要だと思いました。
*
かれこれ1時間くらい並びまして、暖簾の前まで来ました。
ようやく購入できそうです。

▲暖簾
15:09 購入
1時間も並んで1匹しか買わないのはさすがにどうなんだろう、と思って2匹購入しました。
すぐ食べるので、1匹ずつ小さい紙の袋に入った状態で受け取りましたが、持ち帰りの場合は包装紙で包んでもらえるようで、レジの店員さんの包装の手さばきが達人すぎて圧巻でした。スローで見たい。

▲たいやき 1匹 ¥210
店内に飲食スペースがあったのでそこで食べてもよかったのですが、まさか1時間も待つとは想定しておらず、先を急ぎたかったので駅に向かいつつ食べることにします。

できたてで熱々です。

割ってみるとあんこがぎっしり。美味しそう。
いただきます。
口に入れるなり、さっそく熱さに襲われましたが、その後すぐにあんこの優しい甘さが口のなかに広がります。これは美味しい。特にあんこが美味しい。
そういえばあんこ単体でも売ってたな。並んでる間にあんこだけ買いに来る人もいたので相当評判がいいのでしょう。
無心で食べていたら、近くの予備校らしきビルから出てきた学生がめちゃくちゃ見てきました。
お腹空いてたし、1時間寒空の下にいたので、申し訳ないけどお構いなく食べ続けました。
後日、彼は自然と予備校から少し足を伸ばして、たいやきわかばの店の前に立ちます。そして210円を支払い、たい焼きを購入します。手に持った熱々のたい焼きを頬張ろうとしたそのとき、彼はふと我に返り思うことでしょう。
なんで、私が たい焼きの口に!?

四ツ谷駅に戻ってきました。
1時間以上経ってしまったので急ぎます。
平日の昼過ぎなんだけどなぁ。
ここから乗車するのは南北線です。

フルスクリーンタイプのホームドアがお出迎え。
小学生の頃、調べ物学習みたいな時間にこれを紹介したら謎に好評だったのを覚えています。
15:30 麻布十番駅

北は浦和美園、南は海老名や湘南台に至る巨大ネットワークの一員となった南北線。行き先も多様ですが、これもとりあえず来たものに乗れば大丈夫。あとはなんとかなります。

東京を離れて5年以上が経ち、すっかり眩しくなってしまった都会の風景。久々に来ると場違い感に押しつぶされそうになります。

オシャレなカフェ、
自分よりいい生活をしていそうなワンちゃん。
それらを横目に、庶民の味方・たい焼き屋を目指します。
こちらも駅から3分ほどで着きました。
15:35 麻布十番「浪花家総本店」
列はできておらず、「これは来たのでは!! ?」と思い、勢いよく入店したら店員さんが出てきて、こう告げられました。
「1時間ほどお時間いただいてます」
なん…だと……?
ここでも1時間待ちか…。
しかし、この旅を始めてしまった以上、「じゃあやめます」なんて選択肢はありませんでした。名前と購入個数を伝えます。
「そしたらーー、たい焼きをーーー、2匹で。」
1個でいいのに。
なんならさっき四ツ谷で買ったもう1匹もあるのに。
なぜか「1時間待って1個だけ買う」ができないんですよね。
*
この1時間をどう使うか。
このうちに次の店舗に行ければ楽なんですけど、往復1時間かかるうえに、すぐ購入できるとは限りません。この調子では次でも1時間は待ちそうです。
時間が潰せそうなところ……時間が潰せそうなところ……
ダメだ。小一時間座れるようなベンチや公園がない。
ふらっと立ち読みできる書店も見当たらない。
オシャレなカフェはあるけど1時間の滞在にしては割高な値段。
麻布十番が都心すぎて街に余裕がない。
うーん……
時間が潰せそうなところ……時間が潰せそうなところ……


気づいたらマクドナルドに入って、カフェラテと「とろ~り3種のチーズのビーフシチューパイ」を注文していました。
飲み物だけならまだしもフードまで。
たい焼きを食べ比べしてる最中になんという失態。

だがこれが美味かった。めちゃくちゃ美味かった。
通年メニューではないのだろうけど通年置いてほしい美味さ。
店内は相変わらず混んでいて、安心感を覚えたのでした。
*
16:30 購入
お店に戻ってきたとき、入り口に「ごめんなさい。鯛焼きは 予約が必要です。」と書かれた幟があるのが目に入りました。1時間前は早くたい焼きを買うことしか考えてなかったので視界に入っていなかったのでしょう。僕には1時間待ちのゆとりが必要なのかもしれない。
名前を伝えたところ、すんなり購入できました。
こちらも熱々なたい焼きです。
次の店舗に向かいながら食べましょうか。

割ってみたらこんな感じ。
というかいつもは割らずに食べるんですけどね。ブログ用に。
いただきます。
皮がパリパリで美味しい。
モチフワ生地ではないので、壁一枚隔ててすぐにあんこがいるイメージです。あんこの味がさっそく広がります。
あんこの存在感がすごい。しっかりしている。
先ほどの「わかば」より甘さ控えめでこれも好きです。
冒頭で触れた"昔ながらの製法"ですが、東京三大たい焼きは「一丁焼き」と呼ばれる、一匹ずつ独立した型で焼きあげる方式が用いられています。
たい焼きと聞くと、複数匹作れる大きい型に生地を流し込み、具を乗せ、挟み合わせて一気に生産する光景を思い浮かべるかと思いますが、今回巡る3店舗は、今もなお一匹ずつ焼き加減を確認して、ひっくり返したり、火加減を調節したり、場所を入れ替えたりしながらつくられているのです。そりゃあ時間がかかるのも納得です。
ただでさえ材料費も高騰しているはずなのに、こんなにも手塩にかけてつくられたたい焼きを200円という価格で食べられることに感謝しなければなりません。

周囲が薄暗くなり始め、灯りが目立つようになってきた
六本木ヒルズを見上げます。
5年前にIターンをした私ですが、都心で働く仕事も選べました。
当時いろいろ悩んで今に至るわけですが、社会人として年月を重ねるたびに「都心で働いていたらどんな人生になっていたのだろう」と思うことがあります。
さまざまな分岐点で選択をしながら今日を生きていますが、良くも悪くも過去の分岐点でもう片方の道にいった自分を想像してしまうのです。
おっと、考え事をしていたら歩くペースが完全に落ちていた。
しっかりしろ。今はたい焼き制覇に集中だ。
もし次の店舗も1時間待ちだったら営業時間的にも結構厳しいし、「生地が尽きたので今日は終了しまーす!閉店ガラガラ〜!」なんてこともあるかもしれません。急ぐのが吉です。

うおおおおおお!!!!!意外と坂がある!!!!
16:41 六本木駅

マップで16分のところを10分で踏破しました。
よく芸人がインタビューロケで使っている六本木の交差点を目にして「あ!ここテレビでよく見るところだ!」と1人で盛り上がりながら地下へ潜ります。
17:07 人形町駅

帰宅ラッシュの日比谷線に乗り、人形町で降りました。
東京タワー行くときくらいしか乗らない路線なので新鮮でした。
また24時間券を使って普段乗らない路線に乗ったり、降りたことない駅で降りてみたいですね。

地上に出たら完全に夜の暗さでしたが、時間的にはまだまだ夕方。
冬は時間の感覚がバグります。
最後の店舗は交差点を渡ってすぐでした。
今回の企画はどこも駅近なのが嬉しかったです。
17:09 人形町「たい焼 柳屋」

商店街に面した、歴史を感じる店構えです。
他の2店舗では見なかった「高級」の文字が大きく書かれており、恐る恐る近づきましたが1匹200円でした。
今でこそ手頃な値段で購入できますが、発売当初は高級品だったのかもしれません。歴史を感じます。
なんと待ち時間はほぼ無く、5分ほどで購入できました。
17:16 購入

▲たい焼き 1匹 ¥200
これまた出来たてを購入できました。
美味しそう。

お!これまた全然違う!
皮はそこまでパリッとしているわけではなく、どちらかといえばもちっとしている部類に入ります。
あんこは例えるとおしるこのような、正月に餅と共に食べる甘さが強いタイプで、これも大変美味しいです。
普段生きてたら数時間でたい焼きを食べ比べることってあまりないと思うんですけど、こんなにも店舗ごとに味や食感が違うのかと驚きました。
見た目・中身ともに同じようなたい焼きでもお店ごとの特徴があるし、でもそこまで振れ幅はなくて「たい焼きといえばこれだよね」と思えるという、無理に変わり種を作らなくとも十分変化を楽しめる食べ物だということが分かりました。
『東京三大たい焼き』は、この先どんなに変わり種が出てきても、たい焼きがたい焼きとしてあり続けられる「威厳」や「品格」を担っているし、同時にそれは携わる方たちの努力と誇りによって守り抜かれていることを知りました。
さて、最速で『東京三大たい焼き』を制覇してみましたが、
13:39に開始し、17:16に3店舗目の購入が完了したので、
今回の記録は3時間37分でした。
想像以上に待ち時間があり、タイム的にかなり厳しい結果(?)になってしまいましたが、東京三大たい焼きを制覇することができました。
みなさんも上記のタイムを参考にぜひ制覇にチャレンジしてみてください。
ごちそうさまでした!

