太陽がそこにあるからこそ存在している惑星がある。

そして2004年6月23日にリリースされたフルアルバム『愛の惑星』は、
櫻井敦司という存在と、
彼と交わることを欲する者たちとが織り成す光を封じ込めたかのような作品である。

よくわからない？当然だろう。
とにかくこれは、ひとつの言葉では形容しうるような作品ではないのだから。

この宇宙をひとまとめしたようなアルバム『愛の惑星』のリリースに続いて、
櫻井敦司は、このソロ・プロジェクトの全貌をパフォーマンスした
ライヴ公演を実施している。

2004年、7月21日、22日の二日間に渡りNHKホールにて公演された、
【櫻井敦司ソロ・ライヴ：愛の惑星】。

コラボレートという意味においては、楽曲提供者と同様に、
本家BUCK-TICKとは、全く毛色の違った強力なメンバーが、
また、櫻井敦司という、【狂った太陽】に引き寄せられるかのように集結した。

川瀬昌知（CLOUDCHAIR）:GUITAR
三代堅:GUITAR
松田知大（WRENCH）:BASS
阿部耕作（THE COLLECTORS）:DRUM
藤井麻輝（睡蓮）:SYNTHESIZER,BACK TRACK COMPILE & REBUILD）

この強力サポーターとの科学反応で、【櫻井敦司ソロ・ライヴ：愛の惑星】は、
『愛の惑星』の宇宙を耽美で、淫靡で、生命力に溢れたステージを実現したのだ。

この模様はDVD『-EXPLOSION-愛の惑星Live2004』として完全収録されている。

そのオープニングを飾る「X-LOVER」は、Bryan Black(X-LOVER)提供によるテクノ・ゴシック。
登場した櫻井敦司は、この「X-LOVER」を盟友とも言える藤井麻輝との二人きりランデヴーで、
印象的にパフォーマンスした。

「好きな匂い　君の匂いと血の匂い
　君を思い　僕は果てる」

シンセベースのサウンドが、不可思議に印象的な一曲目、
サングラスの櫻井敦司は、まるで、マイク・スタンドをポールに例えたポルノダンサーみたいだ。
彼独特のセクシーさが、会場を異様な“GALAXY”へと誘う。

櫻井敦司の“色気”は、人類学的に見ても特殊である。
かつで、バイ・セクシャルをカミング・アウトし、
ロックのカルト性を決定付けたグラム・ロックの両性具有シンガー、デヴィッド・ボウイが、
“ZIGGY STARDUST”を名乗り、地球に堕ちた宇宙人として、
異様とも言える“色気”を放出していたが、
それと、同系の妖艶な“色気”を、強烈に、この一曲目「X-LOVER」で充満させている。

「君が揺れるたびに　君を殺すたびに
　君を想い果てる」

サングラスを外した櫻井敦司。

この魔力は、常人の者ではない。

そして、彼の奏でる初のフル・アルバム『愛の惑星』。
収録されたすべての楽曲が、それぞれに異なる豪華なアーティストたちとコラボレーションで作られているが、
そんなヴァラエティ豊かなサウンドの中で、彼のこの強力な“魔力”と“色気”が充満し、
これまでどおりの彼らの“らしさ”とが理想的に同居した作品に仕上がっている。

アルバム『愛の惑星』をリリースしたばかりの櫻井敦司へのインタヴューを、
『UV』誌から引用抜粋しよう。

（以下、引用抜粋）

――……今、どんな気分です？

「やっと終わった、という感じですね。
2月の後半からずっとやってきたんで、本当にそういう感じです。
アルバム自体の作業はちょっと前に終わってたんですけども、
ま、それ以外にもいろいろ、次のシングルだとか、他のものだとかあったんで」

――特典用の音源だとか？

「ええ、それが昨日ようやく終わったんで。
やっぱモノを作るっていうプロセスが終わってくれると
“ああ、もう机に向かって何かしなくて済む”と思えますし（笑）」

――それがあるとないとじゃ大違いですか。

「もう、全然違いますね（笑）」

――そんな言葉を聞いて思うのは、やっぱり櫻井さん、手加減のできない人だなってことなんです。
今回の作品みたいな作業の場合、周囲に任せてしまえる部分や任せざるをえない部分も大きいわけで、
割り切ってラクをしようと思えば案外労せずにいられたと思うんですよ。

「ええ。結局、貧乏症なんでしょうね（笑）。
でもまあ、いろんな人に助けてもらってますし、
こういうことで悩んだり、考えたり、疲れたり……
そういうことをさせてもらえるってこと自体がシアワセだと思いますから。
任せてられればもう、全部任せちゃっていいとも思うんですけどね。
やっぱり基本的に好きなんで、
そこで自分にできそうなことはなるべくやってしまおうとするところがあって」

――それは周りの人たちのホンキさ加減が伝わってくるからでもあり、
マジで臨まずにはいられない曲や素材が集まってきたからでもあるわけですよね。

「ええ。実際、14人の方たちを紹介するような作品でもあるんじゃないかと思いますし」

――なるほど。
たとえばトリビュート作品の場合、トリビュート対象に対する解釈が参加者だけで詰まってるじゃないですか。
作品の性格としてはそういう部分があるかも？

「ありますね。
“これ”っていうことを、全体では言えないアルバムというか、自分ではそれを考えていないというか。
とにかく1曲1曲で完結してますんで」

（以上、引用抜粋）

櫻井敦司は基本的には、腰の重い人間であると思う。
その証拠に、これまでも、ソロ・プロジェクトの話は、彼のもとに数回オファーがあったようだ。
しかし、BUCK-TICKという彼のライフ・ワークの存在が、それを迂回させていた。

今回、このソロ制作の活動に乗り出したキッカケも、
クリエイターとしての相棒：今井寿の別バンドでの活動がトリガーとなり、
信頼できる旧知の恩師とも言えるレコーディング・デレクター田中淳一氏の存在が、
彼に、その重い腰をあげさせる要素となった思われるが、
一度、取り組んだ仕事としてのソロ・プロジェクトに対して、
一切の妥協を許さないプロ根性を感じずにはいられないのだ。

恐らく櫻井敦司に、気軽にノリで一発で決めるような仕事は、不可能なのだろう。

乗り掛けたからには、トコトン行くしかないのだ。

それは、彼の生き方、美意識の問題だ。
良い悪いの問題ではない。

よって、このフル・アルバム『愛の惑星』は、
普通のアーティストであるなら、
コンセプトの基に、3作品ぐらいには分けられそうな内容が、凝縮されている。
そんなミックスされた世界観が、一種独特な宇宙に封じ込めれてた力作と言える。

其処には、一点の曇りなき、果てしない、愛の宇宙が展開され、
荒唐無稽ながらも、櫻井敦司の“信念”という引力が、ひとつの作品としてのカタチを保っているのだ。

誤解を恐れずに言えば、器用な今井寿によるLucyの『ROCKAROLLICA』ような、
分り易さや、爽快感、などというものは、この櫻井敦司の世界には存在しない。

その変わり、深く、濃く、何処までも心の奥底を貫いていくような“叫び”が、
我々の深いところまで浸み渡って行き、一度ハマると逃れることは不可能だ。

アルバム『愛の惑星』。
決して、取っ付き易い作品とは、言えないだろう。

しかし、櫻井敦司という人物を知るには、
そして、彼の暗闇に巣食う世界観を堪能するには“最高の作品”である。

X－LOVER
（作詞：櫻井敦司　作曲：Bryan Black）

飛び散る汗　溶け合う生に　血が滲む
君を思い　僕は果てる
君が揺れるたびに　君を殺すたびに

好きな匂い　君の匂いと血の匂い
君を思い　僕は果てる
君が揺れるたびに　君を殺すたびに

君が揺れるたびに　君を殺すたびに
君を想い果てる

X-Lover/櫻井敦司