ああ、くそっ!
神様も死後の世界も転生も信じていない。
それでも、祈らずにはいられないときがある。
今がそうだ。
どうか、どうか、どうか。
それでも、祈らずにはいられないときがある。
今がそうだ。
どうか、どうか、どうか。
それは心がさらわれるような、妖しい妖しいお芝居だった。
花道を駆け抜け、舞台を踏み鳴らす役者が巻き起こす風。
かつて織物で栄えた、斜陽の田舎町から都市に出てきて、
最初に観た芝居は、上野の水上音楽堂を覆った紅のテントのなかで展開された。
不忍池からしぶきを上げて浮上した、ジュラルミン製の鯨の尾。
鯨に突き立てた銛のロープに足をとられて海に引きずり込まれた捕鯨船の砲手も、
不忍池から逆さ吊りに浮き上がる。
観客の女の子から黄色い歓声があがる、当時はまだ世間では無名の小林薫だ。
ヒロインの李麗仙、その相手役も世間的には無名の根津甚八。
そして、李と根津にからむ狂言回しが天竺五郎だった。
役名はイサリビ。
鯨を求めてロス海に向けて船を出すために、船員を集める鯨獲り、九鬼のイサリビだ。
それまで見たこともない芝居、見たこともない演技をする役者。
そのなかでも異彩をはなっていたのが天竺五郎だった。
(つづく)
花道を駆け抜け、舞台を踏み鳴らす役者が巻き起こす風。
かつて織物で栄えた、斜陽の田舎町から都市に出てきて、
最初に観た芝居は、上野の水上音楽堂を覆った紅のテントのなかで展開された。
不忍池からしぶきを上げて浮上した、ジュラルミン製の鯨の尾。
鯨に突き立てた銛のロープに足をとられて海に引きずり込まれた捕鯨船の砲手も、
不忍池から逆さ吊りに浮き上がる。
観客の女の子から黄色い歓声があがる、当時はまだ世間では無名の小林薫だ。
ヒロインの李麗仙、その相手役も世間的には無名の根津甚八。
そして、李と根津にからむ狂言回しが天竺五郎だった。
役名はイサリビ。
鯨を求めてロス海に向けて船を出すために、船員を集める鯨獲り、九鬼のイサリビだ。
それまで見たこともない芝居、見たこともない演技をする役者。
そのなかでも異彩をはなっていたのが天竺五郎だった。
(つづく)
