(第二幕)

その1

局長部屋から出た近藤とすれ違いざま「俺はこれから湯本の店にでも行くが近藤さんはどうする?」と歳三が声をかけた。
「湯本の日野屋もたまには行きてぇが、ここんとこ祇園あたりに薩摩連に混じって長州が飲んどるちゅ〜話でな、
偵察もあり湯本にはしばらく行けそうもない」
近藤は面白くないとでも言いたげに眉間をよせた。
(祇園に新しい女ができたか)トシは、ニヤっと顔を歪めると近藤もニヤっと返して別れた。

湯本街にある柳康亭の奥座敷で芸妓の山久が金蘭の着物でトシを迎えた。
「うれしいわぁ、カステラがトシはんを連れてきてくれたん」
山久は柳康亭一番の人気妓。
人気妓は好きな客しか取らなくてもいいが、さらに山久の場合、土方歳三だけしか客としない。
売上は申し分ない。
だが、他の大店の旦那たちから女将が再三不満を言われ続けている。

トシは、両差しを置きムスッとすわり、「カステラ? なんの話だ?」と返す。
「ややわ、あないに驚いた顔でうけとったやあらしまへんか。うち、嬉しかったんどすえ」
男と女の他愛もない言葉の遊びとトシは軽く流すつもりであったが、
「青柳の大旦那にお願いして..」と山久が真顔で言いかけたのを遮り、
「青柳って、あの甘菓子屋の青柳のことか?」
「そうどす」との山久の返事にトシは鋭く一点の空間を見た。

「間違いなく俺の家だったんだな⁈」「俺だったんだな?!」切るように山久に尋ねた。
山久はトシが何を考えているのかわからず「いったいどないしたんどすか?」
トシはおもむろに立ち上がり「すこしここでまっててくれ、気になることがあるんでな」
と言い残して廊下をかけるように走って行った。
 

その9

男の帰宅に お龍は嬉しそうに迎えた。
「ご機嫌がようなったか。昼間はあんなに機嫌が悪かったのに・・われはおもしろい女や」と男もケロッと返す。
「何言うてるん? 何にも機嫌がわるいことはなかったどすし、昼はここにいーひんかったやん」
話がかみ合わないのは、まだ、こころの隅っこに嫌なことがくすぶっていると男は考えた。

「あいたは長州にで少しお龍にさみしい思いをさせから、何かええ土産を買うてくるきに。
なもんで、これからどうぜよ」と男は襟元を触りながら様子をうかがった。
「帰ってきたばっかりどすえ、ややわ」とお龍はぷいっと後ろを向き「はよう湯屋にいっとぉくれやす」
と立ち上がって桶と手ぬぐい、ぬか袋を用意しに向かった。
 

その8

警官は最初の闖入事件らしき現場を離れると署から連絡が入った。
となり向かいの家にも若い女性がカステラを持って勝手に入ってきたとの知らせ。
すぐに現場に入り通報者に状況を確認することにした。

「たぶん、ボケだな。 二人ともいい婆さんだけどあの年じゃ判断もつかんだろな」
警官はカステラなどを手土産になんかの飛び込み営業を ボケのせいで男だ女、着物だ、刀だなどと妄想したんだろう」
一応、大竹という2番目の通報者には 斜め向かいのお宅にも入ったとの通報を受けて調べてきたこと、
ただし、侵入者が男だったことを説明し最後に「まっ、ご用心ください」と言って重い足取りで現場を離れた。

光子は、驚きと興奮を丸出しにしたのまま、闖入者は着物を着た美人の娘で、
丁寧な挨拶はしただけど遠慮なしに家の中に入り込んできたこと、
自分に向かって(トシさん)と呼んだこと、そしてカステラが入ったから食べてと言ってシナを切って出ていったこと。
これらを78歳の婆さんが唾を飛ばしながら同級生のはなちゃんに説明の火蓋を切った。

その7

「結構飲んだね、そろそろ〆たほうがええんじゃなかですか?」とお勘定をするように長次郎が促す。
「そうやな、そろそろ終わろうか。
やけんど、あいたは長州路なのに今日のお龍の機嫌ではすっきりせん気持ちのまま長州に行くことになるぜよ」
男は考えあげて沢じいの意見に従いお龍の不満をまず聞いて機嫌が直ったところで
閨房に入り清々しゅう長州に立つのがよい、それがええぞ!と長次郎と別れた。

嵐が出ているバラエティー番組が9時で終わった。
テレビを消し就寝前のトイレに立つ。
(ガガッ)誰が玄関を開けようとす音。
身が固まったまま戸を凝視する。

戸の外から「花ちゃ〜ん!」と、となり向かいの友達 光子の声。
「あっ、みっちゃん?ごめんなさい、待ってて」
みっちゃんは、座りざま「はなちゃんとこにも来たんだって⁈ うちも来たのよ」

その6

好意を持たれることは悪いことではない。
笑顔はわるくない、でも、私に強い印象を与えたいのはわかるにしても着物はすこし古着ているし、髪もだらしがない。
本当に私の気を引こうというのならきちんとした格好で来れないのかしら。
でも、背は高いし優しそうな感じの男だった気がするけど・・・
むくっと起き上がって冷蔵庫に向かう。

危ないかもしれない、でも、どんな味か気になる。
恐る恐る箱の蓋を開けカステラをしばらく凝視して一かけ男のようにパクリと口にした。
「あら、すっごく甘い! どうしましょ、これって・・」