創作物

創作物

籠ノ鳥の小説置場。
第一部*庭師物語(完結)
第二部*ジャルディーノ・デル・ドルチェ(完結)
間章*星謳ひ(完結)
第三部*愛した世界(完結)
第四部*楽しい人間世界(連載凍結中)
最終部*幸せのかたち(四部終了次第開始)

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思えば、彼女は小さい頃の私にそっくりだったのだと、ふと思った。
おばあちゃんが残してくれたアルバムを引っ張り出して、表紙を捲る。
そこには、おばあちゃんが亡くなるまで撮ってくれていた私の姿。インスタントカメラで撮ったから画質とかそういうのはあまり期待出来ないものだったけど、その代わり丁寧に一つ一つ収められている。(お父さんから貰ったのか、おばあちゃんと一緒に写っているのもある。)

「あ……」

そして一枚を境に私は笑っていなかった。きっとここからがステラのいなくなった私。
『世界』を捨てた私に残ったものはおばあちゃんだけ。高校に入れば解消はされたけれど、根本的な解決には至らなかった。
両親が離れ、本当の自分と別れ、彼らと私の歩幅は大きく広がっていて。
桃や美璃亜たちがいなければ、きっと私は孤独の中で死を迎えていたのだろう。
寂しくて、悲しい。ステラの抱いていた私の気持ち。

「…もう大丈夫」

そっと撫ぜた写真に呟いて、アルバムを閉じた。


「………」
ふわふわとたゆたう感覚。僕はまだ意識があるのだろうか。抱きしめられた身体はもう動かない。
最後に見た色葉の笑顔は、僕たちを捨てる前のことを思い出させた。最後に抱きしめたのは、そう、調度人魚が殺された次の日だ。
拭いきれない罪悪感を背負ったまま僕はまだ幼かった色葉を抱きしめた時がある。

こんなはずじゃなかったんだ。なんて、誰に向けるでもなく言い訳をして縋った。今じゃ苦い思い出だけれど。

「かなしいなぁ…」

本当は君のこと、大好きなんだ。

「あったかいなぁ…」

嫌いになったことなんて、本当に、一時もなかったんだよ。

「おしまい、なんだなぁ」

こんな言い訳で、幼かった『私』は『僕』を許してくれたのかな。


診断メーカーより
色葉が最期に見たのは大切な人達との距離に気づく夢でした。それは孤独感を抱くような、悲しい夢でした。またどこかで。

ステラが最期に見たのは大好きな人を抱きしめる夢でした。それは秘密を隠し通すような、温かい夢でした。元気でね。

ミステリオが最期に見たのは故郷へと帰る夢でした。それは過ちを償うような、温かい夢でした。やっとおしまいだね。
「ねぇハルトきゅん、今日こそ私と朝シャンしよ?」
「やあ!りいちをちゃい(いってらっしゃい)するの!」
「もーう!ハルトきゅんったらいっつもディバットとか利一ばっかり…みらのこと嫌い?」
「………ふぇ…」
「はいはい、ハルトさんはオレと一緒にお見送りしましょうね」
「ディバット!」
「なんならみらさんも一緒に」
「…むう、シャワー浴びてくる」
「あっ、みらさん…」

ハルトをディバットに取られたみらは、拗ねてバスルームへ向かってしまった。
ハルトはその背中を寂しそうな目で見つめており、後で一緒に謝ろうと提案すると、今日初めて笑みを浮かべた。


「すいません利一さん、麦茶切らしてて…」
「構わん、昨日の夜から想定していたからな。なに、そこらの同僚から貢がせるさ」
「えげつないですね…」

弁当を渡すとネクタイをチェックし終えた利一が鞄に突っ込んだ。
ディバットの腕に抱えられたハルトは利一に手を伸ばす。

「りいち…」
「…ハァ、わかってるよ。ハグだろう?」
「! あい!」
「いってらっしゃい」
「行ってくる」
「ちゃーい」
「いってらっしゃーい」
「うおぉ!?華さん!?」

突然ディバットの背後から現れた華に目もくれず、利一は仕事に向かって行った。
昼間に働いているのは利一のみで、ディバットと華は仕事に就いてない。ディバットはその見た目からして悪目立ちしてしまうし、そもそも戸籍がない。
華は論外だ。

「よし、まずは洗濯っと…」
「そんなのワタシがやりますよ!ディバットさんはテレビでも見ててください!」
「え、でも…」
「これもディバットさんへの花嫁修行ですから…きゃっ!言っちゃった!」
「………」

嬉々と家事を始める華は今に始まったことではない。
暇になってしまったディバットがどう過ごそうか悩んでいるとハルトがこちらを見上げた。

「ディバットー」
「なんですかハルトさん」
「あのねー、絵本よんでほしいの」
「いいですよ、どれがいいですか?」
「んーとねー…」

絵本の並んでいる棚の前でハルトの答えを待ってると、目の前に一万円札が現れた。
驚いてその金を持つ腕を辿ると、せらが不貞腐れた顔をしている。

「せ、せらさん…?」
「…利一の馬鹿が渡せって」

目の前にずいっと押し付けられ、機械に弱いディバットが堪らず受け取ったその端末はキラキラとしたデコレーションやジャラジャラと付けられたキーホルダーで飾り付けられてズシリと重い。
利一の持っているそれと比べると、本来どれだけ軽量されたものなのかがよくわかる。

その画面はどうやら会話アプリでの行われた利一との会話の流れのようで、一番下には利一の名前から出ている吹き出しが『ディバットに幾らか渡したらお前の秘密145番をバラさないでやる。』と呟いていた。

「…145って…」
「あいつマジムカつく!どんだけあたしの秘密あんわけ!?」
「というか、一万なんて貰えないですよ!」
「万札しかないの!ていうか、貰ってくれなきゃマジあたしがシャレになんないし!いいから貰って!なんならソイツの本買っていいからさ」

せらは受け取る気のない彼に半ば無理矢理お金を押しつけると、利一の布団を敷いて寝てしまった。
本来せらとみらはこの家で寝ることはないのだが、帰ってきた時から眠そうにしていた。

「あたし昼ぐらいまで寝るから、出かけるならお昼とっといてね 」
「あ、は、はい」
「ディバットー、こぇにする!」
「ハルトさん、これ好きですね」
「うん!」

ハルトに絵本を読み聞かせていれば、華がいつの間にか昼食を作り始めている。
匂いからして炒飯だろう。

「華さん、ありがとうございます」
「や…やだディバットさんたら!さすが良妻だなんて褒めすぎですぅ!!」
「そんなこと言ってないんですけどね…」
「えー、華が作ったのー?久しぶりにディバットが作ったのが食べたかったー」
「文句言ってんじゃないわよ」
「け、けんかやだぁ…」

先にハルトに昼食を取らせている間、財布に先程の一万円札をつっこみ、ハルトの外出用リュックを準備する。

「…お出掛けですか?」
「はい、ハルト連れていきますね」
「…いってらっしゃい、です」
「いってらっしゃーい、気をつけてねぇ!」
「まーす!」

外は綺麗な秋晴れだ。



外は華が唯一嫌うものであり、ディバットが安心できるものである。
ハルトはディバットの指をしっかりと握り、最近流行りの子供向け番組の歌を口ずさんでいる。体もリズムに乗ってゆらゆらと揺れていた。

本屋へ訪れ、子供向けコーナーに立ち入る。平日だからか、そこには誰もいなかった。ディバットはハルトを抱え、絵本を選ばせた。

「よいしょ、どれがいいですか?」
「んー、んーとね…」

ハルトの目線は作者名があ行の部分にしか向けられていない。

「こぇー!」
「シー、ですよ。…あ、新作出たんですね、この作者」

指差す本を抜き取り、表紙を見るとそこには『ひとりっこ どうぶつえん』と題名があり、その下には一人の角の生えた女の子が立っている。
作者の名前は『えのもと まいこ』。絵はどうやら別の人が描いているらしい。

この『えのもと まいこ』の絵本は、ハルトのお気に入りである『ひとりっこ サーカス』の作者だ。話自体は何だか不思議な展開で、成熟していない子供だからこそわかるものなのか。とにかくディバットはよくわからなかった。

「じゃあこれ買って、公園にでも行きますか」
「こーえん!」

ハルトは元気良く返事してしまい、ディバットは慌てて静かにのポーズをする。
ハルトがそれを真似して、店内は客と店員の微笑みで溢れた。
朝の五時。
ピピピとデジタルアラームが鳴り出した。一人がむくりと布団から腕を伸ばし、その手をさまよわせたあと、そのアラームを止める。
そしてゆっくりと体を起こすと、改めてその時計を覗き込んだ。

「くあぁ…。もうこんな時間か…」

彼の名前はディバット。悪魔である。
一見彼は日焼けた金髪のチャラ男に見えるが、耳は長く、本来白目であるべき胸膜は黒い。まあ、人間ではないことはおわかりだろう。
彼は静かに時計を元に戻すとグッと体を伸ばし、一息ついてからチラリと横を見る。

目が合った。

「…おはようございます華さん。またですか」
「おはようございますディバットさん。アナタのいるところにワタシ有りですよ?」

ディバットの布団から出てきた女性の名前は華(はな)。所謂ストーカーだ。
ディバットを人目見るやいなや、彼女は貴方のだったんだわ!と叫び、それ以来目をハートにして彼をしつこく付き纏ってくる。
彼女は頬杖をついていた体制から起き上がると、ディバットのさらけ出された上半身に指を這わす。

「ハァ…今日も素敵な肉体美…」
「ヒイィィッ!!や、やめてください華さん!!」
「あぁん、ならワタシを思いきり突き飛ばして!踏んで!踏みまくって!!」
「嫌だァァッ!!」
「騒々しいこのスカタン」
「ギャンッ!!」
「り、利一さん…」
「これから始まる僕の爽やかで素晴らしい朝が台無しだ。どうしてくれるんだこの雌犬」

そう言って華をディバットから離し、突き飛ばして踏みにじる男、利一(りいち)はディバットに時間が惜しいことを告げる。あれから五分経っていたのだ。
彼は会社員なので一秒でも惜しいのだろう。

「仕方ないな。今日のところは僕自身がコーヒーを煎れる。君はちゃっちゃと僕の弁当を作るんだ」
「…コーヒーの見返りは?」
「僕を分かってきたじゃないか。そうだなぁ…まあ考えておくよ」

利一はとても狡賢かった。何事にも必ず見返りを求めて行動するギブアンドテイク精神が彼を動かす元になっている。

「ハァ…久しぶりだったけど、利一くんの踏みつける力は衰えてないのね…素敵…」
「あ、あの…」
「大丈夫ですよ!勿論ワタシのイチバンはディバットさんですからね!」
「はぁ…」
「お弁当ですよね、ワタシも手伝いますぅ!」
「どうも…」

華はスキップをしながら台所に向かっていく。溜め息をついてやっとのことで足を動かすと、小さな泣き声が耳に届いた。
四歳ほどの子供が泣きながら、こちらに向かってくる。背丈からしてこの中の最年少だ。

「おはようございます、ハルトさん」
「あぅ…おぁよ、ぐす…」
「また怖い夢を見たのですか?」
「うっ…うぇぇ、ディバットぉ…」
「ちょっとハルト!ディバットさんに抱きつくなんて羨ましいっ!!」
「うあぁぁぁん!!!」
「ああもう華さん!」
「だってディバットさぁん!」

ハルトは華から送られる嫉妬の眼差しに耐えきれず更に泣き出してしまう。ほんの幼いハルトにさえ彼女の愛は容赦などしなかった。
本来の華はハルトに無関心だったのだが。

「うぇぇぇん!」
「えーっと…」
「たっだいまー」
「やーん!ハルトきゅん泣いてる!どうしたのー?」
「せらさん、みらさん」

所謂朝帰りをしてきた双子はせらとみら。せらは真っ直ぐリビングに向かって行ったが、みらは泣いてるハルトに寄ってきた。
ちなみに二人は奇抜な目と髪をしているが、ブリーチとカラコンで、列記とした日本人である。

「また朝帰りか糞餓鬼共」
「何よ、ちゃんと稼いできたんだからいいじゃん」
「良いわけあるか。大半はお前たちの小遣いだろう」
「だって稼いだのあたしたちだもん。トシゴロってことでいいでしょ?」
「社会をなめるなクソビッチ」
「ちょっと!私とせらを一緒にしないでよう!私はちゃーんと利一に三分の二くらい渡してるでしょ?ねーハルトきゅん!」
「えぅ…わ、わかんないよぅ…」
「あーんもうハルトきゅん可愛い!ホント男の子なの?女の子なのー!?」
「うわぁぁんディバットぉぉ!!」

「ああもう!近所迷惑になりますよ!!」


とある日本のアパート三〇三号室の朝の風景である。
ご無沙汰しております。籠ノ鳥です。

この度は四部の話(以下、旧四部とさせていただきます。)を丸ごと変更させていただくことをご報告させていただきます。
というのも、私事ではありますが、私生活が慌ただしくなったことと、更に執筆がまともに上手くいかず、構想も出来なくなってしまったからです。

これからの四部は『楽しい人間世界』というお話で展開していこうと思います。
尚、この旧四部の登場人物たちは新四部で登場予定です。旧四部は私情でこの場から全て削除させていただきます。申し訳ありません。

執筆率は格段に遅いですが、宜しくお願いいたします。
「ペッカリだ」
「いーや、ヨクエリ だね」
「…いや、何の話よコレ」

風君と桃が珍しく口論していた。
学校に限らず休日に集まった時も小学生のように馬鹿騒ぎするぐらい仲が良い二人だから、こんな風に言い合いするとこを私は初めて見た。
すると、美璃亜がこっそり私の耳元に顔を寄せた。

「あのね、ペッカリエストとヨクエリアーズってあるでしょ?」
「スポドリの?」
「そうそう。でね、どっちがスポーツドリンクの頂点かって…」
「くっだらな…」

動くことが大好きな二人らしいといえばらしいが…。
よく聞くのは『やまいもの町』と『さといもの村』の論争。俗に言う『山里の戦い』だが、これもまた不毛な争いだ。

「だってペッカリって味濃いじゃん!飲んだあと喉がイガイガするじゃん!」
「それは菊之丞さんが飲み方下手くそなんたよ!ヨクエリなんて逆に薄すぎて補給出来てるのか心配になる!」
「出来るから世の中に出てるんじゃろがい!ヨクエリなめんなよ!」

…いや、本当にくだらない。

「私、しきはすとかゴルベックしか飲まないけれど、これは絶対結論が出ないってわかるよ…」
「水しかっていうのも中々ないよ心ちゃん…。色葉ちゃんはどっち派?」
「私?」
「うん。私もあまりスポーツドリンク飲まないから二人の参考にはなりえないんだけど…色葉ちゃん、たまに飲んでなかったっけ?」
「そういえば!!」
「そうなのか和歌山さん!!」
「え」

私に視線が集まり、気まずくなる。美璃亜め、余計なことを。

「なあ和歌山さん教えてくれ!」
「ペッカリとヨクエリ、色葉はどっち派!?」
「え、えーっと…」
「「さあ、どっち!?」」


「…あ…ANOSA…」

一拍。

「え、ええええええええええええええぇえええ!!!!????」
「あ、あの今では本当に大型スーパーでしか見ないようなあの!?」
「だ、だってあれが一番飲みやすいんだもん…」
「色葉ちゃんがだもんって…!だもんって…!」
「小鳥遊さん、観点がずれてるわ」
「嘘嘘嘘!!?この辺じゃ見ないじゃん!!」
「だから最近は専ら極彩飲んでる」
「選ばれたのは!!極彩なんです!!」


それからも二人がとても五月蝿かった。



「…僕はハローグリーンティだなぁ」
「ステラァ何の話ィ?」
「なんでも。ただ同じでも好みは違うもんだなぁって」
「貴女また覗いてたのね。私はロマンスの紅茶が好きよ」
「ボクまろやかミルクゥ」
「キミまさかの牛乳かい…」