「あき…ちゃ…?」

空気が変わっていた。
先ほどまでとは纏うものが違う。

「高城ーッ!貴様ぁーッッ!!!」

浦野が吠える。
彼女もまた先ほどまでの余裕がどこかへ消え、狂ったように豹変していた。

「わたしの左手ぇ!どうしてくれんだよぉ!?」

消え去った左手からは血が噴き出している。
しかし浦野の痛みは怒りで通り越していた。
憤怒が僅か数メートル先の高城に飛ばされる。
眉間に皺が寄り口調は荒々しい。

「おい!そこにいろ!今すぐてめぇーの首を跳ねてやる!」

高城に向け指を指し近づこうとしたその時だった。
高城が浦野に向け掌を翳す。

「ッッ!!!」

浦野が危険を察し体を大きく逸らす。
すると彼女のいた空間から凄まじい破裂音が響いた。

(これは………やはりこいつスタンドを…)

浦野が睨み付ける。
しかしまた高城の掌は彼女へと向く。

ドンッ!!!

何もないところから生まれる謎の爆発を浦野は間一髪で回避していく。

(範囲は狭い、これなら高城の動きに合わせて避けられる。後は近づければわたしの勝ち)

浦野は近距離なら勝算があると踏んだ。
何せ軽く頬を撫でただけで人一人吹き飛ばせる力。
全力で打ち込めば決着を付けられる。

瞬時に思考を張り巡らし答えを導く。
そして高城へと駆け出した。

「うりゃあッ!」

爆発を回避しつつ高城に迫る。
じわりじわりと間合いを詰め追い込んでいく。
気づけばその距離は拳を伸ばせば届くところにまで縮まっていた。

「残念だったわね」

浦野が静かに言い放つ。
その目は恐ろしいほど黒く染まっていた。

「この距離ならあなたが爆発を起こすよりも速く拳を打ち込む」

息が詰まるような緊張感。
両者がお互いの生殺与奪の権利を持っている。
ただ少し浦野のほうが優位にある。
それは高城もわかっていた。
しかし彼女の瞳には光が消えてはいなかった。

「相討ち覚悟でやってみる?」

高城の未だ消えぬ闘志を感じとる。
指先から爪の先まで全神経を集中させる。
仕掛けるタイミングを窺っていた。





汗が零れた。
床に落ちた雫が染みとなって彩る。
しかし高橋は目を放さなかった。
二人の戦いから、高城の勇姿から。

目を開いた時に感じた違和感。
それは浦野にでも他の誰でもない、高城自身。
感覚は同じだった。目の前の浦野と。
その身から発するオーラの如く気は押し潰されてしまいそうなほど重かった。
それでも彼女から放たれてくるのは『守る』という意志。

力になれない
どうすることもできない
ただ今は目の前の彼女に命運を託すだけ
信じることしか、願うことしかできない
それでも…





「勝って!あきちゃ!!!」

その声と同時に二人は動く。
まるでスタートの合図を待っていたかのように。

(爆発が起こるよりも先に)

浦野の拳が一直線に高城の顔面へ放たれる。
全力で渾身の一撃。
高城へ直撃するその瞬間だった。

ドコォン!!!

肌と拳が交わるその刹那、破裂音が響き、浦野の拳が逸れる。
高城の頬を微かに抉り通過した。

「確かに速さなら負けていました。でも浦野さんの一撃を避ける術ならありました」

高城の背後に人型の化身が現れる。
高城の動きに連動し拳を握り締めた。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」











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