東経135°太平洋に浮かぶ島国、日本。
黄金の国『ZIPANG』などと呼ばれていたのは遠い昔。
1945年の敗戦を経て最先端技術を筆頭とする電子技術先進国の現在に至る。
そんな最先端技術の最先端、そこが秋葉原。

「久しぶりの公演か~」

「あきちゃ楽しみにしてたもんね」

「うん、体が疼いてるよ」

「うずうずしてる、ね」

首都東京から神田を挟んだ次の駅。
そこが秋葉原。
電器量販店が建ち並び多くの人が忙しなく動いている。
その種に於いては日本でも有数であろう。
しかしそんな街にはもう一つの顔があった。

『友よ~思い出より~』

街にはこれでもかというほど同じメロディーの音楽が流れ、テレビをつければ歌を顔を見ない日はない。
それがAKB48。
国民的アイドルグループとまで言われるようになった彼女たちを輩出したのはこの地だった。
そんな彼女たちが本拠地として活動する劇場。
それはドンキホーテの八階に構えられ、隠されるようにしかし特殊な存在感を放っていた。

「はい!みんな集まって!」

劇場のステージ。
広いとは云えないその空間の真ん中で高橋が叫んだ。
すると瞬く間に彼女を中心に輪ができる。

「今日は久しぶりの公演です」

高橋がいつものように早口でしかし全員に伝わるように言う。
周りのメンバーは真剣な眼差しで聞いている。

「冬からこの数ヵ月間たくさんのことがありました」

それは当然前田、大島のことを指していた。
二人の突然の消失により活動の幅の縮小を余儀なくされていた彼女たち。
チームAはこの日ようやく劇場公演を再開する。

「こうしてまたここに立たせて頂けます、心を込めて最大限のパフォーマンスを見せましょう」

高橋の言葉に皆頷きながら聞き入る。
各々思うことがあるのだろう。
当たり前だ、共に歩んできた仲間が姿を消した。
それがどういうことなのか彼女たちに知る由もなく真実は闇の中にある。
それでも立ち止まってはいられない。
進み続けていかなければいけないのだ。

「それじゃあ振り付けの最終確認して頑張っていきましょう!」

高橋が渇を入れる。
その後に纏まった返事が返る。
一致団結を見せると再び各自で自主練のために散り散りに散っていく。
しかしそれらの姿とは対照的に輪の中心にいた彼女はそれが解かれると一人別室へと消えていった。





誰しもが過去に捕らわれて生きている。
過去の柵を抱えながら歩んで行かなければならない。
背負うものの重さが違えども彼女に関して云えばその責任感は人一倍と言えよう。

「あっちゃん…優子…」

活動の自粛を最も重荷に感じているのは高橋だった。
前田を止められなかった責任か気づけなかった後悔か。
そのどちらにしろ高橋は自分を責めた。
そしてまだ彼女の心は過去から動き出してはいなかった。

本当にこれでいいのか。
前田や大島を欠いたことが重要なのではない。
喩え一億分の二でも、四十八分の二であっても二人はかけがえのない二人なのだ。
頭を抱え俯いた視線の先に映る白いテーブル。
しかしそれは自分の影で黒く滲む。
まるで彼女の心を映し出しているかのように。











これは『旅立ち』の物語。
それは文字どおり何かからの旅立ち。
言い換えるのならば清算。
宿した罰を洗い流す清算。
曖昧な言葉に曖昧な表現。
しかしただ一つ云えることそれはとある惑星のとある島国のとある街にあるとあるアイドルグループが織り成す、引かれ合う運命の数奇で奇妙な物語であるということ。



ようこそ、秋葉原へ












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