どんなものにでも必ず終わりというものがやってくる。
それは勿論人にも。
だからこそ覚悟しておかなければいけない。
その終わり方を、最後の姿を。



「ここにいるといろんなことを思いだしますよね?」

「あぁ、実に長かったな…ここまでくるのに」

前田と秋元が交錯する。
お互いにその腹に抱えたものを知る由もない。

「秋元先生、先生にはここにあるものがどう映りますか?」

秋元は視線を移す。
彼の瞳に映る過去の記憶たち。
それを見て何を思うのか。
秋元は何も言葉を発することはなかった。

「秋元先生、あなたに十年後わたしたちの姿はどう映っていますか?」

「・・・・・」

「ここにあるもののように廃れた過去の産物ですか?」

「・・・・・」

「それとも記憶の片隅にもなくなってしまうのですか?」

「・・・・・」

必死に想いを投げつける前田。
頑なに黙る秋元。
2人の姿は実に対照的に映った。











『前田敦子14才、よろしくお願いします』

その日一番の輝きが秋元の目の前に現れた。
一見彼女はどこにでもいるごく普通の女の子。
これといった特徴もなければ歌が上手いわけでもスタイルが抜群というわけでもない。
しかし秋元の目には確かにその輝きが映っていた。

『戸賀崎…』

『はい?』

秋元は戸賀崎を呼び寄せると耳打ちで囁くように伝えた。

『彼女は合格だ』

『え?!』

『だから彼女だ…前田敦子』

戸賀崎は言葉を疑った。
動揺して聞き直してしまった。
しかしそれほど驚く言葉だった。

『彼女をですか…?』

『なんども聞くな』

『ですが…』

戸賀崎の目から見ても前田にそれほどの魅力は感じない。
前田以上に可愛いと思える人材はいくらでもいた。
小嶋陽菜に大島麻衣、篠田麻里子。
先に内定させるなら彼女たちのほうを取るのは当たり前に等しい。
それなのに秋元は頑なに前田の名前だけを押し通した。



『最後の一人…前田敦子』

まさか呼ばれるとは思わなかった。
受かるはずがないと。
前田は嬉しさのあまり涙が目に浮かび上がる。

前田の名前が読み上げられたのを最後にオーディションは終わった。
落選した者はその場で解散させられる。
合格者だけが残りAKBとしての活動内容を知らされる。
総合プロデューサー、秋元康の登場を待つばかりとなっていた。
その時、前田は肩を叩かれ振り返る。

『ちょっと…』

戸賀崎に連れられ裏手に回る。
するとそこには中年で小太りの男がいた。
オーディションの審査員であることは知っていたのだがそれが秋元康だとは前田はまだ知らない。
このすぐ後にその正体を知ることになるのである。

『前田敦子だね?』

『はい』

『単刀直入だが君に覚悟はあるかね?』

『覚悟…?』

『あぁそうだ、覚悟
この先どんな逆風にも罵倒にも困難にも負けない覚悟が』

『はい!』

躊躇うことなく返ってきたその言葉に秋元の口元は微かに綻んだ。
すると秋元は何も言わずその場を後にする。

『…ふっ、おもしろい子だ
彼女は間違いなくAKBを背負い大きくしてくれる』











そして時は巡る。
幼かった彼女も二十歳という大人の扉を開くまでに成長した。
どんな逆風にも負けず、罵倒にも、困難にも挫けなかった。
そして今やトップアイドルにまでAKBを成長させた。
「やはりわたしの目に狂いはなかった」

鋭い眼差しを飛ばす前田に秋元は呟いた。

「常にその重責を背負い牽引し続けてきた
そして今、AKBに困難を与えさらなる高みへと飛翔しようとしている」

前田は怪訝な顔で見据える。
しかし終わらせるのだこの手で。
言葉を発しようとしたその時、同じく秋元も口を開いた。

『終わりにしよう』

2人の声は同調し終演の時を迎えるのである。