『ん…うぅん…』
目覚めは最悪だった。
頭が痛い。
体も所々痺れがある。
思うように動くことができない。
『おい、ほんとうに大丈夫なのかよ?』
『俺に聞かれてもな…それでも目覚めさせないとうちも向こうも大変なことになるだろうけどな』
『最後の手段では彼女たちそのものを隠蔽するって噂もあるんだぜ』
『秋元康こえー』
無機質な機械音。
人の動く雑音。
それらが実に耳障りだったが彼らの会話だけは鮮明に脳裏に焼きついた。
本当か嘘かなんてわからない。
ここがどこでなぜ動けないのかもわからない。
ただあの鮮烈な戦いは覚えている。
仲間を傷つけ合い屍を越えていったことだけは。
なぜだか涙が溢れた。
否、わかっているのにわかりたくなかった。
それを受け入れれば何もかもが崩れてしまう。
信じてきたものが、託してきたものが。
秋元康という器を破らない限り前田敦子にAKBに未来はないのだと。
この瞬間、腕も足も思うように動かないちっぽけな取るに足らない存在の彼女が大きな野望と希望を抱いた。
目が覚めた。
いつもと同じ朝。
目覚まし時計を止める。
いつもなら3つ目で起きるのだがこの日は一度で起きれた。
ただそれ以外はいつもと同じ朝。
「これも今日で終わらせる」
前田は毎日同じ夢を見ていた。
あの日、動けない自分が悟った絶望の夢を。
何度も何度も見た。
忘れ去ってしまいたいとなかったことにしてしまいたいと。
強く強く願った。
しかしそう思えば思うほどに逆に想いは大きくなった。
顔を洗い、歯を磨く。
朝食を摂り支度をする。
「あら、今日はずいぶんと早いのね」
「うん、大事な日だから」
「公演?」
「そうだよ、今日がみんなにとって最高の公演にしたいんだ」
前田は微笑んだ。
実に優しいまるで天使のような笑み。
「いってらっしゃい、気をつけて」
「いってきます」
いつもより少し家を早く出た。
今日の空気はなぜだかおいしく感じた。
「おはよう」
「おはようございます」
すれ違う人たちと挨拶を交わす。
いつも何気ないこともなぜだか今日だけは違ってみえた。
控え室の扉を開ける。
まだメンバーが来るには早すぎる。
しかしもうそこには高橋の姿があった。
「どしたのあっちゃん?!」
驚きを隠せない高橋。
さらにその奥には何人かちらほらメンバーがいる。
「いやなんか今日の公演はいい公演にしたいなと思ってさ」
何気なく言った言葉。
しかし高橋はその言葉の裏に隠された意味を知っている。
「あのさ…」
例の話の真偽を問いただそうとした。
しかし周りには他の者もいるここではやめておこうと踏ん張った。
「ん?なに?」
「いや…なんでもない、あとで話すわ」
笑って誤魔化す。
すぐに別のところに去っていく。
その姿を見つつ不審に思うも前田は深く考えなかった。
自分の仕事を全うしなければいけないから。
「ほんとうにあっちゃんが…」
あれだけ心に誓ったのに。
あれだけ真実を目の当たりにしたのに。
やはり本人を目の前にすると躊躇する。
なぜならいつもの前田だから。
五年前から変わらないよく知っている前田だから。
躊躇う者と振り向かぬ者。
彼女たちに真実が見えるのか、正義がわかるのか、正解が解るのか。
そこに大きな差はない。
それでも時は刻一刻と過ぎいよいよ公演を迎えようとしていた。
目覚めは最悪だった。
頭が痛い。
体も所々痺れがある。
思うように動くことができない。
『おい、ほんとうに大丈夫なのかよ?』
『俺に聞かれてもな…それでも目覚めさせないとうちも向こうも大変なことになるだろうけどな』
『最後の手段では彼女たちそのものを隠蔽するって噂もあるんだぜ』
『秋元康こえー』
無機質な機械音。
人の動く雑音。
それらが実に耳障りだったが彼らの会話だけは鮮明に脳裏に焼きついた。
本当か嘘かなんてわからない。
ここがどこでなぜ動けないのかもわからない。
ただあの鮮烈な戦いは覚えている。
仲間を傷つけ合い屍を越えていったことだけは。
なぜだか涙が溢れた。
否、わかっているのにわかりたくなかった。
それを受け入れれば何もかもが崩れてしまう。
信じてきたものが、託してきたものが。
秋元康という器を破らない限り前田敦子にAKBに未来はないのだと。
この瞬間、腕も足も思うように動かないちっぽけな取るに足らない存在の彼女が大きな野望と希望を抱いた。
目が覚めた。
いつもと同じ朝。
目覚まし時計を止める。
いつもなら3つ目で起きるのだがこの日は一度で起きれた。
ただそれ以外はいつもと同じ朝。
「これも今日で終わらせる」
前田は毎日同じ夢を見ていた。
あの日、動けない自分が悟った絶望の夢を。
何度も何度も見た。
忘れ去ってしまいたいとなかったことにしてしまいたいと。
強く強く願った。
しかしそう思えば思うほどに逆に想いは大きくなった。
顔を洗い、歯を磨く。
朝食を摂り支度をする。
「あら、今日はずいぶんと早いのね」
「うん、大事な日だから」
「公演?」
「そうだよ、今日がみんなにとって最高の公演にしたいんだ」
前田は微笑んだ。
実に優しいまるで天使のような笑み。
「いってらっしゃい、気をつけて」
「いってきます」
いつもより少し家を早く出た。
今日の空気はなぜだかおいしく感じた。
「おはよう」
「おはようございます」
すれ違う人たちと挨拶を交わす。
いつも何気ないこともなぜだか今日だけは違ってみえた。
控え室の扉を開ける。
まだメンバーが来るには早すぎる。
しかしもうそこには高橋の姿があった。
「どしたのあっちゃん?!」
驚きを隠せない高橋。
さらにその奥には何人かちらほらメンバーがいる。
「いやなんか今日の公演はいい公演にしたいなと思ってさ」
何気なく言った言葉。
しかし高橋はその言葉の裏に隠された意味を知っている。
「あのさ…」
例の話の真偽を問いただそうとした。
しかし周りには他の者もいるここではやめておこうと踏ん張った。
「ん?なに?」
「いや…なんでもない、あとで話すわ」
笑って誤魔化す。
すぐに別のところに去っていく。
その姿を見つつ不審に思うも前田は深く考えなかった。
自分の仕事を全うしなければいけないから。
「ほんとうにあっちゃんが…」
あれだけ心に誓ったのに。
あれだけ真実を目の当たりにしたのに。
やはり本人を目の前にすると躊躇する。
なぜならいつもの前田だから。
五年前から変わらないよく知っている前田だから。
躊躇う者と振り向かぬ者。
彼女たちに真実が見えるのか、正義がわかるのか、正解が解るのか。
そこに大きな差はない。
それでも時は刻一刻と過ぎいよいよ公演を迎えようとしていた。