人が溢れ返す街、秋葉原。
ビルが所狭しと建ち並び我一番とさまざまな色が混ざりあう。
その一角、一際目立つ黄色い看板。
『ドンキホーテ』と書かれていた。
異様に放つ雰囲気。
異質な空気。
それは奇抜な色故か。
その上にひっそりと聳える彼女たちの巣がある故なのかはわからない。



長い廊下の奥に差し掛かって右。
今にも外れそうな取っ手の付いた廃れた扉。
真新しい塗装の中にそこだけが忘れ去られてしまったかのようだった。



前田が扉の前に立つ。
人がいないのを確認し中へと入った。

「お待たせ」

そこには壊れたセットや大道具、使い古された衣裳が無造作に置かれていた。
おそらくは使わなくなった廃品を集めている倉庫。
そんな二度と日の目を浴びることはないであろう物の終着点。

「虚しく感じない?ここにあるもの見てたら…」

彼女はさらに奥へと歩みを進める。
おそらくそこにいるであろう人に向かい声を発する。

「自分たちもいずれはこうなってしまうんじゃないかって…」

数々の見覚えのある物ばかり。
そのどれもが記憶に焼きつき輝きに満ちていた。
しかし目の前にあるのは埃かぶった過去のもの。
それはまるで自分たちの行く末を見ているようだった。

「こんなふうにならないように日々頑張らなくちゃいけない
でも秋元先生はそうは思っちゃいない
あの人はいつでもわたしたちを捨てる気でいる」

「やから変えるんやろ?」

関西弁が聞こえる。
前田が横目で見るとそこには増田が廃材に腰掛けていた。

「遅すぎるでどんだけ待たせんねん」

「ごめんごめん」

口では謝ってはいるものの彼女の顔に反省の色はなかった。
ただ平静に増田の横に腰掛ける。

「戸賀崎さんいなくなったよ」

「これで動きやすなったな」

2人の腹の内にある密かな計画。
それが何かはわからない。
しかし実現へと一つ一つ近づいていることは確かだった。

「あと誰にこのこと話すんや?」

「そうだね…やっぱりKは優子に任せたほうがいいよね」

「そやな、優子ならうまくまとめてくれるやろ」

「Bは有華に任せるとして…問題はAか…」

前田が不安な顔を見せる。
その脳裏には高橋の顔が浮かんでいた。

「Aを動かせるのはたかみなだけだからね…」

「たかみなさんに直接言うんはあかんの?」

「だめだよ、たかみなは絶対に止める」

沈黙が流れる。
すると突然前田が立ち上がった。

「こっちはなんとかするから有華から優子に言っておいてくれる?」

増田は頷くと同じく立ち上がる。

「そしたらまた」

前田が微笑みを見せると増田は出ていった。
その背中を見送ると再び元の無表情へと戻った。

「誰も頼っちゃいけない…わたしがやらなくちゃ」

前田は呟く。
それは決して増田を信じていないわけではない。
むしろ信用性に関しては高い。
東京にでてきて早5年、その間にも彼女は染まることはなかった。
言葉も思考も信念も決して惑うことはなかった。
だからこそ彼女を一番に伝えることにした。

ただこの計画を実行すると決めた上で前田は心に誓っていた。
誰も救ってはくれない、と。
己を救えるのは己だけなのだ、と。

「わたしの手で終わらせる」

拳を強く握り締める。
漆黒の炎を瞳に灯し一直線にそれだけを見つめ続けていた。