実事求是 新・中国論

 

はじめに

 

 “ご出身はどちらの国ですか?”“中国から来ました”“なるほどね”

 

(一)

“中国では、コロナ対策に違反して外出する人は射殺されます。そのため、中国では都市封鎖ができ、ゼロコロナ対策を実行することができます。”

“うちの大学で、教室の前方に座り、一生懸命勉強している学生はほとんど中国人留学生です。彼らはなぜそんなに勉強熱心なのですか? 彼らは全員中国共産党のスパイですから‼”

“中国のスパイはロシアと違って、目的がなく、選別をせずあらゆる情報をとりあえず海外から盗み、中国国内で盗んだ情報から有用な情報を選別します。だから、中国スパイはより脅威的で、対応が難しいのです。”

2019年に香港暴動が起きたら、「中国第二の天安門事件になるだろう」と予想したり。

長江流域に洪水が発生したら、「三峡ダムは崩壊する」と予想したり。

経済成長率が少し落ちたら、「中国経済の成長はもう終焉した」と予想したり。

つまり、中国に何かあったら、定番の「もうすぐ中国経済は衰退する」「もうすぐ中国社会や中国政府は崩壊する」という予想がなされます……。

これらの論調は、日本の世論をコントロールし、日本人の心理的優越感を維持したいだけでしょうか?

このような世論操作は、中国のイメージを傷つけるだけで、中国に対する実質的な損害は少ないでしょう。しかし、この世論操作の延長線上に、ファーウェイ問題が浮上しました。

2019年、「ファーウェイが日本の情報を盗んで、中国共産党に情報を提供するリスクがある」という理由で、日本でのファーウェイの通信機器の販売と使用を事実上禁止になりました。捏造に近いこの考え方は、NHKをはじめとするメディアや政治家、民間人などで堂々と広がりました。日本社会の真実と自由のなさに驚き、日本の世論操作の恐ろしさも感じました。今日本にいる、中国人としての自分も、いつか日本の情報を盗み、中国共産党にその情報を提供し、日本人の殺害に協力する恐れがあるとして、処罰されるのでしょうか。情報漏えいの可能性は、ファーウェイだけではなくどの通信機器会社ともありえます。しかし、ファーウェイは中国の「一民間企業」ですから、日本の通信会社がファーウェイと契約するとき、日本政府は日本の通信会社と中国のファーウェイ双方に対して、意図的な情報漏えいがないように要求することができます。もしファーウェイが顧客の情報を意図的に漏えいしたら、莫大な罰金と厳しい罰則を課せば良いでしょう。そして、ファーウェイが信用できないことを証拠を示して証明できたら、世界中でファーウェイと取引する会社や国はなくなり、会社も倒産するでしょう。ファーウェイが今まで顧客の情報を盗んだ証拠がどこにも存在しませんでしたし、今後も会社の存続のため勝手に情報を盗むこともないでしょう。更に、日本政府は情報漏えいを防止するために、いくつかの技術的な対策を講じることもできるでしょう。それでも、なぜ日本は事実上ファーウェイの通信機器の販売と使用を禁止したのでしょうか。主な理由は、中国経済の持続的な成長が日本の脅威だと考え、今後の中国経済の更なる成長を阻止したいからでしょう。近年、中国経済は資本と労働力の増大による成長が限界に近づき、今後の更なる持続的な成長のため、技術進歩による成長にシフトしています。中国経済の持続的な成長を阻止するため、何としても中国の技術進歩を潰したいという本音があるのでしょう。一言でいうと、中国を敵国と見なす今までの世論操作での中国崩壊論の失敗に気づき、今後は具体的な経済制裁で中国経済の持続的な成長を真剣に阻止したいのでしょう。

勿論、中国に対するこのような経済対策と制裁は日本の内政の問題であり、自由です。同様に、中国にも同じ自由があります。日本が事実上のファーウェイ禁止の政策を取ると、いつか中国も公然と日本を敵国と見なし、同等かそれ以上の反撃措置を取るでしょう。20世紀後半の日米貿易摩擦で、日本の技術、特にIT技術の進化の芽は米国に潰されたため、1995年から2020年までの25年間、日本の1人当たり名目GDPは4万ドル台で停滞しています。敵国と見なす日本が今まで懸命に維持している4万ドル台の1人当たり名目GDPを3万ドル台、更に2万ドル台に減少させるため、中国は近い将来、日本経済を厳しく制裁するでしょう。例えば、中国の基幹産業であるIT産業に対する日本の制裁措置への報復として、中国はいつか日本の基幹産業である自動車産業を潰すため、巨大な中国市場で日本の車が1台も売れないように、今から官民それぞれで計画しているでしょう。今の中国は、日本の自動車産業を制裁する経済力が足りません。今後十年くらいかけて、日本の自動車産業を制裁できるように、中国では官民両方から着々と準備しています。制裁を発動するため、中国は日本がファーウェイを制裁した時と同じような理由で良いでしょう。例えば、中国市場から得た利益が日本の軍事産業の資本になり、あるいは日本の自動車産業に使われている技術が軍事産業に転用可能だったり、あるいは日本の自動車産業に部品を提供している会社が同時に軍事産業にも提供しているなどの理由で、日本の自動車産業が中国にとって安全保障上、大きな問題だと主張できます。このように、ファーウェイ制裁の理由と似たものがいくらでもあるでしょう。極端にいうと、相手国を敵国と見なせば、相手国の農民ですら制裁対象にすることができるでしょう。なぜなら、農民は敵国の軍隊に食料を提供していますから。ですから、21世紀には、自国の安全を過大評価してはならず、安易に相手国を敵国と見なしてはいけません。自国の安全と相手国の安全は同じくらい重要なことで、国同士の安全保障問題は対話で解決すべきでしょう。自国の安全を極端に追求すると、相手国を潰すしかなくなってしまいます。

日本のファーウェイ制裁への反撃として、日本の自動車産業を中国市場から完全に追放するため、今後、中国国内の自動車産業をもっと発展させ、ドイツや韓国などの自動車産業に対して中国市場を更に開放し、日本車への規制措置が中国経済に与える悪影響を最小限に抑え、中国は今着々と準備し、時期が来たら経済制裁を発動するでしょう。

このような中国の報復措置が発動する時期は、恐らく、約10年後の2032年頃、中国経済が世界一になって、より外国経済に左右されにくくなった時でしょう。

日中両国はこのように、互いに相手を敵国と位置づけ、相手の不利益のことばかり考えて行動します。日本車を規制する中国の措置に対抗するため、日本も更に中国に経済制裁を課すでしょう。そして、中国もまた対抗措置を取ります。このまま進めば、日中両国の経済貿易と人的交流がゼロになり、最終的に、両国は自国の安全と利益のため、もう戦争でしか決着をつけることができなくなり、再び悲劇になるでしょう。

このように、経済的理由により日中間の戦争のリスクが増大しています。日中両国の世論操作ではこれが加速していることも見てとれます。日本の調査では、「中国が嫌い」と答える日本人は80%以上にも上ります。「日本が嫌い」と答える中国人も同じくらいと考えても良いでしょう。日中が再び戦争に突入する世論環境が互いの国内で作られています。両国の国民とも、互いに被害妄想で、何でこんなに気持ち悪い国が自国の隣にいるのだろうかと考えるようになるでしょう。今後、両国共に、戦争で解決しようと考えていく人がどんどん増えていくでしょう。

しかし、互いに相手国を敵国と思い、戦争を準備することが日中両国にとって本当に必要でしょうか。本当にこれは自国の利益と幸せになるのでしょうか。ファーウェイを含む中国のIT産業は本来、停滞している日本のIT産業の発展のためにもっと役に立つべきでしょう。日本の自動車産業は今までの中国経済の工業化と発展に多大に貢献してきましたし、今後ももっと貢献すべきでしょう。そして、ファーウェイも日本の自動車産業も相手に利益をもたらすと共に、更に発展できるでしょう。日中両国は互いに相手国が好きになる必要はないかもしれませんが、嫌いになる必要は絶対にありません。戦争を回避する、あるいは、戦争する必要が全くないと思えるようになるため、私たちは何をするべきでしょうか。

 

(二)

こんなに厳しい日中関係の現実と将来に対して、どうすれば良いのでしょうか。

微力ながら、本書は、まず、私が知る中国の真実を日本人に紹介することで、中国の真実を日本人に知ってほしいと思っています。中国に関する嘘をなくし、真実を知ることで、日中両国の健全な関係の構築に役に立つ可能性が生まれるかもしれません。

日本に来てから、中国の見方と全く異なる日本の見方を知り、新鮮で面白いと考え、益々中国の社会、経済、政治の真相を追求したいと思いました。

日本人は中国に対する考え方が独特ですが、それは人としての自由でしょう。しかし、人それぞれの考え方は自由ですが、この考え方の自由は「真実」に基づいていなければなりません。そうでなければ、ただの臆病、偏見、知識不足としか思われません。日本を含む西側諸国には表現の自由があるとされていますが、私はコントロール・捏造されている自由にすぎないと感じています。

本書は、中国の過去の経済、政治、社会の真実を紹介し、この真実に基づく検証可能な2050年までの経済予想モデルを提示し、そしてこの経済予想モデルが実現した上での中国の政治と社会の変化も予想し、最後に中国の国際関係を予想したいと思います。

 

(三)

2019年の世界銀行による分類では、発展途上国と先進国の境界線は1人当たりGNIでいうと12376ドルです。2019年の中国の1人当たり名目GDPは約10153ドルで、実質経済成長率は6.27%です。中国のGDPとGNIはほぼ一致していると見なします。近い将来、戦争が起きる可能性を除くと、中国は遅くとも2023年頃に先進国の仲間入りをすると予想されます。2012年の私の修士論文である「中国経済の成長持続性についての一考察 -産業高度化と格差是正を中心として-」の中で、中国の1人当たり名目GDPは2011年の5583ドルから、7%の年平均成長率で12年間持続的に成長し、2023年に先進国の仲間入りをすると予想しました。この予想はほぼ的中しています。修士論文を書く時、日本では「中国崩壊論」が盛んに議論されていました。例えば、格差拡大により中国社会は不安定になり、最終的に崩壊する、あるいは、深刻な環境問題や知的所有権の保護の問題、または少子高齢化の問題で、中国経済の成長は持続できず、最終的にいつか崩壊するなど、日本で中国の情報を調べれば調べるほど、中国経済の持続的な発展について、日本の資料がほぼ悲観的な見方をしていることに気づきました。当時私自身も、論文を書きながら、中国は本当に先進国の仲間入りができるのかと動揺しました。第二次世界大戦後の世界の秩序で、数少ない国だけが「中所得の罠」を乗り越え、先進国の仲間入りをしました。メキシコ・フィリピンなどの中南米と東南アジアの国々には1度は高度成長の波が来ましたが、やがて「中所得の罠」に落ち、先進国への仲間入りは実現しませんでした。この疑問に悩みながら、祖国に対する期待と中国人としての中国問題に対する独自のセンスで、修士論文では中国の先進国への仲間入りは実現可能だと結論づけました。

それから、10年が経ちました。2022年か2023年には、中国は確実に「発展途上国」を卒業し、先進国の仲間入りを果たすでしょう。では、その後はどうなるでしょうか?中国の少子高齢化は2011年より更に進みました。多額な投資による経済成長も今度こそ本当に限界に近づいています。激しい米中経済戦争で、中国の今後の輸出の増加は更に難しくなるでしょう。そして、米中ハイテク経済戦争により、米国はファーウェイなどの中国のハイテク産業を制裁し、中国の更なる発展の芽を潰し、中国経済の高度化を阻止しています。

これらの困難に直面している中国はどこに向かっていくのでしょうか。

一方、困難が大きければ大きいほど、得る成功も大きくなります。巨大な困難を乗り越えてこそ、中国経済の真の強さを証明できます。「一人っ子政策」を止め、少子化問題に真剣に取り組みます。格差問題を是正し、共同富裕を目指し、現代中国の建国理念である共産主義社会の実現のため、少しずつ慎重に進みます。米中ハイテク経済戦争が不可避ならば、弱者である中国は客観的に自らの弱さと米国の強さを認識し、国際ルールと正義に立って、正しい戦術と戦略で、この戦いを乗り越えます。

今後の中国は、経済、社会、政治、価値観などあらゆる分野を検証し、改革し、そして発展させていくでしょう。

経済規模が増大すると共に、中国は経済・政治・価値観などのあらゆる分野で、世界中の国々と正々堂々と交流し、あるいは衝突するかもしれません。巨大中国の更なる発展によって、今後の世界は大きく変動するでしょう。

この変動が悪い方向にいかないように、この時代に立つ中国人は努力すべきです。

 

(四)

本書の目的は、私の中国に関する経済と政治に対する考え方と、中国に対する価値観や国家観を自由に提示し、他人の考え方とすり合わせながら、交流していくことにあります。もし不備があったり、根本的に間違っていたら、私はそれを改善し修正していく用意があります。