このブログでは、折に触れて、Institutional Research(以下IR)というトピックに触れてきました。IRとは、一言で言うと、大学の個人情報データベースの管理、分析をするところになります。その起源は50年くらい前に遡るそうですが、実際に各大学に設置され始めたのは80年代くらいからになります。ということで、自分自身、このIRというものは日本の大学には欠かせないものになると主張してきていましたが、最近日本の大学でもその動きが出てきているそうで、大変素晴らしいことだと思います。(参考: http://homepage.mac.com/tetsu8_t/iblog/C107035926/E556821754/index.html


ということで、今日はその話題に関してですが、それではさらに一歩踏み込んで、そのIRが日本の大学で機能するためにはどうしたらいいのか、ということについて考えてみたいと思います。自分の中では大まかにあげて4つ挙げられると思います。あくまでも自分の推測の範囲だということは理解していただきたいと思います。


1.IRを担当する人の力量(経験・知識)


a. 統計を使った分析経験がある人 (経済分析、その他社会科学の分析において必要とされる統計の知識・経験を持った人、基本的に最低修士レベルの統計の知識が必要)


b. 統計のソフトウェアを使いこなせる人 (SPSSがアメリカでは主流、SASを使うところもあるが、非常に高い(約100万円)、日本ではどういったソフトウェアが主流なのでしょう?)


c. Accessなど、Relational Database を扱った経験がある人。最近では、Brio というものが出てきているそうですが、この詳しいところについてはわかりません。


d. アンケート、インタビュー、Focus Groupなど、その他Qualitative Analysisの知識・経験がある人


e. Excelの知識・経験がある人 (Pivot table や、マクロなど)


大学に関する知識もあるにこしたことはないですが、そこまで期待するのは結構難しいような気がします。ビジネスの世界なら、上記の経験を持つ人は沢山いると思うので、そっちの世界からリクルートするべきです。半年もいれば、その大学に関する知識は普通つきますし。


2.IRを統括する人の力量


これはどういうことかというと、IRを実際に行う人ではなく、その結果が報告される先、つまり上司になり  ます。この人が、IRに対する理解がないと、IRは宝の持ち腐れになります。また、この人が大学内で発言力がある人でもないと、やはりIRは機能しません。


IRが大学内で、どのような位置にあるのかは大学によって変わってきます。学長直結のところもあれば、副学長直結のところもあります。大学によっては、副学長の下のProvost(Provostの位置づけも大学によって変わるのですが、ここではVice Presidentの下ということにしておきます)の直属、という場合もあります。


IRを組織のどこに置くかはあまり重要ではありませんが、誰に対して報告するかは非常に重要となってきます。僕の意見としては、大学首脳と頻繁にコミュニケーションがとれる位置が一番いいと思いますし、また、大学首脳もデータを基礎においた大学運営というのを理解している人でないと、IRの研究結果は全て時間の無駄になってしまう恐れもあります。


ちなみに僕のいたコミュニティカレッジでは、Vice Presidentに報告していました。彼女は、Academic Affair担当だったのですが、学内では学長についで2番目に発言力がある人で、また、データの見方も理解している人だったので、そこのIRはしっかり機能していたように思います。


3.IRの学内における理解度+存在感


おそらく最初IRを設置した時の学内の反応は、「無反応」という表現が一番近いと思います。これではIRは機能しません。IRは、組織によってその効力が180度変わります。IRは、首脳部だけのために存在するわけではありません。現場レベルの意思決定も助けることもできるわけです。時には学生からの要求にもこたえることもします。いわば、大学に関わる全ての人の要求にこたえらえるIRこそ、本来あるべきIRの姿だと僕は思います。


4.個人情報に関する倫理の徹底


個人情報を扱うだけに、その管理は徹底しなければいけません。セキュリティの強化はもちろんとして、そのデータに関わる人たち(データ入力者も含む)の倫理観の教育、罰則などルールの徹底が必要になります。法律の問題もありますので、どこまで公表していいのかなどの、ルールをしっかり決めておかないと、後にとんでもないトラブルに陥る可能性もあります。大学の顧問弁護士と相談していく必要があるところです。



と様々、IRが機能するための条件を列記してきましたが、突き詰めて言えば、IRの役割というのは、大学によって変わってくるわけです。結局、どういう大学にしていきたいのか、その上で、IRはどのような役割を果たすべきなのか、という思考回路でIRを考えていかないと意味がないわけであって、ただIRを設置すればいい、というのは昨日のブログでも多少述べたように、アメリカの教育システムをただ意味もなく取り入れているだけ、ということになってしまいます。