昨日のブログ では、アメリカの大学で学費があがり続けていく一つの理由についての話をしましたが、今日はそれについての政府の対応についての話です。


まず簡単な現状のおさらいですが、現在アメリカの大学全体で、学費の上昇が問題になっていて、その伸び率は年5%を超えます。これは毎年のインフレーション(約2-3%)よりも高く、つまり、大学教育の実質価格が上昇し続けているということを意味します。


自分で簡単な試算をしてみたのですが、例えば、現在のミネソタ大学(僕が通ってた大学です)のミネソタ出身の学生の払う学費は、各セメスターで13単位以上取れば、年間で$7140(約79万円)です。これが仮に年5%ずつ毎年あがっていくとどうなるか、2030年になると、$24,179(約270万円)。これは州立大学であって、私立大学ではありません。こうなったらもう誰も大学にいけなくなってしまいます。


というわけで、政府もこのままではいけない、ということで、先月22日、下院議員のEducation Committee(教育を審議するところ)が、”College Access and Opportunity Act of 2005”という法案を承認しました。その中の条項の一つに、「“college affordability index”(以下CAI)を創設する」というものがありました。


これはどういうことかというと、CAIは、過去3年間の各大学(私立・州立含む)の学費の上昇と、インフレーションの上昇を組み合わせてはじき出される数値で、もしその大学の次の年の学費の上昇率が、政府の決めたCAIを2ポイント以上上回ると、様々なペナルティが課せられることになります(罰金とかではありませんが)。ここではその内容は省きます。


詳しい内容はこちら


学生の立場からしたら、こういったことは歓迎できる動きです。しかし、高等教育全体の立場からいうと、連邦政府が私立・州立問わず大学にここまで圧力をかけられるようになってしまったということで、懸念もあるわけです。


大学自治というのは、大学の根幹であり、そこに政治が介入することを本来許しません。それは、大学という場所は、普遍的真理を追究する学府であり、その活動が政治のような一時的なものによって妨げられることを恐れるからです。


しかしアメリカの大学は、簡単に言うと、その権利を逆手にとって今まで好き放題にやってきてしまいました。そして1980年以降、それが様々な問題を産み出してしまったということです。いうなれば連邦・州政府が介入せざるを得ない状況を作ってしまった責任は、他でもなく大学側にあるわけです。経済学的観点から言えば、今まで大学教育という経済市場を大学のみに任せていたけれども、そこに歪みが生じたので、そのアンバランスを是正するために政府が介入したということです。


シアトルのカンファレンス で、政府と大学の関係についての議論がありました。その中で、出た結論というのは、これからは政府と大学が協力し合っていかなければならない、ということでした。つまり、21世紀のアメリカの大学は、もはや政府の支援なしでは存在し得ないわけで、政府の干渉なしに大学運営を続けるというのは、不可能であるということです。


しかし政府は、そこで調子に乗ってどんどん大学に圧力をかけることをするのではなく、また一方、大学側も政府の圧力を受動的にとらえるのではなく、その社会的責任を政府とともに考えていく必要があり、どうすればよりよい大学を築いていくことができるのか、そのためにともに協力し合っていくこと、開かれた対話を行っていくことが非常に重要である、というのがその結論でした。


翻って日本の大学と政府の関係は、アメリカとは逆に圧倒的に政府(文部科学省)が強いようです。これはこれでバランスが悪いです。政府も独立行政法人などによって小さな政府を目指していますが、いまだに高等教育改革は政府主導のトップダウン的なわけであって、これでは各大学が持つ本当の力を発揮することは難しいです。


日本の社会を外から見て思うのですが、日本の大学に関する世論は偏っているようにおもいますそれはおそらく、日本の高等教育改革に関する大体の情報発信元は文部科学省だからではないでしょうか。それに対抗できるだけの他の情報発信基地が日本にはないわけです。


しかしだからといって、各大学に自分の大学以外のことを考える余裕などおそらくないと思われるので、政府と大学のほかにもう一つ独立した機関が必要のように思います。アメリカではそれがNPO法人にあたりますが、日本でもそういった組織を今後もっと増やしていかなければいけない、そう思います。




・・・ランキング を見る