─初めての取立てで現場に到着です。時間は21:00過ぎでした。


現場、到着後まず最初にすること。

それは隣人への聞き込みだ。


このケースの場合、逃げたのか、単に留守にしているだけなのかが

判断できないので、隣人に変わった様子は無かったか等確認するのだ。


それともう一つ理由がある。

隣人と話もせずに鍵を開けたり、家に入ったりすると問答無用で警察に通報される

場合があるからだ。


夜中にガラの悪い男が数人でゴソゴソしていたら無理もない。


なので、大抵は一番ガラの悪くない人間が聞き込み係になる。

この場合は入社二日目で、とても高利貸しには見えない俺が聞き込み係だ。


インターホンを鳴らす

ピ~ンポ~ン


隣人:「はーい」


神谷:「夜分、遅くに申し訳ありません。隣の○○さんの事でお伺いしたいのですが…」


隣人:「何かあったんですか?○○さん」


神谷:「○○さん、会社を経営されているのはご存知ですか?」


隣人:「ええ。知ってますよ。」


神谷:「実は、わたくし共○○さんの会社に御融資させていただいておりまして」



─借金の事を第三者に言うのはどうかと思われる方もいるかもしれませんが、

会社が融資を受けているのは当たり前(高利かどうかは別として)なので問題はありません。

当然、自分達が高利貸し等とは言いません。



神谷:「連絡がつかないもので、何かあったのか心配で様子を見に来たのですが」

隣人:「そうなんですか…」


神谷:「ここ数日で○○さん、見かけました?」


隣人:「昨日の夜、車に荷物積み込んで出かけるのを見かけましたが・・・」

神谷:「なるほど…そういうのってよく見かけたりします?」

隣人:「いえ…夜に出かけることがあまりない人なのでよく覚えてたんですよ」


逃げた可能性が高くなってきた。

果たして逃げているのかいないのか?

他にも判断材料はあるので、それは次回に。


─つづく─


─鍵屋の車で客の自宅に。会社から2時間ほどのところです。


客の自宅に向かう車の中でも、家の電話・会社の電話・携帯に電話をかける。

やはり電話に出ないので、鍵屋さんとの打ち合わせだ。



どの現場でも基本的な流れは一緒で


◆正面玄関の鍵を開ける

◆正面玄関の鍵を新しいものに交換する

◆裏口・勝手口等、他に鍵のある扉があれば鍵穴にボンドを注入


ひとつづづ解説を入れていくと


>◆正面玄関の鍵を開ける

⇒当然、家の中に入るため


>◆正面玄関の鍵を新しいものに交換する

⇒同業他社からつまんでいる(※7)場合、客が他社に鍵を預けていることがあるため


(※7)【つまんでいる】…借りていること。つまむ=借りる


>◆裏口・勝手口等、他に鍵のある扉があれば鍵穴にボンドを注入

⇒上と同じ理由。交換は料金がかかるため潰してしまう


─次回は現場到着後の動きについてです。


─つづく─



─入社二日目。早くも初めての取立てです。

 

期日を過ぎても入金が無く、一向に連絡が取れない客がいた。

先輩の秋元さんの担当客だ。


秋元:「ヤロウ飛んだかな・・」

店長:「業務おわったら見に行ってこいよ」


このように連絡が取れずに、飛んだか飛んでないか判断しかねる場合、

通常業務が終わった後(18:00以降)に自宅の様子を見に行くのだ。


場合によっては深夜に及んだり、泊まりになったりもする。


新人の俺も勉強の為、付いていくことに。

この客の場合、期日前日の確認電話でも連絡がついていないため飛んだ可能性が高い。

なので、御用達の鍵屋を呼んで一緒に行くことになった。


何故、鍵屋と一緒に?

逃げていた場合、家に入るために。


─つづく─

─注意することについてです。


安田:「この仕事は客に恨みを買うことがあるからね」


高利貸しなのだから、嫌われるのは当然だろう


安田:「駅のホームでは先頭に並んだり、黄色い線の外側を歩かないこと」

神谷:「え?」

安田:「昔、押された奴がいたんだよ。電車来てなかったから死ななかったけどな」

神谷:「…」


安田:「横断歩道で信号待っているときは…」

神谷:「一番前に立たないこと?」

安田:「正解」

神谷:「…」


安田:「絶対に客に暴力はふるわないこと」

神谷:「(…意外だな)」

安田:「万一捕まったときに、面倒な事になるから」

安田:「あくまで容疑は出資法違反だけにとどめるんだよ」

安田:「傷害が付くと実刑くらうから」


とはいえ、怪我が残らない程度なら多少はあったりもする。

証拠がなければやったやらないの水掛け論だからだ。

逆に言えば、傷や怪我は絶対にご法度ってこと。


─つづく─

─偽名が決まったら次は勧誘の仕方です。


安田:「じゃあ、コレ読んで」


渡されたのは勧誘マニュアル。

内容を簡単に書くとこんな感じ。


--------------------------------------------------------------------

わたくし、日本ローンの○○と申しますが、

社長様いらっしゃいますでしょうか?


この度、ご融資のご案内でお電話したのですが、

運転資金や当座のつなぎ資金などにいかがでしょうか?


当社は年利20%~29.2%でご融資させて頂いております。

簡単な審査でご融資枠が出せますので、

この機会に審査だけでもいかがでしょう。

--------------------------------------------------------------------


最初はこの通り読みながら、電話をかけまくるがほとんど断られる。

それ以前に、社長に取り次いでもらえない事も多々あるので、

慣れてくるとアレンジするようになる。


同じ会社に電話しても

>社長様いらっしゃいますでしょうか?⇒「いない」ガチャ切り

↓アレンジ

>△△社長!お久しぶりです。⇒「誰だっけ?」or「少々お待ちください」

※勧誘に使う名簿に社長名も記載されている


これだと電話に出たのが社長本人じゃなくても、

社長と知り合いだと思って変わってくれることがある。


「誰だっけ?」


と言われたら、


「以前、ご融資の件でご相談いただいた」


などと言えば大丈夫。

名簿に載っているのは、少なからずどこかに融資の申し込みをしたことがあるからだ。



>当社は年利20%~29.2%でご融資させて頂いております。

このくだりはモチロン嘘。正直に


「金利は10日で30%ですよ」


等と言ったらガチャ切りされるので当然だ。


で、相手が聞く耳を持ったら受付をとる。

・会社名、会社住所

・代表社名、代表者住所

・月商

・社員数

・借入件数、借入額

・申し込み金額

etc....


一通り聞いたら、


「審査してご連絡します」と言って一旦電話を切る。

30分~1時間程したら再度電話して、


「来店して頂ければすぐにご融資できます」


などと言って来店を促す。

店に来てしまえばこっちのもの。

高金利であることを打ち明け、借りさせるテクニックはまた後日・・・


─つづく─

─自分の偽名が決まったわけですが・・・


従業員の数だけ偽名がある。

いや…1人で複数の偽名を使う人もいるから従業員数<偽名の数だ。


名刺を作るので、偽名とはいえフルネームで考えなくてはならない。


・一般系

・漫画系

・芸能人系

・ホスト系


など、いろんなタイプがあるが、困るのはホスト系フルネームの人。

何故困るかというと、お客さんの前で呼ぶときは俺も偽名で呼ぶからコッチまで恥ずかしい。

「伊集院さーん、お客さんです!」等と大きな声で言いにくいって・・・


まぁ慣れたお客さんだと、こっちが偽名なことなんて百も承知なわけだけど。

お客さんも「伊集院さんお願いします」とか、ちょっと恥ずかしそうだし・・・



─漫画系のそんなやついないだろって名前の人も困るけど、とにかく偽名もいろいろです。


─つづく─

─小切手のシステムについてです。


小切手というのは誰でも持てるわけではありません。

銀行の審査を通って初めて発行してもらえます。

普通預金と当座預金というのを聞いたことがあると思いますが、

小切手は当座預金の口座を作らなくては発行できません。


あなたが券面(※4)100万円の小切手を受け取ったとします。

当然、このままでは買い物に使ったりはできません。では、どうするか?


(※4)【券面】…小切手の額面


STEP1 小切手+自分の通帳と印鑑を銀行に持っていく

STEP2 銀行で所定の用紙に記入(簡単。わからなければ行員に聞けば教えてくれる)

STEP3 窓口に小切手・通帳・印鑑・記入済みの用紙を提出(入金という)

STEP4 翌々営業日に通帳に100万円が入金される(資金化という)


つまり、小切手を受け取ってから現金にするまでは、最短でも2日かかるのです。

月曜に小切手を受け取ったら最短で水曜日。

木曜に小切手を受け取った場合は翌々日が土曜なので最短でも月曜日になります。



次に小切手を振り出した側の動きです。(券面100万円の小切手の場合)


STEP1 振り出した小切手を持っている相手が銀行に小切手を入金(上記のSTEP3)

STEP2 銀行の翌営業日に当座預金口座に100万円の引き落としがかかる


では引き落としがかかった際、口座に100万円入っていなかった場合どうなるか?

当座預金口座は普通預金口座と違い、口座にお金があろうがなかろうが引き落とされます。

この場合だと、仮に1円も口座に入ってなかったら、残高が-100万円になるのです。

銀行が立替えているような状態ですね。


この当座がマイナスの状態で15時を過ぎると俗に言う【不渡り】です。

逆に言えばマイナスになっても、その日の15時までにマイナス分を口座に入れればセーフと

いうわけですね。


ただ、基本的には15時まで(窓口が閉まるため)なのですが、銀行に電話連絡して

直接持っていくと言えば数時間は待ってもらえます。(銀行に怒られます)



意外と不渡り=倒産と思っている方が多いのですが、不渡りと倒産は別物です。

不渡りというのは1回出しても銀行取引は停止になりません。


※銀行取引停止=小切手使用不可


1回目の不渡りから半年以内に2回目の不渡りを出すと銀行取引が停止になり、

小切手はただの紙切れになるわけです。

そうなれば、小切手を渡した相手にも現金が入らなくなるので


信用ガタ落ち⇒取引打ち切り⇒仕事がなくなる⇒倒産


となるわけです。

ちなみに1回目の不渡りから半年以内に2回目を出さなければセーフと上に書きましたが、

99%の確率で1回出したら翌日(翌営業日)には2回目を出します。


2回でアウトになることから、1回目の不渡りを片目が潰れる⇒片目(※5)

2回目の不渡りを両目が潰れる⇒両目(※6)

という言い方をしたりします。


1回なら銀行取引はセーフとはいえ、取引先の信用や社会的信用はゼロに等しくなります。


─つづく─

─入社一日目。基本的なことを先輩から教わります。


俺の教育係の先輩は安田さん。年は20代半ばくらい。

外見的には、一般人が避けて歩くようなタイプの人だ。


─闇金融に入って、一番最初の仕事は何だと思いますか?


安田:「じゃっ、名前考えて」

神谷:「え?はい??」


名前を考えて?考えなくても俺には神谷という名前がある。

怪訝な表情をしていたのを悟ったのか


安田:「ウチは正規の金利じゃないからね。万一に備えて偽名を使うんだよ」


まぁ、薄々気づいてはいたもののやっぱりそうか…


神谷:「金利はどれくらいなんですか?」

安田:「客によって違うけど、安くて15日で2割だね。高いのはキリがないよ」


15日で2割。つまり100万円借りたら、15日後に120万円で返済しなくてはならない。

間違いなく暴利だ。しかも安くて15日2割って…


安田:「まぁベースは10日3割位に考えてくれればいいよ」


畳み掛ける安田さん。

・10日で3割⇒100万が10日で130万


安田:「昔はよくトイチ(※2)とかいったでしょ?今はそれじゃやってけないのよ」


(※2)トイチ…10日で1割の略


で、簡単にシステムを教えてもらう俺。


-------------------------------------------------------------------------------------------------

■基本システム

例)100万円を10日3割で貸した場合

・決済(完済)時の金額の小切手を切らせる。(130万円)

・貸付日から数えて10日後が支払い期日

・期日が土日にあたる場合は基本的には金曜日が期日になる

・期日に全額返済が不可能な場合は30万円ジャンプ(※3)

・ジャンプした場合はその日から10日後が次回期日になる

・客に手渡す金額は手数料名目で5%引き(つまり、この場合95万円手渡し)

-------------------------------------------------------------------------------------------------


(※3)ジャンプ…金利分だけ入金すること。


>期日が土日にあたる場合は基本的には金曜日が期日になる

─これが曲者でジャンプを続けていると、必ず期日が土日にあたる場合がでてきます。

つまり…


初回期日:月曜

↓ジャンプ

2回目期日:水曜

↓ジャンプ

3回目期日:金曜

↓ジャンプ

4回目期日:日曜⇒金曜

↓ジャンプ

5回目期日:日曜⇒金曜


このように、土日前倒しで金曜が期日になっても、次回期日のカウントは

金曜からになるのです。 

なので一度、金曜が期日になると10日サイクルといいつつ一週間にハマります。

当然、お客さんは文句を言いますが、それを丸め込むのも仕事です。


これだと100万借りたら一ヶ月に金利だけで120万とかになるわけです。

これだけ払っても元金は一円も減っていません。


最初の期日で全額返済すればいいじゃんと思われる方もいるでしょうが

なかなかそうもいかないのです。

完済のお金が用意できない人が多いのはもちろんのこと、完済金を持ってきても

受け取らなかったり…と、これについてはまた別に書きたいと思います。



金利についてのレクチャーを受け、安田さんが一言。


安田:「じゃ、名前考えて」


俺の偽名は「藤堂」になった。


─つづく─

─配属される店舗(事務所)が決まりました。


俺の入った闇金融会社は都内に約20店舗を構えていました。

どこの業者も同様ですが、何店舗あろうと全てお店の名前、会社名は違います。


警察の摘発を受けた時に芋づる式に捕まらないようにするための予防策です。

あくまで別会社を装うというわけですね。


俺の配属されたお店は面接した店舗から徒歩5分くらいの場所にある「日本ローン」

雑居ビルの3階で広さ15坪程度の店長以下従業員6名のお店だ。


男5名、女1名。みなさん普通のサラリーマンとは明らかに雰囲気が違う気がするが・・・


─つづく─

─翌日、入社するか否かの返事をすることになりました。


面接が終わり、帰宅。

この時点では俺は、いわゆる○富士やアイ○ルのようなサラ金会社をイメージしていました。


今は、そのあたりの大手サラ金会社はとてもイメージが悪いのですが、

当時は良くはないにしても今ほど悪い企業イメージはありませんでした。

すくなくとも俺の中では…


なので入社する事にして翌日連絡をし、翌週から働くことになったのです。


─つづく─