第三十三話 2025年の夏の猛暑・少雨と地域山林の現状
1 はじめに
前回は、奥多摩町に隣接した青梅市と日の出町における廃校とその現状について見てきました。今回、武蔵15郡・上野2郡で勃発した「武州世直し一揆」についてまとめていく予定でしたが、変更して、2025年の夏の猛暑・少雨と地域山林の現状について考えていきたいと思います。
Ⅱ 令和7年の夏を振り返る
先ずは、令和7年度はどんな夏だったのか振り振り返ってみましょう。
(1)令和7年の夏を振り返る
気象庁は、9月5日に、令和7年の記録的な高温と少雨について、以下のようにまとめています。①日本の夏の平均気温は、昨年、一昨年を大幅に上回り、3年連続で最も高い記録となった。②歴代最高気温を観測し、猛暑日や40度以上の延べ地点数も更新した。③多くの地点で過去最も早い梅雨明けとなるなど季節進行が速く、7月は北陸地方を中心に記録的な少雨となった。これらの天候をもたらしたと考えられる要因は以下の通りです。①太平洋熱帯域の西部の海水温が高く、アジアモンスーン域の積乱雲の活動が早くから活発だった。この影響により、6月以降、上空の偏西風が平年より、大幅に北に流れ、上空のチベット高気圧が日本付近に張り出した。また、フィリピン東海上の積乱雲の活動が極めて活発で、日本付近の太平洋高気圧の張り出しを強めた。日本付近はチベット高気圧と太平洋高気圧が重なった背の高い暖かい高気圧に覆われ、下降気流が卓越して晴れて気温が上がった。そして、地球温暖化の影響に加え、北半球中緯度帯の海水温がここ数年顕著に高いことも日本を含む中緯度帯の気温が高いことに寄与した可能性があると述べています。
こうした中、日本でも暑い町とされている埼玉県熊谷市や鳩山町の2025年8月の日ごとの最高気温はどうだったのかまとめておきましょう。8月1日→熊谷:33.5度、鳩山町:33.0度、2日→熊谷:39.0度、鳩山町:39.5度、3日→熊谷:37.4度、鳩山町:37.7度、4日→熊谷:38.8度、鳩山町:39.1度、5日→熊谷:40.7度、鳩山町:41.4度、6日→熊谷:38.5度、鳩山町:37.9度、7日→熊谷:30.8度、鳩山町:30.2度、8日→熊谷:36.4度、鳩山町:36.5度、9日→熊谷:32.8度、鳩山町:34.1度、10日→熊谷:27.8度、鳩山町:28.0度、11日→熊谷:32.9度、鳩山町:32.7度、12日→熊谷:28.3度、鳩山町:28.2度、13日→熊谷:32.5度、鳩山町:32.5度、14日→熊谷:32.6度、鳩山町:33.6度、15日→熊谷:37.0度、鳩山町:37.6度、16日→熊谷:34.1度、鳩山町:34.3度、17日→熊谷:37.2度、鳩山町:37.9度、18日→熊谷:37.7度、鳩山町:37.2度、19日→熊谷:38.0度、鳩山町:38.5度、20日→熊谷:37.5度、鳩山町:38.1度、21日→熊谷:39.0度、鳩山町:39.3度、22日→熊谷:36.3度、鳩山町:36.5度、23日→熊谷:38.3度、鳩山町:38.7度、24日→熊谷:39.1度、鳩山町:39.4度、25日→熊谷:36.7度、鳩山町:36.7度、26日→熊谷:37.5度、鳩山町:37.4度、27日→熊谷:38.7度、鳩山町:39.4度、28日→熊谷:33.9度、鳩山町:33.5度、29日→熊谷:35.8度、鳩山町:36.7度、30日→熊谷:40.2度、鳩山町:40.3度、31日→熊谷:38.4度、鳩山町:38.6度となっていました(気象庁資料より)。また、鳩山町の降雨量について、8月7日と10日にそれぞれに5.5㎜、8月11日に3㎜の雨が降ったものの、それ以外7月20日から8月いっぱいは降雨量は皆無か、ほとんどなかったという結果になっていました(鳩山町2025年7月、8月の「日ごとの値」、詳細「降水量・気温・蒸気圧・湿度」の資料より)。夏の日ごとの降雨量は、気温などと違って、極めて地域性があるものの、鳩山町の隣町である毛呂山町も、令和7年8月は、例年にない極めて高温・少雨の年となっていました。
(2)営農について(全国農業協同組合連合会埼玉県本部よりの9月2日作成資料より)
全国農業協同組合連合会埼玉県本部は、令和7年6月から8月までの気温は平年より3℃も高く、3か月連続で観測記録を塗り替え、降水量も降雨日数も一昨年、昨年と比べて少なく今年は晴れて猛暑となり、乾燥した状態が続いていたことを指摘しています。
図1 毛呂山町(毛呂山町|埼玉県 (mapbinder.com)より)
Ⅲ 毛呂山町と毛呂山町の2025年夏の猛暑と少雨について
(1) 毛呂山町(図1参照)
毛呂山町と毛呂山町の令和7年の夏について、簡単にまとめておきましょう。
毛呂山町(もろやままち)は、東京都心から概ね50㎞圏内にあり、埼玉県南西部に位置しています。町は東西約9㎞、南北約7.5㎞で、秩父山地と関東平野が接する八王子構造線に跨り、西部の穏やかな山地は標高300mから400mとなっています。その一部は県立黒山自然公園となっています。中に、農業用の灌漑貯水池である鎌北湖や武者小路実篤が理想社会を目指して創設した新しき村などがあります。また、柚子が多く栽培されていることから、町は「ゆずの里」とも呼ばれています。そして、町内には埼玉医科大学や日本医療科学大学、隣接した坂戸市には城西大学、明海大学歯学部などもあって、ある意味、学園の街、学生の街でもあります。毛呂山町の西部は、概ね稜線によって、大字滝の入(たきのいり)や阿諏訪(あすわ)、大谷木(おおやぎ)、宿谷(しゅくや)、権現堂(ごんげんどう)、葛貫(つづらぬき)などの地区に分かれ、それぞれの間を越辺川の支流である毛呂川や阿諏訪川、大谷木川、宿谷川、葛川などが流れています。その毛呂山町は、鳩山町や越生町、飯能市、日高市、坂戸市に接する町です。この中の鳩山町は、埼玉県でも熊谷と並んで、夏、全国的に見ても、もっとも暑くなる町、地域でもあります。事実、既述の通り、8月30日は、40.3度を記録しています。加えて、7月20日から8月いっぱい、降雨量は皆無か、ほとんどなかったという結果になっていました(鳩山2025年7月、8月の「日ごとの値」、詳細「降水量・気温・蒸気圧・湿度」の資料より)。夏の日ごとの降雨量は、気温などと違って、極めて地域性があるものの、鳩山町の隣町である毛呂山町も、令和7年7月、8月、9月は、鳩山町と同様、例年にない極めて高温・少雨の年でありました。そのため、阿諏訪川の河川の流量は、例年になく、少なくなっていました。その状況を(4)で具体的に見ていきましょう。
(2) 令和8年1月と令和7年夏の阿諏訪川の様子
写真1(2026年1月7日撮影)は、阿諏訪川の上流附近(獅子ケ滝より150mほど下流。図1参照)の様子です。1月、2月は1年でももっとも河川の流量が減る時期でもありますが、それでも例年と同じくらいの綺麗な水が流れています。写真2(2025年8月22日撮影)は、写真1から1.5㎞ほど下ったところの堰の様子です。堰とは、板を横に並べ、上流から流れてきた水を溜め、取水口から取り入れた水を埋設したコンクリ―ト管の中を通し、さらに水路へと導くために造られた設備のことです。上流から流れてきている水や堰に溜まっている水の量は、写真1と比べてみても、同じくらいか、あるいは少ないような感じがします。例年だと、ブロックの白い部分あたりまで水が貯まっています。これは、夏の猛暑と少雨によるものでしょうか。
(3)河川流量の減少をみる
令和7年夏の極端な河川流量の減少は、夏の例年にない暑さと少雨によるものが第一の要因となっていることはいうまでもありません。しかし、それだけではありません。河川の流量は、河川の上流の山林が間伐などにより適切に管理されているかどうかによっても違ってくるといわれています。というのも、玉井幸治らによる「間伐すると森林から流出する水が増える」という研究によれば、間伐作業などが適切になされていると、降水量はほぼ同じであっても、蒸散量は6月から10月の樹木が成長する季節に特に減少し、年間流出量は、割合にして約15%増加したという報告を行っています。こうしたことを踏まえると、阿諏訪川の河川流量の減少は、2025年の夏の例年にない暑さと少雨に加え、周囲の森林が適切に管理されていないといったこともありそうです。
写真1 阿諏訪川上流の冬の河川の様子
写真2 2025年夏の阿諏訪川の様子
(4)毛呂山町阿諏訪地内及び周辺の山林の様子
阿諏訪川の河川流量の減少は、暑さや少雨が大きな原因になっていることはいうまでもありません。ただ、それだけではありません。先に述べたように、周囲の森林が適切に管理されていないといったことも、河川の流量に関係がありそうです。玉井幸治らによれば「間伐すると森林から流出する水が増える」という研究によれば、間伐作業などが適切になされていると、降水量はほぼ同じであっても、蒸散量は6月から10月の樹木が成長する季節に特に減少し、年間流出量は、割合にして約15%増加したという報告がそれを指摘しています。では、今、その山林はどうなっているのでしょうか。振り返って見れば、毛呂山町阿諏訪やその周辺の多くの民有林は、昭和20年代から昭和40年代にかけて、積極的な拡大造林が図られていきました。その時、多くの人々は、30年後、40年後には、植えた杉檜は大きくなり、高く売れて、そうすれば、子どもたちや孫たちは、さぞかし幸せだろう、さぞかし喜ぶだろうと想いながら、植林に励んでいたとのことでした。それが、その後、国産材は外国材に押され、木材価格は下がり、売っても安いし、一方伐採や搬出に携わる人は少なくなり、いたにしても、その人件費は高騰し、伐採や搬出には莫大な経費がかかってしまうといったことから、将来の林業に対する魅力や希望を持てなくなった、中小の山林家の多くは、除伐や間伐などをほとんどせず、山林を放置したままにしてきました。そうした山林は、今どうなっているのでしょうか、写真で見ていきましょう。
写真3 A地の山林の様子
写真4 A地の山林の様子
写真5 C地の山林の様子
写真7 E地の山林の様子
写真8 F地の山林の様子
写真3(上・下)は、阿諏訪地内で撮影したものです。写真4から写真8は、奥武蔵グリーンラインの一本杉や黒山三滝、越生町龍ケ谷辺りを移動中に林道上から撮影したものです。それぞれの写真にある檜杉などの林齢は、はっきりは分かりませんが、概ね50年から80年経っているのはないかと思います。この中で、写真3、写真4、写真5は、恐らく植林後ほとんど手が入らず、そのまま放置されている山林かと思います。写真6、写真7は、伐採中のものです。写真8は、何年か前に伐採が行われた山林です。写真3(上・下)の2枚の写真は、同じところで撮影したものです。上の写真は、蔓が近くの檜の木に巻き付き、檜の木を横倒しにしてしまっています。下の写真は、横倒になった檜の木の根元の様子です。この2つの写真から、蔓の力と倒された檜の木の根は、どちらかというと横に張っているといったことが分かるかと思います。根の張り方は、檜の木は横に張り、杉は縦(下)に張っていくという性質があるといわれています。写真4は大小の木が競うように林立し、中の方には、ほとんど光が入らず、真っ暗といった感じです。写真5の手前の2本の木の枝打ちはなされていません。加えて、中の方の木はどちらかというと全体的に細く、1本は自然に枯れて倒れたものでしょうか。写真6は、今択伐(たくばつ)作業がちょうどなされているところのものです。写真7も同様に択伐作業中の山林で、テープが巻かれた木はこれから伐る予定のものでしょうか。写真6や写真7などのように伐採作業が進むと林内は明るくなっていきます。写真8は既述の通り、何年か前に伐採が行われたもので、そのため、林内は明るく、木の太さや長さも全体的に揃っています。こうした7枚の写真は林道沿いのものです。今、全国的な山林の現況を示す資料は手元にありませんので、それについて述べることはできませんが、おそらく林道から離れた場所の山林やより傾斜が急な山林は、もっと酷いものになっているのではないかと思います。とはいいながら、こうした状況をどう見ればよいのか、このまま間伐などの林野整備を行わず、そのまま荒れた状態で放置したままおいてよいのでしょうか。先にも触れたように、中小の山林家の多くは、今や林業に魅力を感じなくなっています。そして、人によっては、道路から離れた場所の山林やより傾斜が急な山林は引き継ぎたくない、山林の相続は、負の遺産につながるといった人もいます。なお、「択伐」とは対象となる区間にある樹木の中から一定の条件を満たす木だけを伐採することです。これに対して「皆伐」とは指定された一定範囲の森林のすべての木を伐採することです。「間伐」とは森林の健全な成長を促すために込み合った木々の一部を伐採して間引く作業です。これにより残された木々は十分な光を受けて大きく、太く丈夫に育っていきます。今、日本の森林面積の57%が民有林、12%が公有林、31%が国有林となっています。
(5)河川流量の減少(水不足)による水稲栽培への影響
河川流量の減少は、単に猛暑・少雨だけではないことが分かったかと思います。降った雨を一時貯め、河川に少しずつ流出させていくというダムと同じような機能を山林はもっています。その際の水の河川への流出量や河川の流量は、上流の山林がいかに適切に整備され、管理されているかにもあるようです。山里茂の水稲栽培では、先の近くを流れる阿諏訪川の水に頼っています。本ブログの令和7年度の水稲栽培においては、例年にない猛暑と少雨などにより、河川の流量は、極単に減少(写真2)し、8月以降は田んぼに水を十分にかつ安定的に入れていくことができませんでした。そのため、このような水不足のため、除草機による稲株周辺の攪拌作業がうまくできませんでした。また、出穂期(しゅっすいき)や登熟期(とうじゅくき)にも関わらず、湿った程度の田んぼやひび割れしてしまったという田んぼが多く観られてしまいました。それにより、雑草が例年になく繁茂し、米の収穫量もかなりの減少となってしまいました。水不足が水稲栽培に、これほど大きな影響を与えた1年は、今までになかったのではないかと思います。こうしたことが続くと山里での水稲栽培は誰もやらなくなります。山里茂の住む地域では、20年、30年前までは、30数軒の家が水稲栽培を行っていましたが、今は、残念ながら、山里茂の1軒だけとなってしまいました。
Ⅳ あとがき
今回は、2025年の夏の猛暑・少雨、そして地域山林の現状について見てきました。猛暑と少雨であった2025年という夏は、忘れられない年になりそうです。来年も、また猛暑と少雨の年になるのでしょうか。そんなことを考えるとうんざりしてきます。こうした中、つい先日、私より少し早く退職されたある女性の元同僚(英語教師)から小冊子が送られてきました。その中に「・・・、〇〇さんは、定年の退職金を貯金し、生活費が不足するとそこから持ち出す。そうしているうちに貯蓄は半分になり、これから、今迄通りにしていてトントンかなと考えていた。ところが家の屋根の損傷がひどく、変えることになる。また、外壁の塗装も新しくする時期になる。住み続ける以上、工事をお願いするしかなく、小さな家だけれど散財である。貯金を充てるしかない。結果、貯蓄ゼロとなる。病気をしたらどうしようと思いつつも、仕方がない。・・・」とありました。令和7年度の水稲栽培では夏の猛暑と少雨により、米の収穫量はかなりの減少となってしまいました。猛暑と少雨は自然がなす業であり、ある面、仕方がないところがある、と考えれば、気持ちも少し楽になってくると想えばよいのでしょうか。しかし、そうでしょうか。もう一度今回の河川流量の減少を考えてみましょう。河川流量の減少は、猛暑と少雨だけが原因となっている訳ではありません。上流の山林がいかに適切に管理されているかなども少なからず影響を与えています。そのためには、こうした山林がこれ以上荒れないようにしていくことが重要です。できれば、より明るく、綺麗な山として保っていくことが求められます。繰り返しますが、水は、下流地域や都市部に住む人たちも、水道水などの生活用水として、利用しています。こうした観点からも、誰もが一緒になって、上流の山林がもつ様々な課題に対して、一層真剣に向き合っていかなければなりません。次回のブログは、戻って武州一揆についてまとめていく予定です。
【資料】
① 気象庁「7月の高温・少雨の状況と今後の見通しについて」
② 気象庁「埼玉県2025年8月(日ごとの値)最高気温」
③ 気象庁「日本の異常気象」
④ 気象庁「2025年夏の記録的な高温の要因とは?
⑤ 鳩山町「2025年7月、8月の日ごとの値、詳細「降水量・気温・蒸気圧・湿度の資料」
⑥ 全国農業協同組合連合会埼玉県本部よりの9月2日作成資料
⑦ 毛呂山町地図「毛呂山町|埼玉県 (mapbinder.com)より」
⑧ フリー百科事典(ウィキベディア)「毛呂山町」
⑨ フリー百科事典(ウィキベディア)「奥武蔵グリーンライン」
⑩ 玉井幸治ら「間伐すると森林から流出する水が増える」
⑪ 久田善純「間伐が森林の水源かん養機能に及ぼす効果の検証」
⑫ 林野庁「森林の整備・保全」
⑬ 久本宇良「フーガな陽だまり」








