- 前ページ
- 次ページ
惨劇の夜が明け、村も朝日に包まれた
だが未だに死骸の燻る匂いが辺りを支配していた
誰一人生きるもののいない村に風が吹いた
灰が宙を舞い、砂埃が死骸のひとつに降った
村に繋がる街道で一人の少年が
大きな包みを背負って歩いていた
少年の髪は朝日に白く映えて輝いていた
「本当にお前の言う通りにしたら母さんが生き返るんだな」
―それが汝の願いならばな・・・―
少年は一人で何かを話している・・・・そのように周りには見えただろう
(最も早朝の街道を歩くものなどいないのだが)
だが少年は“それ”と話していた
昨夜母を、そして母を斬った男を亡き者にした
大剣『冥龍』と・・・。
「お前はかつてバラバラにされた自分の身体を集めたいんだな」
―そうだ。脆弱で醜悪な人間共は私を騙し
妖魔を討つための道具にした。
しかも自分勝手な物語まで作ってな・・・・―
「人間をそんな風に言わないで欲しい。
僕だって人間だ」
―違う、汝は妖魔の血を継ぐ者。それもかなり高貴な血筋のだ。
そうでなければ我を扱う事叶わぬわ!!―
「アイツだって人間なのにお前を使ってたじゃないか」
―奴は我の本当の力は使えない。ただ人間を屠るのに
振りまわしただけだ。だから奴には我が声は届いておらぬ。
真に我が力を使えるは妖魔のみ。
なぜなら我は妖魔が眷属の龍の一族だからだ―
「・・・・僕は本当に妖魔なのかな・・・?」
―妖魔だ―
「そんなの信じられないよ」
―何をそんなに否定する必要がある。
汝は妖魔の血を継ぐ者。汝が髪がそれを証明してるではないか―
「・・・・・・・」
―汝を悪いようにはせん。我が願いを聞き届けよ。
そうすれば汝の願いを叶えよう。
汝が運命、汝が宿命、汝が義務を受け入れよ・・・―
「・・・・・・・わかった」
少年は街道をゆく
その背に朝日を浴びて・・・・。
乾いた金属音だけがその場を支配していた
男が振り下ろした大剣は
その刀身に紅い炎の色を見せながら宙を舞っていた。
「何っ・・・・」
男が予期せぬ手応えに動揺していた
男が感じたのは人間を
それもまだ幼い少年を斬るそれでは無かった
例えるならそれは鋼鉄を鎚で打ちつけるようなものだった
男はそのようなことを考えつつ自分の手を見ていたが
視線を少年に移し驚愕した
少年の・・・
少年のそれまで漆黒の瑪瑙のような黒髪が
降ったばかりの白雪のような銀色となり
深い闇を移していた瞳が
炎を映しているというよりは
鮮血に近い紅色に染まっていた
その姿はまさに・・・妖魔の一族・・・・・・・・。
男の思考の動きが正常になりつつある時
宙を舞っていた大剣が大地に刺さった
男は再びそれを手にしようとする
だが大剣はびくともしない・・・。
「どうしたんだ『冥龍』・・・・」
大剣が大きく震える・・・・。
―しょ・・よ・・・・れを・・・・れ・・・
どこからか声が響く
男は大剣の柄から手を離し辺りを見渡す
だが人影は見当たらない
―しょう・・よ・・・れ・・・とれ・・・
声は止まない
「誰だ、姿を見せろっ!!!」
男は四方に吠えるように怒鳴った
だが反応はない・・・。
一方レクトの耳にはその声が意味することが聞こえていた
―少年よ我を受け取れ―
レクトの身体は自然とその言葉に従った
そして従った瞬間、男の姿は消えていた
どれくらい経っただろうか
黒炭と化した家にレクトは立っていた
その右手には大剣『冥龍』が握られていた
レクトゆめうつつの放心状態だった
風が吹き、蜘蛛の糸のようなレクトの髪がなびいた
そこにある黒と白とが昨晩のことが夢で無いと主張していた。
世界が変わろうとしている・・・・・・。