放っておくと、明日（実は、もう今日）第三話が放送されちゃうから、

とりあえず最新話の第２話から始める。

みんなの記憶に残っているうちにね。

このドラマは、オタクみたいに刑事弁護にどっぷり浸かっていて、それなりに実績を残している刑事弁護人（坂口健太郎）と、コンビを組まされた刑事弁護に不向きじゃないかと思われる若手弁護士（川口春奈）が、冤罪事件に取り組む物語だ。

以上、終わり。

じゃ、困るから、法律監修の法律監修を始めようか。

事件はコンビニ強盗致傷。

坂口のところに、当番弁護士の依頼が回ってきた。

当番弁護士というのは、逮捕勾留された被疑者から、弁護士に会いたいと連絡があると、その日の当番の弁護士が、原則、その日のうちに被疑者に会いに行って、接見して、いろいろと話を聞いてアドバイスする制度だ。

被疑者と話をしているうちに、弁護の依頼を受ければ、受任して、その被疑者の弁護人になることもあるが、当番弁護士それ自体は、弁護人に選任されての活動ではなく、あくまでも「弁護人となろうとする者」としての活動だ。

アドバイスしただけで帰ってきたら、日当１万円。

刑事事件を受任したら、私選弁護報酬が貰えるから、日当はナシ。

国選弁護に発展することもあるが、その場合、日当はどうだったかな？

適当に、調べてくれ。本事件の本質とは無関係だ。

日当１万円にしかならない仕事だから、当番弁護士は、通常ひとりで行動する。指導中の修習生がいれば同行させることもあるが、弁護士が２人行くことは、極めて稀だ。

だいたいにおいて、二人目の弁護士は、当番弁護士ではない。

ところが、コンビを組んでいる坂口と川口は、２人揃って被疑者の接見に行く。

接見を待っているところに、被疑者の取調べを担当している刑事が現れて挨拶をする。

刑事「当番弁護の先生ですね。十勝（被疑者の名前ね）の接見にいらしたんだ。」

川口「そうですが」

刑事「私、本件を担当している刑事課の松本です。」

坂口、川口、会釈をする。

刑事「いやー、国の制度とは言え、頭が下がりますよ。あんなどうしようもないヤツの話を聞きに、わざわざご足労戴くなんて。」

坂口「どうしようもない？」

刑事「十勝は、このあたりでは有名な札付きの悪なんですよ。十代の頃から窃盗や暴行で何度も補導されているんです。」

川口「そんなに素行が悪いんですか」

刑事「ええ。母親だけの片親育ちですから。家庭にも問題あるんでしょうな」

川口「それは、わかりませんけど」

刑事「ま、適当に、相手してやって下さい」

いやいや、困っちゃったね。

いや、何がってね。

刑事「いやー、国の制度とは言え、頭が下がりますよ。

これですわ。

刑事弁護を少しでも知っている弁護士に聞いてご覧なさい。

当番弁護士は国の制度ですか？という質問を。

１００人中、１００人が違う。と答えるでしょうね。

当番弁護制度は、弁護士会が始めた制度だ。

以前は、国選弁護の制度はあったが、起訴された被告人に対してしか国選弁護人は付かなかった。付けられなかった。

しかし、多くの被疑者が、弁護人を付けられずに困っていた。

被疑者段階で、警察のずる賢い取り調べにやり込められて、虚偽の自白をしてしまう人も沢山居た。

そういう人を救おう。

被疑者にも弁護人を！

ということで、弁護士会の予算で運営しているのが当番弁護士だ。

今は、被疑者にも、一定の条件のもと、国選弁護人が付くように法律が改正された。

なにを隠そう、隠してないけど、そのときの法律改正のために、弁護士の身分を隠し（ホントは隠してなかったけど）法務省の役人となって、刑事訴訟法の改正作業をしていたのが、我が輩なのだ。

それは横に置いておいて、本筋に戻ると

昔も、今も、当番弁護士は国の制度ではなく、弁護士会の制度だ。

この刑事さんは、根本的な勘違いをしている。

これは、法律監修ミスと断定せざるを得ない。

多くの弁護士さんは、そうだそうだ。とうなずいたところであろう。

しかし、それだけでは、面白くない。

１００人が１００人、当番弁護士は国の制度ではない。

弁護士会の制度だ。というなら、

天邪鬼のボクは、１００人中、１０１人目になって、当番弁護士は国の制度だ。と言ってみたいと思う。

我が輩が改正した刑事訴訟法３１条の２以下に、被疑者国選弁護人の選任手続きが規定されている。

まず、３１条の２を見てみよう。

第三十一条の二　弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は、弁護士会に対し、弁護人の選任の申出をすることができる。

２　弁護士会は、前項の申出を受けた場合は、速やかに、所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を紹介しなければならない。

被疑者国選を選任する前に、被疑者は、まず弁護士会に対して、私の弁護人となる弁護士を紹介して下さい。と申し出なければならない。弁護士会は、それに応じて弁護士を紹介しなければならない。

弁護士会が、被疑者に対して、

中央区銀座四丁目・・・〇〇ビルの✕✕法律事務所の△△弁護士を紹介します。

と言っても、絵に描いた餅だ。

被疑者は、逮捕され、勾留され、外に出られない。✕✕法律事務所に行って、△△弁護士に弁護を依頼することは出来ない。

だから、△△弁護士が、警察署なり、拘置所に出向いていって、接見をして、被疑者と話をすることになる。

被疑者がお金を持っていて、私選弁護人を依頼できるなら、そこでペアリング成立となる。

被疑者の親族や友人がお金を出してくれても同様である。

しかし、被疑者自身に金がなく、援助してくれる人も居ない場合は、折角△△弁護士を紹介して貰っても、私選弁護人を依頼することが出来ない。

そんな場合に、じゃあ、国選弁護人でお願いします。

という道がある。

今回のドラマでは、お母さんが、なんとか息子を助けて下さい。と頭を下げたので、お母さんからお金が出て、私選弁護人の選任となったと思われる。

さて、もう一度、条文を振りかえってみよう。

第三十一条の二　弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は、弁護士会に対し、弁護人の選任の申出をすることができる。

２　弁護士会は、前項の申出を受けた場合は、速やかに、所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を紹介しなければならない。

３１条の２の内容をじっくり観察すると、国の法律なのに、弁護士会に義務を課している。

弁護士を紹介しなければならない。という義務である。

それも、弁護人となろうとする弁護士を紹介しなければならないのだ。

当番弁護士の制度とソックリではないか。

つまり、国の法律が、弁護士会が当番弁護士を運営しているのを良いことに、それを活用してしまおうと、刑訴法３１条の２を作ってしまった。ということは可能ではないか。

なにしろ、刑訴法３１条の２の立法担当者が言っているのだから、真実性は高いと言って貰いたい。

当番弁護士制度は、刑訴法３１条の２により、弁護士会の一事業から、国の法律に認められた事業にランクアップしたのである。

ただ、現在のトコロ、弁護士会の財政で、弁護士会の職員の手で運営されている。その意味では、まだ、弁護士会の制度だ。

ただし、国が弁護士会に義務を課し、弁護士会がその義務に答えているのだから、そこに国の予算が入る余地がある。

いや、それ以上に、国は、義務を課したからには、予算を付ける責任があると言っても良いと思う。

そうなると、当番弁護士は、国の制度になるのである。

当番弁護士は、弁護士会の事業として、赤字部門である。以前は、当番弁護士緊急財政基金という形で、全会員から特別会費を徴収して、赤字を埋めつつ運営してきた。

近年は、少年保護事件への支出が増える傾向にあるため、看板を掛け替えて、少年なんたら基金と名称を変えて（中身は同じだ）弁護士から特別会費を徴収して運営している。

ここに国の予算が投入され、特別会費が解消されるのが、理想型である。

たた、国の立場からすると、放置していても、弁護士会が資金を用意してくれるのに、わざわざクビをツッコんでまで、税金を投入する必要は無い。それは無駄だ。という理屈があり、実現までには、時間が必要だろう。

ただ、こんなことを考えているのは、世の中に、ボクの他、竹ノ内明と、山口健一くらいだろう。

４万人分の３人だ。

さて、現状を直視すれば、当番弁護士を国の制度と言った担当刑事は、大馬鹿者か、最先端を行っている切れ者か、どちらかということになる。

その評価は、このセリフを言わせた法律監修者が、どういう理解をしていたかにかかっている。

一度、お会いして聞いてみたいものだ。

さて、ついでだから、このドラマに出てくる接見室のアクリル板を確認して終わりにしよう。

被疑者側から、坂口を見た角度だ。

金属製の丸い輪が見える。

輪の中にいくつもの穴が見える。

凝視すると、二重構造になっていて、穴が微妙にズレている。ホンモノは、もっとキッチリと互い違いになっているが、ギリギリセーフと言うことが出来ようか。

イノセンス 冤罪弁護士 第２話

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