夏が来るたびに思い出すのは

無一文で家を飛び出したあの日のこと。
小さなティッシュケースにたった一枚だけ奇跡的に挟まっていたテレホンカード。それだけが私が外部と繋がっていられるすべてだった。
 
 
何もなかった。
なにもかもを失った。
その時私はなにが欲しかったのだろう。
なにを求めて彷徨ったのだろう。
 
愛とか自由とか時間とか
そんな安い言葉で簡単に表せるようなものではなかったはずだ。
私が求めていたのは、心の底から求めていたのは!
 
 
役所で3000円借りた。
親切な人が服とパジャマと洗剤をくれた。
 
着ているものはコットンのTシャツにスカート、それに300円のサンダル。
 
私の持ち物は
たったそれだけだった。
 
 
夜の街をどこまでも歩いた。
そこは日本一賑やかで煌びやかで、
誰もが幸せそうでそして誰もが心の奥に闇を燻らせている。そんな場所だった。
 
 
毒々しい色に光るネオン。
轟音は途切れることなくやがて爆音に変わり、その暴力的な色や音は不思議と私の心を落ち着かせた。
 
 
あ、もう朝になっちゃう。
寝なきゃ。小鳥が鳴き始めた。おやすみ。