天候不順で順延の続く高校野球もいよいよクライマックスですね。そして、明日からパラリンピックも始まります。大会関係者の方々には、ご苦労も多いかと思いますが、最後まで大過なく熱戦が繰り広げられ、選手の想いが遂げられ、観る人にも感動を与えてくれることを願っています。

さて、今回は倭建命と重ね合わされ、ともすれば同一人物と解釈してしまいそうな邇邇芸命（ににぎのみこと）に関して、以下に解説を掲載させていただきます。

なお、文章を簡潔にするために丁寧な言い回しはしていませんが、ご容赦ください。

記紀の神話に登場する邇邇芸命は高御産巣日神の娘である萬幡豊秋津師比賣命と天忍穂耳命との間に生まれた御子で、一般的には天火明命に次いで生まれた次男とされている。

萬幡豊秋津師比賣命＝八上比賣、天忍穂耳命＝天火明命＝大国主命≒邇芸速日命≒高御産巣日神とすると、高御産巣日神の妃であった八上比賣は天忍穂耳命の妃でもあるが、邇邇芸命の妃になることで竹野比賣を介して高御産巣日神の娘となり、邇邇芸命は大国主命＝天火明命の弟なので、上記関係は全て成立する。

そして、長男の天火明命は、五瀬命にも関係する延岡から五ヶ瀬川を登った中流にある速日の峰とその近くの岬の付け根にある櫛津町辺りの形状が、朝日の当たる中国の山東半島の形状とほぼ相似形のため、以前にその出身者である徐福に比定した邇芸速日命と重ね合わせられているとすれば納得できる。

したがって、邇邇芸命は『二邇芸命』で、邇芸速日命の次に天孫降臨した神という意味であると推察する。

また、天火明命と邇邇芸命を、大碓命と小碓命とする解釈も見受けられるが、以前に概要の「天孫降臨の記紀の違いの比較による検証」で述べたように、邇邇芸命は天若日子という名でも記述され巧妙に重ね合わされているが、邇邇芸命と小碓命＝倭建命は異なる人物である。

このことは、前者は双子とはされていないことと、小碓命である倭建命には木花佐久夜毘賣との恋物語のような類似するラブストーリーが見当たらないことでも納得できる。

そして、大国主命（倒置により須佐之男命とも言える）は高天原から天孫降臨して最初に葦原中国を開拓し、その次に天孫降臨したのは鹿島神宮の祭神でもある建御雷之男神＝邇邇芸命で、天菩比神の次（2番目）に葦原中国に遣わされた天若日子は、天菩比神＝大国主命とすると建御雷之男神＝天若日子となり辻褄が合う。

魏志倭人伝の狗奴国の官に卑弥弓呼と記されており、「弓」で射た天若日子である邇邇芸命は狗奴国王であったことが窺われ、肥国が3つに分裂してできた狗奴国と邪馬台国を海幸彦山幸彦の説話に准えているとすると、釣り針を無くしたことを責める兄の海幸彦である火照命は狗奴国となり、その王は邇邇芸命となる。

古事記の邇邇芸命の段に天宇受賣命が鰭廣物・鰭狹物を集めて天神御子に従うかと問うくだりがあり、海幸彦山幸彦の説話の冒頭にも同様に「火照命者、爲海佐知毘古、取鰭廣物・鰭狹物」とあるので、「鰭（はた）」＝「秦氏水軍」、天宇受賣命＝伊邪那美神、前述のとおり天神＝倭建命として、両方の話を総合すると、邇邇芸命と秦氏水軍の蜜月と終焉を物語っており、天神の倭建命の妃となった竹野比賣を介して御子となる火照命である邇邇芸命は大国主命に取って代わって実権を握ると伊邪那美神の応援を受けて秦氏水軍を手中に収めるが、倭建命の御子である火遠理命＝仲哀天皇（同様に竹野比賣を介して邇邇芸命の義弟となる）が海神の娘神功皇后を得て最後には勝利を収めるという流れが読み取れる。

記紀には兄比賣（えひめ）や弟比賣（おとひめ）という表現が各所に見受けられるが、これはある特定の神を指す固有名詞ではなく、年長の女性や兄の妻を兄比賣、年下の女性や弟の妻を弟比賣と呼んだものと思われる。

伊邪那美神は天照大御神より歳を若く推定しているが、前者は邇邇芸命や須佐之男命を夫とし、後者はそれより若い倭建命を夫としたと仮定することで、前者を兄比賣、後者を弟比賣と結論付けたものである。日本書紀の景行天皇紀にある天皇の妃になってほしいという誘いに弟比賣は固辞したので兄比賣を后にしたという記述は、弟比賣を天照大御神、兄比賣を伊邪那美神とすれば辻褄が合う。

また、同じ景行天皇紀には兄遠子と弟遠子なる姫たちも登場するが、これを古事記の景行天皇記の兄比賣と弟比賣と解釈して伊邪那美神と勢夜陀多良比賣とすれば、大碓命が兄比賣と弟比賣の両方を手に入れたという古事記の記述とも合致する。そして、古事記の景行天皇記における大碓命に関する経歴は、これに子孫や景行天皇時世全般の功績などが多少追加されて終了している。

そして、その後に記された以下の原文は、一般的には「小碓命が明け方に兄の大碓命を便所で待ち伏せして捻り殺す」と解釈されているが、上記の通り大碓命に関する記述が既に終了しているので、「兄」とは大碓命ではないと判断する。実情は原文で見ると以下の通りであり、『泥疑（ねぎ）』とはまだその当時の葦原中国王であった大国主命が『泥→伊都国』が疑いを持っているという意味で発した言葉ではないかと思われ、そのため、倭建命に義兄（倭建命の后である天照大御神を介して兄）である邇邇芸命へその旨教え諭せと命じたが、倭建命は邇邇芸命の娘である大中比賣命と結婚していた自分の子である火遠理命を邪馬台国に引き戻し（火遠理命が16歳の時とすると大碓命が既に亡くなった後の237年頃で肥国分裂の数年前となり辻褄が合う。）、邇邇芸命が治めていた狗奴国の前身と縁を切った。

そのため、邇邇芸命は会食の場に現れず、大国主命は熊曾建（狗奴国）を討てと倭建命に命じたのではないかと推察する。

原文：『天皇詔小碓命「何汝兄於朝夕之大御食不參出來、專汝泥疑教覺。」如此詔以後、至于五日、猶不參出。爾天皇問賜小碓命「何汝兄久不參出。若有未誨乎。」答白「既爲泥疑也。」又詔「如何泥疑之。」答白「朝署入廁之時、待捕、搤批而、引闕其枝、裹薦投棄。」』

意訳：大国主命は伊都国の疑いがかけられているので、兄の邇邇芸命に教え諭せと倭建命に命じた。すると、倭建命は伊都国（朝署→朝曙ではないので王朝の集う場所）の集いに入り交じり（入廁）、火遠理命（大枝王＝邇邇芸命の娘と結婚したので火遠理命＝「枝」と解釈）を確保して状況を確認した後、邪馬台国（宮殿の門をも意味する「闕」を倭国の都である邪馬台国と解釈）に引き戻し、結婚の儀（裹薦投棄→コモに包まれた結納の品を投げ捨てたと解釈）を御破算にした。

なお、大中比賣命＝訶具漏比賣と仮定した場合の景行天皇記の記述との整合性についても以下に検証しておく。

①大枝王は景行天皇が訶具漏比賣を娶って生んだ御子、

②訶具漏比賣は須賣伊呂大中津日子王の女、

③須賣伊呂大中津日子王は若建王が飯野真黒比賣を娶って生んだ御子

とされている。

ここで、若建王＝倭建命、飯野真黒比賣（作物栽培基地である丹波の真の大黒天の后）＝竹野比賣、訶具漏比賣＝大中比賣命、須賣伊呂大中津日子王＝邇邇芸命、火遠理命を引き離された大中比賣命を邇邇芸命が自分の妃に迎えたとすると、①②③とも成立する。

そして、訶具漏比賣（迦具漏比賣命）は倭建命の曾孫とされているが、倭建命が竹野比賣を妃に迎えたことで八上比賣（子）→伊邪那美神（孫）→大中比賣命（曾孫）となり合致する。

魏志倭人伝で倭国の軍事警察権を持つ伊都国の官として邇邇芸命に類似する『爾支』という記述があるので、軍事警察の長官に相応しい風貌に見える国譲りの際に登場する建御雷之男神、後述の倭建命の解説で述べているように天の岩屋戸で登場する布刀玉命とも同一神と思われ、東征先の鹿島神宮の祭神となっていることも考え合わせると、大碓命が逃げ隠れてしまう（景行天皇紀に逃隠とあるが隠れる＝亡くなったと解釈）ので同様に香取神宮の祭神となっている経津主神（倭建命）と共に東征の旅に出たものと思われる。

古事記中巻の孝元天皇記では建内宿禰らの父（建内宿禰＝倭建命とすると沼河比賣を介して義父）として日子布都押之信命という名で登場する。

神武天皇記に登場する当芸志美美命をも指しているとすれば、大国主命を殺害し、その妃の御子たちである神沼河耳命＝倭建命、神八井耳命＝大碓命、日子八井命＝須佐之男命をも殺害しようとするが、神沼河耳命らに返り討ちにされるので合致する。

なお、注意深く確認すると、神沼河耳命と神八井耳命には「耳」が付いているが、日子八井命には「耳」が無く、当芸志美美命も「耳」では「美美」であることがわかる。

従来、海外との貿易を南西諸島経由で行い、国内の流通を太平洋岸経由で行っていたのを、『小俣王』と名付けられた宗像三女神のルートを開発した須佐之男命が新たに朝鮮半島経由と日本海から琵琶湖・淀川ルートを開発したので、それに対して従来ルート中心だった邇邇芸命の政策を模して『大俣王』と名付けられ、宇佐神宮辺りから筑後川に乗り入れていた須佐之男命に対して、遅ればせながら中津辺りから乗り入れたので、大中津日子命とも名付けられたと推察する。

神武への系譜 総括（改訂決定版）解説 (5)邇邇芸命

神武への系譜　総括（改訂決定版）解説　(5)邇邇芸命