老後の初心忘るべからず~元高校教員が音楽と本を意味なく楽しむ、時々旅も

老後の初心忘るべからず~元高校教員が音楽と本を意味なく楽しむ、時々旅も

是非の初心忘るべからず。
時々の初心忘るべからず。
老後の初心忘るべからず。 
   『花鏡』(世阿弥・著)より

本と音楽がメインで、あとはきれいな風景とたまに美味しいものも
初心を忘れず楽しみます

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これは…噂どおりの隠れ名盤でした!

もうひとつの「MOANIN'」も

 

 チャールズ・ミンガスと言えばタイトル曲があまりに衝撃的な『直立猿人(Pithycanthropus Erectus)』やエリック・ドルフィーが参加した『プレゼンツ(Presents Charles Mingus)』、人種差別問題を扱った「フォーバス知事の寓話(Fables Of Faubus)」を収録した『アー・ウム(Mingus Ah Um)』が有名だが、ファンの間でとりわけ多くの支持を集めているのが本作である。 

 

  1 WEDNESDAY NIGHT PRAYER MEETING

  2 CRYIN' BLUES

  3 MOANIN'

  4 TENSIONS

  5 MY JELLY ROLL SOUL

  6 E'S FLAT AH'S FLAT TOO

  Personnel:Charles Mingus(bass)

                   Jackie McLean & John Handy(alto saxes)

                 Booker Ervin(tenor sax)

                   Pepper Adams(baritone sax)

                   Jimmy Knepper & Willie Dennis(trombones)

                   Horace Parlan or Mal Waldron(piano)

                   Dannie Richmond(drums)

 

 メンバーを眺めてみるとミンガスと一心同体とも言える盟友ジミー・ネッパーやダニー・リッチモンドの他、ジャズ・ワークショップ出身ののジャッキー・マクリーンマル・ウォルドロンウィリー・デニス、更に『アー・ウム』等で共演のホレス・パーランブッカー・アーヴィンジョン・ハンディなどミンガスの音楽を十分に理解し演奏できる特別の「耳」を持っていると自身が判断したメンバー、つまりその当時の最精鋭のメンバーが集められている。

 

 1曲目「WEDNESDAY NIGHT PRAYER MEETING」はミンガス自身がライナーで述べているようにミンガスが子どもの頃に通った教会での体験を再現したような一曲になっている。ソロはジョン・ハンディウィリー・デニスホレス・パーランブッカー・アーヴィンダニー・リッチモンドの順で続いていく。ミンガスの叫び声の効果も相俟ってゴスペル教会での熱狂的な牧師の説教の様子がよく表現されている熱演だ。

 2曲目「CRYIN' BLUES」はブルース。と言っても、通常のブルースの進行ではなく、いきなりサビを思わせるブッカー・アーヴィンの泥臭いテーマで始まる。ミンガスの重厚なソロからホレス・パーランのジャズ・ピアニストには珍しいブルースそのものの真っ黒なソロが続く。バリトンのテーマの後はジャッキー・マクリーンのソロで幕を閉じる。

 3曲目はこのアルバム最大の聴きどころにしてミンガスの代表曲の一つ「MOANIN'(モーニン)」。「モーニン」と言えばジャズ・メッセンジャーズが有名だが、どちらもゴスペル教会での牧師と聴衆の熱気十分なやり取りがモチーフになっている点で共通している。ペッパー・アダムスによる印象的なテーマが繰り返され、それに呼応するようにそれぞれのメンバーがシンプルなブルース・フレーズを演奏していく。ソロはマクリーン、アダムス、アーヴィンの順でそれぞれが熱気迸るソロを繋いでいく。まさにジャズの醍醐味である。アーヴィンのバックのミンガスのベースプレイも注目だ。

 4曲目は「TENSIONS」。ミンガスの印象的なソロからアダムスのテーマ、続いてマクリーンのソロを経て全員でのアンサンブルへと続く。再びミンガスのソロからマクリーン、アーヴィンへ、アダムスそしてホレス・パーランへとバトンが渡されていく。本アルバム中、最もこの時代の「ジャズ」を感じさせる仕上がりになっている。

 5曲目「MY JELLY ROLL SOUL」はミンガスが影響を受けた最初の真のジャズ作曲家と評価の高いジェリー・ロール・モートンをモチーフにしたナンバー。20年代のスピーク・イージー時代の雰囲気たっぷりのユーモアあふれるアレンジになっている。ソロはジミー・ネッパ―、パーラン、マクリーン、ミンガスと続き、リッチモンドとの4バース・チェンジからテーマに戻ってのエンディングとなっている。

 最後は「E'S FLAT AH'S FLAT TOO」。アルバムの最後に相応しいメンバー全員による激しいバトルの応酬が繰り広げられる。ソロは、マル・ウォルドロンからアーヴィン、マクリーン、ハンディそしてリッチモンドと続く。いつもはクールな印象のマルがホーン隊のソロのバックで激しく煽るのが印象的だ。個人的にはこの演奏からエリントンベイシーの影響を強く感じた。エリントンのジャングル・サウンドやベイシーの軽やかにジャンプするスウィング感がミンガス流に昇華されていると聴いたがどうだろうか。

 

 怒れる巨人でプライドが高く「俺のことをチャーリーと呼ぶな!チャールズだ!」と云ったり、エリントン楽団に在籍した際には、仲間と喧嘩して消火用の斧を振り回すなど、エピソードには事欠かない。正直な話、そのエピソードが有名なこともあり何となく後回しにしていたのだが、改めて本作をじっくり聴いてみると目から鱗が落ちるような衝撃を受けた。その内容はまさにタイトルに偽りなしのミンガス・ミュージックのルーツとミンガス流のブルースに溢れた文句なしの名盤だ。

 日本では何故か人気がないミンガスだが、大西順子さんの陰の師匠とも言われ、アメリカではリンカーン・ジャス・センターでは毎年ミンガス記念のコンサートが開かれ、そこでは高校生たちがミンガスのナンバーを21世紀の若い感性で演奏している。

“Moanin’” by Charles Mingus with the Jazz at Lincoln Center Youth Orchestra - YouTube

 死して44年、今なおミンガス恐るべしである。