接客業で、来る日も来る日も飽きるほど、
老若男女の人々と接して来た私が、


仕事を辞めて遠い地で暮らし始めて


早、3カ月。


夫の留守の朝から夜まで、
何をするにも、ひとり。


料理、洗濯、掃除、買い物、朝ごはんも
お昼ごはんも夜ごはんだって。


なにかをしているわけではない、ボーっと空を見上げているような時間だって、


ひとりだ。



今日は、いつもの近所のスーパーへ買い物に出掛けた。


レジでお会計を済ませるときに、
レジのおばさんが、
私にこう言う。


辛そうなラーメンだこと!


それは、日清の生ラーメンで、夫婦共々好きなので、半額のシールが貼ってあれば、期限など気にせず必ずカゴに放り込む代物だ。


しばらく夫以外と話をしていなかった
私は、思わぬ不意打ちコメントに、
動揺し、適当な言葉も見つけられそうにないので、


「これ、すごく美味しいんですよ」



と返した。あとは会計を済ませるだけの客だ。それに、後には次の客が控えている。
この話を引っ張る必要はなく、私で終わらせるべきであった。えぇ、とても辛いですよ!くらいで良かったはずだ。



するとレジのおばさんは、少し言葉を探したのち、


「あたしも今度買ってみよう」


と、微笑んでくれた。



辛いもの好きな人が、「辛そうなラーメンだこと!」とはおそらく言わないだろう。



きっと、おばさんは辛いものが苦手なはずだ。


でも、今度買ってみよう、って、
わたしのために、言ってくれたのだ。


辛いもの苦手だから


って、言わないでいてくれて、ありがとう。




働いていたころは、多分そんなやりとり、数えきれないくらい沢山あったんだろう。



だけど、何一つ振り返ることもなく、通り過ぎてしまった。



今は、そういう一つ一つを、戻りながらゆっくり拾い上げて行っている時期なんだろうな。


あった、ここにも。すごいなぁキラキラキラキラだなぁ〜。あ!あそこにもある!あの先にも、あれ、こんなとこにもー!って。



誰かの些細な優しさに大きく気付く。


孤独は、いいものだ。



きっと、こんな時期にも飽きるときが
来るのだろう。刺激的な日々を思い描く日も遠くないかもしれない。


そしてまた、振り返る時間が欲しくなる。


人生とはこの繰り返しなのだろうか?



夫は今日も、大いびきをかいて寝ている。


私は疲れた夫を起こしてしまうことのなきよう、細心の注意を払ってこの日記をしたためている。


これも、些細な優しさであろうか。



優しさとは、
大層伝わりづらいもののようだ。