書名:『十五少年漂流記』
発行所:株式会社ポプラ社
発行日:2021年8月 第1刷
訳:山本知子
装画:ソノムラ
挿絵:森川泉
ページ数:270p
公式サイト:
小学校中学年向けとのこと。小学生向けの十五少年漂流記は数多く出ているが、その中でもトップクラスにボリュームがあると思われる。
ページ数は270で、そこまで分厚さは感じない。ただ、文字がなかなかギッシリ詰まっている。児童向けの書籍は、文字サイズが大きめであったり、ページの余白が大きかったりと、読みやすさ重視で内容を薄めにしたものが多い。しかし本書は、なるべく文を盛り込みたい!という意欲が感じられる。そこらの大人向け文庫本より中身があるかもしれない。
十五少年漂流記は、船の専門用語や動植物の名前など、耳慣れない固有名詞の多く出る作品である。その用語ひとつひとつが、無人島サバイバルという非日常を演出してくれているのだと私は思っている。本書はそうした名詞を多めに拾ってくれている。児童向け書籍では省略されがちなポイントを丁寧に扱ってくれたということで、高く評価したい。
新たに出版される十五少年漂流記を読むたびに、会話文から古さを消そうと努力しているなあ!と思う。本書では主人公のブリアンの一人称が「おれ」であることに驚いた。一人称が「おれ」のブリアンは初めて見たかもしれない。その一方でドニファンは旧来の訳に近い、やや仰々しい口調を保っている。これはブリアンとの性格の書き分けの問題だろう。
もうひとつ驚いたのがゴードンだ。ゴードンは普段はおとなしく冷静なキャラクターなので、口調もそのようになっている。だが作中なんどか声を荒げるシーンがあり、そうした時は口調も如実に荒くなるのである。原文のフランス語の微妙なニュアンスまで私にはわからないが、おそらくこの書き分けは訳者のオリジナルではないだろうか。なかなか面白い演出をするな、と思った。
巻末に、現代にそぐわない表現があるがあえて残した、との注意書きがあった。十五少年漂流記を語る上では欠かせないポイントであろう。黒人のモコに投票権がないことである。しかし本書に「モコには投票権がない」という文章はなかった。ちゃんと票数を数えれば「あれ、1票足りないな」とは気づくだろうが、数えなければなんの気にもならないシーンとなった。
また、ケイトの母性というか献身性に対して、女性はこういうものだ、というような原作にある文章も、本書にはなかった。ただしこれは多くの抄訳で同様に削られる部分なので、本書が特別というわけではない。
他方、ウォルストン一味の人相について、「いかにも悪人のような顔をしている」などといった、外見と内面を結びつけるような文章は残っていた。
挿絵は10ページおき程度。数としては多めだが、サイズは1ページの半分程度と小さめである。鉛筆で描いたような柔らかな雰囲気のイラストだ。表紙を手掛けたイラストレーターとは別の方が描いている。なので、「表紙の絵と違う!」と子供が言い出さないように、中身も確認してから買った方がよいかもしれない。まあそんなに激しく違うわけでもないが。
巻末に付録として、帆船の説明図、少年たちの暮らすフレンチデンの見取り図がある。これを見た上でもう一度読めば、より理解がしやすいだろう。
驚いたのが、チェアマン島の地図が収録されていないことだ。大半の十五少年漂流記は巻末なり巻頭なりどこかしらに載せているのだが、本書にはなかった。地図がある方がよい気がするのだが、あえて削ったのだなあ。
総評としては、なかなかよい。
内容量は申し分ない。文も読みやすい。惜しむらくは図解がやや不親切に感じられるところ。帆船などは小学生にはイメージしにくい気がするので、巻末でなく巻頭でもよかったのではないか。そして地図がない理由が本当にわからない。
しかし小中学生で十五少年漂流記を読みたいがどれにしようか、と悩んでいる人には十分おすすめできる。
ポプラキミノベルの公式サイトでは、本に関するイラストや感想文を送ることができる。自由に話せる掲示板もある。こういったことで他の読者と交流できれば、それも新たな読書体験になるかもしれない。
















