日本映画navi vol.100の平沼監督インタビューは、ザワクロ関連で読んできた各誌特集の中でも最も重要かつ独自の情報が載っているので、是非購入をと周りに勧めている。そのインタビューにて、髙橋ヒロシからはもっと会話劇やドラマ重視で人間性を描きたいという要望があり、言ってしまえば喧嘩はパンチ一発で十分というスタンスのところを、ハイローは肉体を使ったアクションが大事なのでと説得しバランスを取りながら完成脚本まで持っていった、という話がある。これは原案者と脚本家の間ではとてつもなく重大な齟齬だったろうし、結果としてザワクロにはエンスカと同等の尺のアクションが(カーチェイスもなしで)ぶち込まれたのだから、つまり実質的には、髙橋ヒロシの要望をぶった切ってアクション全振りにした、ということなんじゃないかと思う。勿論、髙橋ヒロシの世界観をいかに尊重して引き継いだかは語られていて、それは繊細な調整のもとで行われたのだろうとは思うけど。


人間性描写・ドラマ性、髙橋ヒロシの求めたものはハイローにもある。むしろだぷだぷに詰まっている。ただ、その表現方法が悲しいほど違うっていうだけなんだと思う。ハイローは、アクションでもってそれを描くのだ。


クローズ/WORSTとのコラボがザワではじまり、コロナ禍でアクションが撮れず髙橋ヒロシが脚本をメインで担った6ザワを経て、脚本から彼を外したザワクロでこういう形に落ち着いたことで、あらためて気付いたことがある。

ハイローに期待することは沢山あるが、他のコンテンツでは得られない、替えがきかない魅力としては、アクションのエモさが重要だったんだなということだ。


ハイローのアクションはエモい。回想シーンが挿入されて泣けるとかの話ではない。殴り合いそのものがエモいのだ。拳に信念を込めているというストーリーに加え、MV仕込みの画の強さ、完璧なタイミングで流れるボーカル入りのテーマソングなどが観客の感情を自在に操作する。鳳仙モブによる脚立破城槌などは私にとってザワで一番の泣き所だ。私はすぐ泣くオタクだが、他の映画で同じようにアクションシーンで泣いたことがあるかというとちょっと思い出せない。普通、アクションは魅入るもので泣き所は別途用意されているものだろう。けれどハイローに限っては必ずアクションで泣かされる。泣くほどかどうかは個人差があるにしろ、アクションが非常にエモーショナルなシーンになっているのがハイローの特色なんだと思う。


それを可能にしているのはアクション監督率いるアクション部の活躍だろう。一流スタッフが、LDHサイドの理解と協力を得て作り上げる、日本最高峰クラスのアクション。ハイローシリーズにおけるその仕事ぶりは、キャラクターメイキングや一部作劇の域にまで達しているように見受けられる。

例えば、どんな性格のキャラクターならどんなアクションをするのかという部分の制作はアクション部が担っている。達磨の日向が柔道技を使うということ、それを元にしたエンスカでのターザン腕ひしぎなんかは全てアクション部のアイディアらしい。村山さんの騎馬戦も同じくだ。

また、乱戦における対戦シチュエーションなんかもアクション部が決めている部分が大きいようで、主要幹部同士の対戦では負けた側のが下がらないように気を遣っていると聞いた。よってザワのシダケンvs泰志では泰志が怪我人というシチュエーションになっており、その心憎い設定のうえで佐藤流司さんの「ちゃんと(傷口を)狙えよ?」というアドリブが炸裂するわけだ。

エンスカにおいてロッキーが負傷した拳にコブラのバンダナを巻くのもアクション部からの提案だったという。あれ最高ですが!!!

というわけで、アクション部の「このキャラにはこれをさせるとブチ上がる!」「このキャラならこうするはず!」というこだわり満載の演出がなされ、演じるキャスト達も生き生きとアドリブをかまし、キャラクター解像度が異様に高いアクションシーンが生まれていく。もちろん、それを見せるためのカメラワークや機材などへのこだわりも半端ない。

そういう愛と創意工夫の結晶のようなアクションを、完璧なタイミングで入る劇伴・テーマソングで盛り上げる。歌詞という情報も上乗せされて観客の感情の盛り上がりがつくられる。それがハイローならではの「エモいアクション」なんだと思う。


そうなると「いってしまえば喧嘩なんてパンチ一発でいい」みたいなスタンスの髙橋ヒロシ先生とは目指すものが違いすぎるし、コラボはここまでになるのかもしれないなぁという気持ちもふとよぎった。勿論ストーリー的にも区切りがついたので元々その可能性は高いわけだが、コロナ禍でどれだけ制限があったとはいえ、髙橋ヒロシのやりたかった「喧嘩より人情話」な6ザワの評価がふるわず、喧嘩に全振りしたザワクロがこうして公開初日に高い評判と話題性を見せていることは、今後の展開に響くかもしれない。

とはいえ、魅力的なキャラクター造形というところにおいてはやはり右に出る者がいないと思わされてしまう、原案としての髙橋ヒロシの仕事ぶりにはもう完敗である。私の観測範囲では鈴蘭の人気がすでに高騰していてスピンオフくださいの声まである。先生、最高のキャラクターを本当にありがとうございます。


私がうっすらと抱く期待は、コロナ禍における試行錯誤の結果として、ハイローのファンが観たいもの、HI-AXがファンに見せたいものの輪郭もだいぶはっきりしてきたのでは?ということだ。

今後の展開がどこに向かうのか、どちら方面から手をつけられるのか、すべてはHIROさんの御心のままにといった次第だが、ザワクロを観て、今後への期待は高まるばかりになった。ありがとうザワクロ。