―…小さいころ、一度だけ夜中に家を抜けだして、流れ星を見たことがある。
空と地上の境目がなくなったその光景は、まるで宇宙の様だった…
人口が150人にも満たない村、伝来村。
四方を山に囲まれてひっそりとある伝来村には、巨大な鳥居のある神社があり、その鳥居の下で毎年行われる伝来祭は、鬼の面を着けて踊り天狗様を呼ぶという、門外不出の奇祭であった。
「さあ今年も伝来祭りの季節がやってきました!」
村の青年団のマサル(川島)・コウジ(竹内)・カズキ(徹)は、もうすぐに控えた伝来祭に気合いが入る。
そこへ少し遅れてやってきたナツキ(長谷川)
「さっき役場の前通ったときたまたま聞いちゃったんだけど、隣の村と合併するらしいよ」
「えー!?合併!?」
突然の話に動揺が広がる。
手作りケーキを持ったマサルの妹・ルミ(児玉)がやってくるが、マサル達は役場へと急いだ。
―…昔から、みんなで一緒に居た。
歳は少しずつ違うけれど、過疎が進んだ村の学校では、みんな同じ教室だったから、みんな仲が良かった。
そういえば、みんなで秘密基地を作ったのは、中学生の頃だった。
中学時代
秘密基地に集まって談笑するマサル・コウジ・カズキ。
少し離れたところに天狗の面の男が立っていた。
「あれ、ガモ兄?」
男にコウジが声をかける。コウジの兄のガモン(ロッシー)は、村の祭で使う面を彫る仕事をしていた。
「ここは、天狗の遊び場なんだ。あそこの石畳、あれは天狗の土俵。空から天狗が降りてくるんだ」
「何!?声がこもっちゃってて聞えないんだよ!」
遅れてスッとやってくるナツキ。
持ってきた基地用のジャンプとエロ本に皆はしゃぐが、隣村から番長が攻めて来ているというナツキからの情報を聞き、基地をあとにするマサル達。
マサルを呼びに来たルミに、ナツキはエロ本を隠しながら走り去る。
現在・村役場
前村長のトミヲ(ボン)が杖をついてやって来た。
「父さん!駄目じゃないか、もう村長じゃないんだから役場に来ちゃ…」
「じゃあ村長は誰ですか!?」
息子で現村長のワタル(桑原)は困った様子でトミヲと問答する。
そこへ、マサル達がやってくる。
「村長!合併するって本当ですか!?」
「…その話が出ているのは事実だ」
血が上っているマサルはワタルに殴りかかる。
「村のこと考えてくださいよ!!」
「…財政が良くないんだ、合併して、村の形だけでも残した方がいい」
またも殴りかかるマサル。
「何故こいつが青年団長をやっている!!?」
「…若い力をアピールし、村の良さをアピールする、それが青年団の目標でしょう?やってやりますよ!なあマサルさん!」
啖呵を切るコウジ。ワタルはひとつの提案をする。
「…じゃあこうしよう、伝来祭の日までにひとりでも人口を増やせたら、合併は無しだ」
伝来祭まで、あと1か月…。
―…コンビニも、映画館も、遊園地も、なんにもない村。
でも私達は、この村が大好きだった。
みんながいる、この村が
中学時代・秘密基地
ガモンに頼まれた、という絵を描いているナツキ。
怪訝な顔でマサルが呟く。
「…あれ、誰が呼んだ?」
視線の先には、皆の輪から少し離れて本を読んでいるレンタロウ(安達)。
「村一番の秀才で、俺らのこと蔑んでみてるレンタロウさんがなんで秘密基地にいるんすか?」
「僕は将来学者になって、この村の自然を守りたいんだ。研究するには、この山の自然は実に丁度いい」
互いに気にいらない態度のマサルとレンタロウだが、そこへルミがやって来ると、突然照れるレンタロウ。
からかう面々。
「こらあっ!」
そこへワタルが怒鳴りながらやってくる。
山に秘密基地を作ったことを怒られると思ったが、「なんてな、」と
自分も昔、秘密基地を作ったことをひとりでつらつら語りだすワタル。
その間に皆こそこそと去っていく。
「って、誰もいない!!」
現在
「やっぱルミちゃんの作るケーキは最高だな~!」
「僕なんか3つも食べちゃったよ!」
和やかに話すコウジ・ナツキ・カズキ・ルミだが、
マサルは村長への怒りが収まらない様子だった。
「そういえば、今朝レンタロウさん見ましたよ」
「…村を捨てた奴の話するんじゃないよ」
やはり町おこしをして人口を増やすしかないと、気持ちを改めるマサル。
ルミはマサルに何か言いたげに声をかけたが、言葉を濁す。
「…なんでもない、がんばってね」
その場をあとにするマサルにカズキ、ナツキ。
ふたりきりになり、コウジにパティシェの夢のために上京を考えていると告白するルミ。
マサルの反対を危惧するコウジだが、夢を追うルミが羨ましいと言う。
代々、祭に使う面を作っている家庭に産まれたコウジは、この村で生きるしか選択肢がなかった。
ルミを気遣い、去るコウジ。
ひとりになったルミのところへ、突然大きな声がかけられる。
「おーい!!ひさしぶりだな!!」
「…ノシ兄!?」
ギターを持って現れたのはノシノスケ(亮)だった。
中学時代・秘密基地
相変わらずつっかかりあうマサルとレンタロウ。
秘密基地にはまた、ガモ兄と思われる天狗の面の男と…ギターを持った男が居た。
「あれ誰?」
「最近引っ越してきた、高校生!」
「俺の名前はノシノスケ!仲間に居れろ!」
陽気に輪の中に入るノシノスケ。
ギターを弾くと、それに合わせて天狗の面の男が踊り出す。
「来週な!流星群が来るんだぜ!」
「…繋がる日、懐かしい」
「何言ってんだよガモ兄」
ノシノスケの口から出たしし座流星群の話に、みんなで夜中にここで見ないかと提案があがる。
「よし、来週の流星群の日に、ここに集合だ」
「なんでお前が言うんだよ」
発言をまとめたレンタロウにつっかかるマサルだが、ともあれ皆、流星群の日を楽しみにしていた。
現在・コウジの家
黙々とお面を彫るガモン。帰宅したコウジは、レンタロウが帰ってきていることなどを言葉少なに話す。
ガモンが静かに口を開く。
「コウジ、お面、作らないか」
「土産用の面なら、まだ在庫が…」
「祭用の面だ。今年は、お前と一緒に作りたい」
「ずっと作りたかったんだろ、祭の面は、血で彫るんだ。考えておけ。」
現在・マサルとルミ
ノシノスケが帰ってきたことを話すルミ。
話半分の様子で聞くマサルに、思いきって気持ちを打ち明ける。
「あたし、本気でケーキ屋さんになる。東京に上京することにした」
「東京!?」
寝耳に水のマサルは、お父さんとお母さんが死んだ、ひいおじいちゃんも死んだ、
ルミが東京に行ったら、自分がひとりぼっちだろう、と上京を止める。
「夢を諦めたくない!お兄ちゃんは当たり前が変化するのが怖いだけでしょう!?」
「…出てけ!」
声を荒げ、マサルはその場を去ってしまう。
そこへ、
「ルミさん」
「…レン兄!」
そこにすっかり垢抜けたレンタロウが姿を見せる。
レンタロウから東京での話を聞き、思いをめぐらすルミ。
「もしかして、ルミさんも東京に?よくマサルOKしたな」
「…ううん、してない。お兄ちゃんなんて、大嫌い…」
「―…」
―…青年団は、町おこしに奔走する。
B級グルメを開発したり、大声選手権を開催したり、村をPRする映像を作ったり、ゆるキャラオーディションを開催したり…。
ナツキが提案したゆるキャラは「でんらいくん」
天狗の面を被っており、頭には鳥居、決め台詞は、『村の良さを伝えに来たでんらいくんだデン』
「それでは実際に登場してもらいましょう!」
司会のコウジが呼びこむと、およそナツキの絵とは似ても似つかぬ格好のでんらいくんに扮したワタルとカズキが現れる。
「なんで十字架背負っちゃってるんだよ!?」
どたばたのままに幕を閉じるゆるキャラオーディション…。
「失敗続きの様だな」
コウジに声をかけるワタル。
「…絶対、人口増やしてみせますよ」
本当は、自分も合併したくないというワタル。
村には古くからの言い伝えがあり、空から天狗が舞い降りて、その年に豊作をもたらせてから、村人と天狗はとても仲良くなった。
伝来村は元々、天から神が来る村、『天来村』と呼ばれていたらしい。
「そんな名前を、私の代で消してしまうとしたら悔しい。だが、村の為に合併するべきだと思っている自分が居るのも確か…。…祭の日、楽しみにしているよ」
マサル、ナツキ、コウジは悩んでいた。
「どうするかまた考えなきゃな…」
「ずっきーは?」
「役場の仕事が忙しいって」
「仕事と青年団のどっちが大事なんだよ」
「仲良くしようよ!あの日の約束を忘れたの?」
「約束…?」
そこへ大声で駆け寄る男。
「おーい!!」
「ノシ兄!?帰ってきてたの!?」
村に5年ぶりに帰ってきたノシノスケとの再会に、飲みに誘うマサル。
ノシノスケはレンタロウも帰ってきていることを知っており、彼にも声をかけたという。
「…あいつ来るなら俺はいいかな…」
「マサルさん!」
「いいじゃないか同窓会みたいで!流星群みたときみたいに。空見ながら、ビール飲もうぜ!」
夜・山道
「女ひとりで夜道は危なすぎでしょ…」
秘密基地までの山の中を歩くルミ。そこへ、トミヲが現れる。
「トミヲおじいちゃん?」
「…彼らの息遣いが聞こえる…川のせせらぎ、酸素を吐き続ける植物、
そしてワシも、すべてはひとつだ。全てが繋がってるんだ」
「…ボケちゃったの…?っ、トミヲおじいちゃん、そっちは危ないよ…!」
暗闇の中へ消えていくトミヲ。
「おー!やっぱ綺麗だな!」
ノシノスケ達がぞろぞろとやってくる。天狗の面の男もまたそこへ来ていた。
「ガモンさんも来てくれてたんだ」
世界旅行をしていたノシノスケは、その中での出来事を語りだす。
各地で色々な祭に参加していくうち、地元の祭がいちばんかな、と思い戻ってきたという。
「宇宙は、繋がっている」
そう言って去る天狗の面の男。
空には星が一面広がっている。
「でもあの流星群の日に比べたら感動しないけどな」
「みんなでお願いごとしたよね」
「あの時のタイムカプセルあるかな、僕探してくるよ!」
「…我慢できねえ、やっぱ他所者が居るとね、テンション下がるんですよ」
「東京行こうが何しようが俺の勝手だろ」
「小せえ村だって馬鹿にしてんだろ!」
「東京には、俺より頭いい奴なんてごまんといた。」
村では天才だと持て囃されていたが、東京で学者になる夢を諦め、会社員として就職していた。
「じゃあなんで帰ってきた?」
「淋しかったのかもな、東京での暮らしが息苦しくなって…」
レンタロウに殴りかかるマサル。
彼もまたやり返す。
「出来ればガキのままでいたかった!でも、そういう訳にはいかないんだよ!」
「みんな!タイムカプセルみつけ…た…何、この修羅場…」
「みんなと仲良くしたくて戻ってきたんじゃないのか?」
ノシノスケがレンタロウに問う。
「…俺、青年団の活動に参加出来ない」
重い空気の中、祭のためのお面作りに力を入れたいと、コウジが申し出る。
「俺も参加出来ない」
子供がもうすぐ生まれる、父親として、役場の仕事もちゃんとしたい…とカズキ。
「どうぞご自由に!ひとりでこの村守りますよ!!」
マサルは皆を突っぱねてその場を去ってしまう。
「…みんな、お兄ちゃんがごめんなさい…」
父母が死んだとき、世界が変わることは止められないと知った。
だからいつもどおりが変化することが、マサルは怖いのだとルミが語る。
それでも彼女は決意していた。
「…祭の日に、村を出ようと思う」
見つけたタイムカプセルを開ける一同。
詰められたガラクタの中に、1枚の紙があった。
「…お兄ちゃんの字だ」
『未来のバカどもへ。
カズキ、お前は一生童貞だ。
ナツキは暗くてパッとしないから、きっと童貞。
コウジはモテるが優柔不断なとこがあるから童貞。
レンタロウは勉強しかしないから童貞。
ガモ兄は絶対童貞。
ルミはおせっかいだからずっと処女。
しょうがねえから、未来でモテモテで大金持ちな俺が、みんなのこと守ってやる。
だから安心しろ。
なお、この手紙は自動的に爆発する。』
「…マサルさん…」
―…私達を繋いでいた絆は、変わらないと思ってた。
次の日、トミおじいちゃんの葬式が行われた。
この村では、死ぬというのは、神様になるということ。
だからみんな笑ってた。
あの日、私が山で見たのは、トミおじいちゃんの魂だったのかもしれない…。
そして、数日が経ち、祭の日。
ワタルとガモンは祭の儀式を始める。
と、そこへマサルが乗り込んでくる。
「合併を辞めてください!この村を取り上げないでください!」
「…駄目だ、約束は約束だ……なんだ、あれ!?」
「デン、デンデン」
そこへ各々扮装をしたコウジ、ナツキ、カズキ、レンタロウがやってくる。
「このゆるキャラ絶対流行るデン」
「東京でも流行りそうなキャラクターだ」
「産まれた子供も喜びますよ!」
「え、ずっきー子供産まれたの!?」
その朝に、カズキのところには新しい命が産まれていた。
皆が口々に祝い、ノシノスケはお祝いにギターを弾こうとしたとき、ワタルが口を開く。
「…合併は中止だ。子供が産まれたんだろ、だったら人口がひとり増えたことになる」
その言葉に喜びに沸く一同。
「ていうかお前ら!もう青年団の活動は…とか言ってなかった!?」
「やっと納得行くお面が作れたから。ずっと、呪縛だと思ってた、だけどお面作りが兄貴との絆を繋いでくれた。みんなとの絆も」
コウジの気持ちに照れたように笑い、レンタロウの着ぐるみにつっこむマサル。
「お前に殴られたとき気づいたんだ、昔には戻れない。今の自分を好きにならなきゃ」
みんなが和やかに笑う。
と、ルミが今日、村を出るんだとコウジが思い出す。
「なんだそれ、聞いてねーぞ!」
「行けよ!」
言葉に背中を押され、走り出すマサル。
「久々にマサルに会ったから、もっと話したかったなあ」
「え、ガモン兄さん、こないだ一緒に夜景みたじゃない」
「?ずっと家に居たよ」
「え?だって、お面被って…」
「そのお面、何の面だった?」
ワタルが問う。
「天狗の面だけど…」
実はマサル達が秘密基地を作った場所は、村で最初に天狗が降りたと言われている場所だったらしい。
あの天狗の面の男は、もしかしてー…
また長々と語りそうなワタルを遮り、ノシノスケが再びギターを弾こうとすると、ナツキはその場面をみてハッとする。
「これは…昔、ガモ兄に描かされた絵…?」
バス乗り場へと向かうルミ。
「お兄ちゃん…!」
「…お兄ちゃんじゃない、この村の良さを伝えに来た、でんらいくんだデン」
「…何言ってるの?」
「自然豊かなこの村で育ったお前は、すごく素敵な子だデン。
…お前の居場所はずっとここだ、いつでも帰って来い。俺が、この村を守っとくから」
「…ほんと馬鹿なんだから…。…私、お兄ちゃんの妹で良かった…」
「ちゃんと、伝えたデン」
「なんだ今の、聞いたぞ!」
そこへ現れるコウジ達。でんらいくんを演じたマサルを茶化して笑う。
レンタロウに技をかけるマサル。やり返すレンタロウ。ルミも笑う。みんなが笑った。
―…子供のころ、たった一度だけ、夜中に家を抜けだして、秘密基地で流れ星を見たことがある。
それはとても不思議な光景で、降り続ける光と、地上と星空の境目のなくなった景色は、まるで大宇宙の真ん中に旅しているような、そんな不思議な気持ちがした…
中学時代・秘密基地
「うわー!めちゃくちゃ綺麗だな!」
「マサルさん、最後タイムカプセルに入れたあの紙なんなんすか?」
「いや、まあな」
流星群が雨の様にあたりに降り注ぐ。
全員心の中で、ひとつだけ願い事をした。
『またこの場所で、みんなで流れ星を見れますように』
(…そのとき、どうしてだろう、そこに居るみんなが、同じ願い事をしているのが分かった…)
天狗の面の男が呟く。
「よし、約束だ」
―…全てのものが変化する。
けれど、変わらないものがある。
それは、私達の中で、螺旋状に回り続けているんだ。
現在・東京
マサルと電話をしているルミ。
「うん、お正月には帰ろうかなと思ってる…。お兄ちゃんももうすぐお父さんなんだから、しっかりしないと。
え?あの神社の奥の屏風の絵が100年ぶりに公開されたの?それで、何が描いてあったの?…ちょっと落ち着いて、ごめん、キャッチ入ったから。
もしもし?あ、誕生日ケーキですね!いつもありがとうございます、では受け取りの方は……」
そしてまたいつも通りがやってくる。
新しいいつも通り。
でもそれは繋がっている。
天狗様は、私達を繋いでくださってる。
ひとつに。