君の名は





『…あー、コレだ。 やっぱりこの子だった。



……ずーーーっと探してたんだ。』








ウチにアフターグロウがやってきた。





エケベリアの女王と呼ばれる原種、カンテと



フリフリの原種、シャビアナとの交配種。





カンテの女王たる風格、美しさと

シャビアナのパープルピンクを受け継いだ

とても優雅で気品のある美しい子。




『真夏にネットで多肉は買わない』




…という心の誓いは順調に破られ、

楽天やフリマサイトを食い入るように見つめる毎日。



フリマサイトでこの子を発見した時は、

自分に管理しきれる相手か、季節的にどうなのか、

スペースは?お値段は?と色々思い悩んだが、




『なんとかなる』



『どうにかなる』





『なるようになる』


…が、信条の私は購入ボタンをポチる。



販売者は多肉の扱いに長けた者らしく、

この災害級の酷暑の中、


第4種郵便 速達無し

(土日祝配送無しの普通郵便扱い。送料が安い)


という、貧乏性な私のリクエストに応え、

完璧な状態に仕上げて配送してくれた。




適度に水分を抜き、絶妙に萎れさせた後、

葉折れ葉落ちが無いよう、

長い葉をキッチンペーパーでまとめてフードパックの

側面にテープで固定。



素人目にも状態の良さが分かった。



これならすぐ植え付けても大丈夫そう。





うむ。実に素晴らしいキラキラ
この販売者とは、また取引したいものだ。


2日ほど休ませたあと水をやって、
軽めのライト下に置いてみる。





……ああ、この感じ、

あの頃を思い出すなぁ…



ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2



デレデレ「センパイ、東京本社に異動おめでとうございます!」


7年ぐらい前、職場の先輩が異動になった。


イヒ「ありがとー。でもそんな大したことでもないよ?
照れるわー。」


ニヤニヤ「なんか餞別贈りますよ。何がいいです?」

にやり「え、いいの? んー、……じゃあ、多肉!
   多肉植物がいいなー。」

真顔「多肉?……えーと、どんな多肉がいいんですか?」

ぶー「んー……、分かんない。いんどあさんに任せるよ。
   多肉って、放っておいても育つんでそ?」

ニヤニヤ「あー、確かに。楽そうですもんね。先輩らしい(笑)」


…悲しいかな、この二人は多肉に関して無知の極みであった


ぼけー「なんか癒しが欲しくってさぁ…。」

ウインク「分かりました!すんごいの持ってきますね!」



先輩、どんなのがいいかなー。

異動してしまうのはとてもツライけど、
栄転なんだし、笑顔で見送らなきゃ。


そう、先輩は男性で私はこの先輩のことが好きだった。




ー やしの木とある園芸店やしの木 ー


真顔「多肉多肉ー。いっぱいあるなぁ…」

真顔「ああは言ったものの、どんなのが良いのやら…

……お?」







滝汗「え………、デカ。何これ……めっちゃ綺麗なんだけど。
……アフター…グロウ…?」



そこには直径30cmはあろうかという、
薄いピンクの花のような多肉。



笑い泣き「うう…自分が育てたいぐらいキレイ。
けど1個しかないし、先輩にあげよう……」




ー 後日 ー


デレデレ「せんぱーい!はい、これ!多肉ちゃんです」

アセアセ「え…、でか。……あ、ありがとう…」




お気に召さなかったようだ。




ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2ブーケ2



今思えば先輩的には、アガベのチタノタや
サボテンなんかのCOOL系をご所望だったのだろうが、
そんなことは知ったことではない。


後にこの先輩が、ゴミ◯ズのク◯野郎ということを
知ることになるのだが、それはまた別のお話。

多肉を返して欲しい。



……ということで、ほろ苦い思い出となってしまったが
あの多肉ちゃんのことがずっと頭の中に残っていた。


だが年月が経つにつれ名前を忘れ、
あの美しい姿も朧げになっていく。



『あー…、あの子、名前なんだったかなぁ…』

『また会いたいなぁ……』


多肉にハマった現在、思い出すのはあの子のこと。

興味の無かった当時の私でさえ目を奪われる
気品と威厳と美しさ。


そして多肉の知識が深まって、
あの子の存在を知る。



蘇る記憶。



あの子…、確かこんな名前ではなかったか










今、目の前にいるのは






当時の記憶。


切なさ。


悲しみ。


感動。


美しさ。



君の名は、『アフターグロウ』