ここは永遠亭・・・俺は永琳の診察を受けている・・・永琳は俺を見つめていた。
「どこが悪いってわけでもないんですが、いわゆる身体障害者ってやつです。」
永琳は黙って話を聞いている、続きを促している様子なので続けて俺は
「脳性マヒですね・・・半身マヒというか・・・とにかく精神的にはまともなんですが
体が思うように言うことを聞かないんです。生まれつきですが、幼少期にかなり訓練したんで
なんとかまともな生活を送れる程度にはなっています。現にここまで歩いてきましたし・・・」
俺は自分に分かる範囲で説明してみた。自分の障害のことではあるのだが、改めて考えてみると
どんな病気なのか全く分からない。しかし永琳はすぐに理解したらしく、
「あなたの場合はアテトーゼ型という部類です。生前に大脳基底核を損傷しているんでしょうね。
それと・・・よくがんばりましたね、あなたのような場合、産まれてすぐに死んでしまうか
よくて植物人間になっていたことでしょう。あなたを診た医者が相当よかったこと、あなたの
ご両親に感謝しなさいね」
俺は永琳が言っていることの半分は全く理解できなかったが、後半の産まれてすぐのことは理解できた
確かに親が同じことを言っていたように思う。しかし、永琳はよくそこまで分かるものである、さらに
「あなたは言語障害もあるし、たぶん難聴もあるでしょう・・・それと不随意運動のせいでしょうね、
ジストニアの症状もあるようです。今、どこか痛いとこがあるでしょう?」
確かに言われてみれば首や肩が痛いときがある。今はそうでもないが、時々なるし、不随意運動という
言葉も字面からなんとなく覚えがある。永琳、さすが月の頭脳というか、まさか幻想郷でこんなにリアルに
病名を聞いたりすることになるとは思わなかった。俺は・・・
「それで・・・治りますかね?」
と遠慮がちに聞いてみた。永琳は少し考えて
「そうね・・・その緊張を和らげたりとかそういう薬は処方できますが、残念ながら治すことはできません。」
俺は、自分が予想以上にショックを受けたことに驚いた。永琳に対する、月の頭脳に対する期待がよほど
大きかったのか、軽く眩暈がするほどだった。永琳は優しい顔をして俺に言った
「大丈夫よ、あなた程度の障害、なんともないわ。ここまで歩いて来れるなんて立派な健常者と言っていいわ。
あなたは外来人です。紫が連れてきたのでしょうが、ここには紫に言われてきたのですか?」
俺はそれを聞いて、最初の目的を思い出した。いや、目的というにはもっと漠然としたものだが
「実は、外の世界で聞いていた永遠亭、永遠亭が好きなんです。輝夜さんや永琳先生、鈴仙、てゐ・・・誰がというわけでもなく
永遠亭のどこか静かに流れる時間にあこがれたんです。実際にここに来てみてもそうです。やはり永遠亭は好きです」
俺は思わず熱くなってしまった、そして手にずっと持っていたものをぎゅっと握ってしまったことに気づき
「あ、これ・・・人間の里でいただきました。おみやげです、よかったらどうぞ」
永琳は「あらあら、ありがとう」とそれをそっと受け取った。
「くすくす、ねぇ永琳、その人にしばらく永遠亭に滞在してもらってはどうかしら?」
と、いつの間にか戸の前に立っていたのか、輝夜が声をかけてきた。やはり月の姫、あまりの美しさに俺は
しばらく見とれてしまった。
「人間、あなた名前はなんと申しますの?」
俺は輝夜に問われて我に返り
「タモといいます。会えて本当に光栄です、輝夜姫様」
俺は思わず姫様といってしまった。いつもの世界(外の世界)なら輝夜輝夜と呼び捨てにし時にはテルヨなどと言って
笑っていたが実際に見るととんでもない失礼なことだとよく分かった。それでも輝夜は本当に美しくはあるが
どこか人懐っこく、やわらかい口調で
「そう、タモ・・・あなたの障害、私もよく分かりました。永琳の説明から聞いていましたので・・・私も不死というある意味で
病を背負っています。ここでゆっくりした時間をともに過ごし、少しのんびりしていかれませんか?帰りたくなればいつでも
おっしゃってください」
輝夜はあくまで優しく俺に言い聞かせた。永琳は
「まぁ、私は姫様がそういうなら反対はいたしませんわ。それに私もあなたに興味があります。少し仕事を手伝ってもらえませんか?
簡単なことです、鈴仙と一緒に薬を売って歩いていただければ・・・それがあなたにとっても療養になるはずだと思いますよ」
それはどういうことだろう?俺としては、永遠亭に滞在できるなら願ったりかなったりだが、鈴仙の仕事が療養とは
「ふふ、理解できてないですね、いいのですよ。たぶん、紫もどちらかといえばそっちの意味で連れてきたのではないかしら」
俺は理解はできなかったが、まぁ要はしばらくここに滞在し、鈴仙の仕事を手伝えばいいのである。大したことじゃない。
「あぁ、あなたには毎食後、これを飲んでもらいますね。筋肉の緊張をほぐす薬です。これで少しは障害による痛みも和らぐでしょう」
と、永琳は錠剤をいくつか俺に渡してくれた。
「それじゃぁ、今日からよろしくね、タモ・・・あなたはしばらくそこで横になってなさい。鈴仙とイナバたちにあなたの部屋を用意させますから」
そういうと永琳は部屋を出て行った。去り際に笑顔をくれたのがなんかすごくうれしかった。輝夜は・・・
「ねぇ、あなたの世界、外の世界について少しお話してくれないかしら?」
と俺の横に座った。外の世界に興味があるのだろうか、俺は輝夜がいた時代から歴史を思い出しながら話すことにした。

~次回へ続く~