「ちょっと・・・どうしたっての?いきなり倒れたわよこの人!」
「お前のせいだっ!馬鹿野郎!いいから早く永遠亭まで運ぶぞ!」
オロオロと戸惑いを見せる鈴仙を無視し、妹紅はタモを抱えた。
相手は男である、いかにタモが痩せ型とは言え妹紅よりは重いはずである。
しかし、妹紅はぐっと力を入れて一歩ずつ進みだした。
「あ・・・もしかして私の・・・ごめんなさい!」
鈴仙は自分の紅眼から発する波動のせいだと気づき、ようやく妹紅に謝りながら
後を追う。
「ったく、気付くのがおせーよ・・・うどんげ、やっぱこいつ重い・・・足持ってくれ」
と、妹紅は一旦タモを降ろし、仰向けに寝かせた。そして自分は肩を持つ。鈴仙は
自分が悪いのが分かっていたのですまなそうに足を抱える。
「よし、行こう。落とすなよ?」
妹紅は後ろ手にタモの肩を持ちながら前を向いて進んだ・・・

しばらく進むと竹やぶの中に古い形式の日本家屋が見えてきた。古いのにどこか綺麗にまとまっていて
妙にスッキリしている。永遠亭だ・・・玄関先に一人の妖怪兎が立っている
「あっ!てゐ!あんたまた・・・」
「わっ、バカ!急に手を離すな!・・・うわっ!」
鈴仙が急にタモの足を離したので、妹紅も思わずバランスを崩し、そのままタモを落としてしまった。
「・・・ぅう・・・つつつ・・なんだ?何があったんだろう?」
幸い地面が土だったので大したことはなかったが今の拍子にタモが目を覚ましてしまった。
「お、目が覚めたか!うどんげ!!お前どっか行ってろ!てゐでも追いかけて来い!」
見るとてゐが逃げようとしている、鈴仙は妹紅に「ごめんなさい」と謝り
「こらーまちなさーい!」
とてゐを追いかけていってしまった。
「ん?今のはてゐとうどんげ?・・・ここは?」
タモは一瞬自分がどこにいるのか分からず思わず妹紅に聞いた
「あ、ぁあ、ここは永遠亭だ。お前、鈴仙の波動にやられたんだよ。全くあいつには気をつけろ。
永琳にでもお願いしとけ。あいつの波動受けずに済む薬くれとでもな」
そうか・・・タモは少し冷静さを取り戻し、思い出した。確かに鈴仙の目を見た瞬間、何かに吸い込まれていくような
気がした。そしてそのまま意識が飛んだのだ。
「なぁ・・・妹紅はうどんげの波動は平気なの?」
「ん?ああ、私は慣れてるしな・・・里の人間でも慣れてるやつは何人かいる。ただ初対面だとキツイよ。
まぁそのうち慣れるだろ。さっきも言ったけど永琳はその手の薬も処方してるからな」
そういうことなら、あとで永琳に聞いてみるか・・・それにしても・・・思い出してみて思ったが
鈴仙はかなり背が高かった・・・いや俺よりは低いのだが、なんというかスラッとしてモデルみたいな印象を受けた。
目の前の妹紅なんかはかなり口調も勝ち気だがまだ丸っこい、どちらかと言えばかわいいと言っていいような印象だ。
「あらあら、何か表が騒がしいわね、妹紅いらっしゃい。今日の患者は彼かしら?」
永遠亭の玄関の引き戸が開いて現れたのは八意永琳である。あの紺と紅の独特の服にナースキャップ、さらに白衣まで着ている。
正に病院の看護婦・・・というより医者だ。
「永琳、そうだ、こいつが今日の患者だよ。ていうか特に怪我はないらしいが・・・ふむ、まぁ詳しい話は彼から聞いてくれ。」
俺は立ち上がり永琳に「お願いします」と軽くお辞儀をした。なんというか、さっきまで見てきた藍や慧音、霊夢や魔理沙にはない
全然違う印象だ。本当に大人の女性、ありていに言えばあまりのセクシーさに思わずドキドキしてしまった。
永琳はお辞儀をした俺を見て何かに気づいたのか、
「ふふふ、なるほど・・・いいでしょう、診てあげます。どうぞ、いらっしゃい。妹紅はお茶はいかがかしら?」
「ああ、いいよ。私はすぐ戻るさ。あ、あとそいつうどんげの波動にもやられてるから、その辺も診ておいてやってくれ」
妹紅はそういいながら、去っていった。俺がお礼を言う間も与えてくれなかった。まぁ、縁があればまた会えるだろう。
「鈴仙も困ったものね、まぁいいわ、先にそっちを見ましょう。いらっしゃい」
俺は永琳に招かれるまま、永遠亭に入った。永遠亭の外観はそれほどでもないが中はかなり広い印象がした。
玄関から入ってすぐにまっすぐの廊下が続き、その両端にいくつかの部屋があるようだ。輝夜はどこにいるのだろう?
「姫は今は庭で盆栽でも眺めてますよ?なんなら呼んできましょうか?」
俺の心を完全に読みきったような永琳の問いに俺は「あいえ、いいです」と小声で答えた。とそこで永琳はある部屋の前で
立ち止まり、部屋を空けた。
「さぁ、どうぞ。」
そこはどうやら診察室のようである。部屋自体は畳張りの和室なのだが、周りにおいてある器具などを見ると学校の保健室のようである。
「え~っと、まずは鈴仙の熱を抜かないとね、とりあえずそこに横になって頂戴。」
と永琳は畳に敷かれた布団に転がるように促す。俺は言われるがまま、横になった。
「注射は大丈夫かしら?ちょっと我慢しなさいな・・・」
と永琳は俺の服の袖をまくり、アルコール消毒液を塗った。俺は構える間もなく注射を打たれた。
・・・しかし、不思議なものである。普通に病院で注射を打たれているのとは違い、永琳に注射を打たれているという
実感に妙な興奮を覚えてしまった。・・・下半身が反応してないか不安で思わず俺は下を向く・・・まぁたかが注射で反応するわけもなく
とりあえず平穏な様子なので安心して永琳を見た。・・・が俺はまた赤面して顔を下に向けてしまった。
永琳は俺を見ながらくすくすと笑っていた。
「ふふふふ、まぁいいでしょう。しばらく腕を押さえておきなさい。さて・・・やはりあなたは外来人のようだけど・・・」
また、これである。幻想郷の妖怪や人間達は俺を見ただけでどうして外来人と分かるのだろう?俺は永琳に聞いてみた。
「そうね、見た目のこともあるし、あなたの挙動がすでに外来人独特の挙動なのよ、物珍しげに回りを見たり、あと最近多い、
私たちを見て妙に反応したりね。その反応が外来人の証拠よ。それも最近増えてる、妙に幻想郷に詳しい外来人」
なるほど、確かに霊夢が言っていた最近幻想郷に詳しい外来人が増えたと・・・そして俺自身の反応も思い出してみれば
恥ずかしいほど反応していたことに気づく。魔理沙にしろ橙にしろ、藍、慧音、妹紅・・・みんなそうだ。俺はどこかアイドルに会った
ような感じで目を輝かせていたかもしれない。
「まぁいいでしょう。ところであなたはどこが悪いのかしら?まぁ大体分かるけど・・・自分で言ってちょうだい。」
俺は・・・・

~次回へ続く~