「ところでタモよ、お前は永遠亭に行ってどうするつもりだ?」
藍が歩きながら聞いてきた。
「ん~考えてなかった・・・何か必要なのか?」
藍は少し考えて
「何かないとだめだということはないだろうが・・・確か
病患や怪我人じゃないと受け入れないという風に聞いたことがある」
ふむ・・・俺は少し考えた・・・そこでふと思った
「なぁ、藍・・・永遠亭の永琳・・・先生は本当になんでも治せるのか?」
「あぁ、そうだな、直せない病気怪我はないと聞いている。やはり月の民は
とんでもない知識と技術をもっているようだな」
「うん!私がてゐちゃんの落とし穴にかかって足怪我したときもすぐに直してくれたよ。
見つけてくれた優曇華おねーちゃんも優しかったし!」
水飴を舐め終えた橙が会話に入ってくる。なるほどなぁ、そういうのならすぐ治るのだろうが・・・
「どうした?お前も何かあるのか、怪我とか・・・・」
「いや、いい。なんでもないさ。ところで、あそこに立っているの慧音先生じゃないの?」
前を見ると、明らかに寺子屋(学校)と思わしき建物の前で慧音がたっていた。
「ん、おお、そうだな。あとは慧音に話してみることだ。私は帰るぞ?」
「ああ、ありがとう。藍さん・・・最後にその・・・尻尾触っていい?」
俺は会ったときからずっと気になってた九尾の尻尾に触りたくて仕方なかった。
あまりのもふもふでやわらかそうな毛並はどうしても触りたくなってしまう。
「だめだよ~。藍さまの尻尾は橙のだもん!」
橙は藍の前に立ちふさがったがしかし、
「ふふふ、触りたいか?いいだろう・・・特別だ。この九尾は縁起物だからな
何かよいことがあるかもしれないぞ。無事を祈る意味でも触っておけ」
藍さんが尻尾をこっちに向けてくれたので俺はそっと触ってみた。
なんと気持ちいいんだろう。橙がここで寝たりするのもよく分かる。
このままずっと触っていたいのをぐっと堪え、藍にお礼を言う
「あ、ありがとうございます。なんか俺、幸せになれそうな気がする」
「そうか、それはよかった。まぁ博麗の巫女にも言われただろうが帰るときは
いつでも来い、紫様に言っておいてやる・・・場所は・・・永遠亭の連中にでも聞くんだな」
「ありがとうございました。藍さん、いろいろ聞いてたけどやっぱ優しいし神様みたいだな」
「ふふふ、私は妖獣だ、紫様の足元にも及ばんよ。ほら、慧音が行ってしまうぞ」
俺は藍に何度もお礼を言いながら慧音の元に駆けた。藍の尻尾はそれほどまでに神々しく
触れてはいけないような気がしたからだ。それを易々と触らせてくれた藍の優しさは本当に
母性の塊のような印象を受けた。

「慧音先生~」
俺は寺子屋に入ろうとする慧音を呼び止めた。
「なんですか、あなた・・・私に何か用事でしょうか?」
慧音は先生らしく敬語で俺に話しかけてきた。
「あの~、いきなりで申し訳ないんですが、俺を妹紅のところに連れて行って欲しいんです」
慧音は少し驚いていたがすぐに優しい顔に戻って
「妹紅のところに行くというは、永遠亭に行くということでしょう?どこか具合悪いの?」
俺はまたしても返答に困った・・・・まぁ悪いところがあるわけではない・・・ないが
さっき藍にしたのと同じ質問を慧音にしてみた。
「永遠亭の永琳先生は病気怪我なんでも治すと聞きました。それは本当でしょうか?」
「本当ですよ。・・・ぁあ、あなた言われてみれば体が少し不自由そうね」
・・・やはり分かるか・・・俺は実は軽度の脳性マヒを患っている。これは生まれつきそうなのだが
いわゆる身体障害者というやつである。しかし、こうやって歩くこともできるししゃべることもできる
ただ、普通の人より行動が遅かったり、危なかしかったりするだけだ。
「いいでしょう。永琳にそれが治せるかどうかは分かりませんが、案内しましょう・・・ふふ
あなた外来人でしょう?もしかしたら紫があなたを可愛そうに思ったのかしら?」
思えば、さっきの藍の態度もどこか優しさにあふれていたし、紫のところへいけば外に帰れるということ
それを霊夢も藍も斡旋してくれていることを考えれば、あいつらも口には出さないけど分かっていたのでは
ないかと思う。俺が障碍者であること。そんな俺が永遠亭に行きたいというのも納得できる話しだ。
もっとも、俺自身は永遠亭が好きだからという理由でここまで来ただけではあるが。と、俺は金平糖を思い出した
「あの・・・慧音さん、これ・・・お土産です。」
「あら・・・これ金平糖・・・・私はいいわ。それは永遠亭に持って行きなさい。あそこの兎達の大好物よ」
そうか、考えてみればてゐあたりが好きそうではある。年齢はともかく見た目は子供だ。
「さて、私は今日の授業は終わったし、家に帰るところだったのです。ちょうどよかったですね、行きましょう」
慧音も優しさにあふれていた。幻想郷の住人は日々の生活に満たされすぎているのか、みな優しさと愛情に溢れているようである。
それでも慧音もやはり怒らすと怖いのであろう。満月になるとハクタク化するし、授業も厳しいと聞く。
「そうですね、妹紅なら今頃竹林の入り口の方でしょう。行ってみましょうか。」
俺は歩き出した慧音に付いて歩き出した。
「ところで、あなた体が不自由というのは、いつからなの?原因はなんなのかしら?」
俺もあまり具体的なことは聞いてない
「半身マヒというか、とにかく体の左半分があまり器用に動かせないんです。それと
難聴と言語障害も少しあります。全て脳からの話だとは思いますが、生まれつきです」
「そう、その割にはちゃんと歩けてますね、確かに言語は聞き取りにくい部分もあるけど・・・
鈴仙に比べれば全然平気だわ」
と言って慧音は笑った。鈴仙・・・確かに聞き取りにくいと聞いているがアレは体質というより性格であろう。
「まぁ、永琳ならなんとかしてくれるんじゃないかしら?月の頭脳といわれるほどの人です。」
俺は期待半分、不安半分で慧音の後を付いていった。

~次回へ続く~