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7月28日、今年8月1日から実施される外国為替証拠金取引への規制強化で、為替市場への影響力を強めてきた日本の個人投資家の勢いが衰える可能性が高まっている。都内のトレーディングルームで28日撮影(2011年 ロイター/Yuriko Nakao) |
[東京 28日 ロイター] 今年8月1日から実施される外国為替(FX)証拠金取引への規制強化で、為替市場への影響力を強めてきた日本の個人投資家の勢いが衰える可能性が高まっている。
規制強化は投機的でリスクの高い取引を制限するのが目的で、投資家は取引に当たり従来の倍以上の証拠金積み増しを義務付けられる。この措置による中長期的な円相場への影響は限定的とみられているが、これまでドルの下値を支えてきた個人投資家の影響力が低下し、「円高ブレーキ」が弱まるとの見方もある。記録的水準に積み上がった外貨買い持ちの急激な解消を予想する声も出ている。
<証拠金引き上げは円高加速につながる可能性>
7月8日夜、東京・日本橋のレストランに男女46人が集まった。学生から会社員まで職業はさまざまで、年齢も21歳から71歳までと幅広い。一見ばらばらに見える彼らの共通点は、個人のFX投資家であること。6月米雇用統計の発表を見届けるというFX業者の催しに参加するため、都内はもちろん岐阜県や兵庫県からも駆け付けた。
「3、2、1、ゼロ」。発表時間の午後9時30分ちょうどにカウントダウンが終わると、店内の巨大画面に映し出されたドル/円のチャートが大陰線を引いた。米雇用統計の内容が事前の楽観ムードを裏切る内容で、ドルは80円付近まで急落。参加者からはどよめきが起きた。「米国の景気はそんなに簡単に回復しないだろうから円高に振れるだろうと思っていたが、最近負けていたので今日はポジションを持たなかった」と、藤沢市に住む大学生の小田裕貴さん(21)。「ああ、やっぱり円高だったかと少し後悔した」。
「ミセス・ワタナベ」、「キモノ(着物)トレーダー」──。 長い間プロの業者が支配してきた為替取引の世界で、日本の個人投資家たちはこんな呼び名が付くほど存在感を高めている。国内でFX取引を行う個人投資家は、たまに取引を行う人を含めれば10万人近いと言われる。プロの投機筋や機関投資家、輸出入企業などと並ぶ外国為替市場の主要参加者であり、国際決算銀行(BIS)がまとめた1日の円の取引額約25兆円(2010年4月)のおよそ2─3割を占めるとの見方もある。
その一方で、FX投資ブームの舞台となっている証拠金取引では、無理な投資によって大きな損失を被る個人投資家も急増。日本の金融庁は8月1日から規制を一段と強化し、投機的でリスクの高い取引に制限を加えることを決めた。新規制では、取引額の2%以上(レバレッジ50倍)から4%以上(レバレッジ25倍)に証拠金が倍増され、高リスクの取引が抑制される。
もともと青天井だった倍率を50倍に制限した昨年8月の規制では、個人の取引高が減少する副作用が起きた。今回、同様の反応が起これば、相場への影響も無視できない。一般的に個人投資家は相場の流れと逆方向に売買する傾向が強く、ドル80円割れが続く現在のような局面では積極的にドル買い/円売りに動く。つまり、円高にブレーキをかける機能を果たしているわけだが、今回の規制で取引が一段と減少すれば、そのブレーキ効果がさらに弱まる可能性がある。
<昨年の50倍規制では取引高は3─4割減>
矢野経済研究所が店頭FX11社を対象に実施した調査によると、昨年は6月ごろから証拠金残高が増え始め、規制の始まった8月は5月に比べ約3割増加した。今年も同様に、「ここ2、3カ月、証拠金の入金が増えている。規制に備えての動きかもしれない」と、外為どっとコムの経営企画部長、前田卓宏氏は言う。しかし、昨年は結局、取引を減らす動きが勝り、東京金融取引所が運営するFX取引所「くりっく365」を含めた業界全体の取引高は一時的に3─4割減った。
規制強化に対する個人投資家の反応はどうか。ユーロ/ドルを中心に倍率50倍の取引をしている都内の会社員、志農亜沙美(24)さんは「取引を続けてはいくがポジションは減らす」と話す。半年ほど前にFXを始めた大学生の小田さんも50倍の取引をしており、「証拠金は増やせない。(取引を)減らすしかない」と言う。FX業者の間でも、今回もまた取引高の減少のほうが証拠金の積み増しを上回ると予想する声が多く、FXプライムは最大2割、外為どっとコムは1─2割ほど自社へのマイナス影響を見込んでいる。
矢野経済研究所が昨年8月にまとめたレポートでは、2012年3月の業界全体の年間取引高は、前年から約24%減少すると予測していた。最新の見通しは集計中だが、同研究所の主任研究員、白倉和弘氏は「50倍に引き下げされたときよりも影響は小さいとみているが、今年3月の実績より下がるのは間違いないだろう」と語る。
東京金融取引所の「くりっく365」は、8月1日に中国人民元/円、韓国ウォン/円、インドルピー/円のアジア3通貨ペアを上場させる。成長力のある新興国通貨を加え、個人投資家の引き留めを狙う。またセントラル短資は同社に口座を保有する顧客に外貨両替レートの優遇サービスを始めたが、「規制はビジネスの圧迫要因だけでなく、新たなビジネス・チャンスを開くという面もある」(FX湘南投資グループ代表の野村雅道氏)との指摘も出ている。
<外貨買い持ちが記録的な水準、反動を警戒>
規制強化が為替相場にもたらす影響は、ドル/円に最も大きく現れそうだ。昨年8月、ドル/円相場は86円台から83円台へ1カ月で3円下落した。米国で量的緩和第2弾(QE2)の議論が始まり、ドルが主要通貨に対して売られやすい局面だったため、規制が相場に直接影響したと断じることはできない。日本の通貨当局は「個人はかなり短期で動いているので、取引高が減っても相場への影響はあまりないだろう」と、それほど警戒していない。
しかし外為市場は変動の要因を特定するのが難しく、昨夏の倍率規制とドル/円下落の因果関係も完全には否定できない。「日本の個人は外貨を買う行動をする。(昨年は)そこが何割か減ったのは事実で、相場にも影響はあったかもしれない」と、FXプライムの五十嵐真社長は語る。「今回も何らかの影響はあると思う」という。
とりわけ、個人の外貨買い持ちが記録的な水準に積み上がっている今、規制強化が始まる前後に急激に持ち高が解消される可能性には注意が必要だ。FX業界の元為替アナリストによると、FX会社から届いたメールを顧客の個人投資家が開封する割合は2─3割だという。
FX会社からの度重なる通知にもかかわらず「倍率の上限を超えているのに気付かず、昨年は当日朝に持ち高を強制的に減らされる人がいた」と同氏は話す。「今回もそういうケースは出るだろう。市場全体の持ち高の偏りにもよるが、その思惑を利用して投機筋がドル/円を売り浴びせる可能性は否定できない」という。
(ロイターニュース 久保信博;編集 北松克朗)
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