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発達アプローチによる自閉症療育情報

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キーワードを反復する | 最小限の話題継続から始める
まずは、一つの話題について話続けられるように
 相手が話したいことに歩み寄ることは難しいので、まずは自分が話したいことについて話題を一貫させられるようにしてゆきましょう。

 これに関して、「自閉症児の発話の中のキーワード一つを感情を込めて反復する」という方法が最も簡便です。「感情をこめて」というのは「なんて面白い話なんだ!続きはどうなるのかな?」「こんな面白い話聞いたことがない!もっと聞かせて!」というような、生き生きとした雰囲気のものです。そして言った後、目を輝かせて期待の視線でじっと自閉症児を見つめます。

  ・・・おイモほりィィィ!?   (期待されちゃっててるよ。おイモほりの事もっと話さないと・・・)

キーワードを繰り返す

 キーワードを上記のように思い切り大げさに言ったら、そのまま自閉症児に期待の目を向けたままじっと見つめて、待ちます。キーワード一単語だけを言われるので、これでは、話題の脱線のしようがありません。

 つぎの一言が出るまで、どんなに少なくとも数秒は待ってあげましょう。

自閉症児の言ったキーワード一つを大げさに反復するを少しでも多く繰り返す
 一言でも、キーワードに関連した言葉が出れば、「ホントー!!」「へぇー!!」「すごーい!!」など、これまた大げさにリアクションします。

 そしてまた一言キーワードに関連した事を言えれば、自分の出した話題を維持して三往復の会話を続けられたことになります。

 最初に自閉症児自身が出したキーワードに関連した言葉が一言でも続くことを目指しましょう。

どうしても言葉が続かない時
定型児に比べて、一テーマについて語れることは少ない
 同じおイモほりの体験をしたとしても、それに関して報告できることは、定型児と比べるとずっと少ないと考えて下さい。

 定型児が「自分が取れたおいもは・・・」「おいもを掘った道具は・・・」「他のお友達は・・・」「周囲はどんなところだったか」など、様々な視点から発話できるのに比べると、自閉症児が発話できる視点は多くはありません。

 だれでも言えそうなことを一言言った後に、その後が続かず、止まってしまう自閉症児は多いのです。

どうしても続かなければ、関連する簡単な質問で助け船を出す
 このような時(長く沈黙が続き、「言葉が浮かんでこない」様子が見えるとき)は、「たくさん取れた?」「汚れなかった?」など、話題に関して簡単に答えられる質問をして、答えてもらいます。

 最後まで楽しい雰囲気を盛り上げ
、「自分の体験を詳しく報告すると、喜ばれる」という実感を持たせて切り上げるのが良いでしょう。
 

応答が長くなるにつれて難しくなる「話題を保つ」
自閉症児にとって話題管理は難しい-「会話が成立しない」と言われてしまうことも
 言葉のキャッチボールに関して難しいのは、一貫した話題を保持することです。
「会話しているうちに、突然話題が飛躍する」
「相手の話題からどんどん逸れてしまっている」
 
 話題の維持が難しいのは、「今、何についての会話が進んでいるのかチェックする」「発話する」という二つの作業を同時にやらなければならないからです。

 自閉症児の場合、会話が進んで行くうちに「これをしゃべりたい!」という気持ちが起こってくると、それを抑えておくのが難しいです。大人でもそのようなことはありますが、「話はちょっと変わりますが」「ちょっと思いつき言っちゃっていいですか?」など、「話題を変えます」という前置きをしてから話題を変えます。このような「話題を変えます宣言」を途中に挟むのは、言葉を探すことに労力をとられている自閉症児には難しいことです。


 
 それ以前に、「今、何について話しているのか」ということを意識する余地を残しておくということが困難な自閉症児が多いでしょう。

相手の話題についてゆかないことも多い
 療育が進み、ある程度の会話力を身につけた自閉症児でも、「相手が出してきた話題に関心を持つ」ということは難しいです。世の中には「他人にとても興味があり、相手の事情を聞きたがる」人もいますが、自閉症児はその逆です。

 療育が成功しても、中核的な障害である社会性が平均的な人たち並に伸びるということは難しく、よほど自分が以前から持っている関心事と関係がなければ、相手が出してきた話題に積極的についてゆこうという気持ちは薄い場合が多いと考え他方がいいでしょう。

最も難しいオープン・クウェスチョン | 「今日は何があった?」は難問
「何についてしゃべるか」をまず選ばなければならない
 最も難易度が高い質問は、WHクウェスチョンを使ったオープン・クウェスチョンです。
 つまり、「何について聞いているのか?」が決められていなくて「何について答えるか」を子供が決めなければならない質問です。

今日は何があった?

好きな食べ物は何?

好きなお友達は誰?

将来、誰みたいになってみたい?

夏休みに行きたいところはどこ?

今まで行った旅行の中でどこが面白かった?

いつ頃旅行に行ってみたい?

今までで一番楽しかったのはいつ頃?

 これらは、まず最初に「たくさんある可能性(選択肢)の中のどれを選ぶか?」という難しい作業をしなければなりません。前に挙げたWHクウェスチョンはどれもそのような作業をする必要がありません。

 大人の間では普通の問いである「今日は何があった?」「最近何があった?」という質問に対してでも、自閉症児は、起こった事を色々と思い出してみて、それを相互に比較するということが必要になります。言葉を出すまでにやらなければならないことが多すぎるのです。

 この「WHを使ったオープン・クウェスチョン」が最も難易度が高い質問となるでしょう。

子供がしばらく質問に答えられなかったら、簡単な質問に切り替える
 もちろん自閉症児の中にも、「WHを使ったオープン・クウェスチョン」に答えられる子供はいます(その後に「どうしてそうなの?」と聞かれるとかなり苦しいと思いますが)

 このレベルの質問に答えられるだろうな、という目安が立っているのでしたら、質問した後に、子供がしばらく答えられなくても、期待する視線を向けて黙って答えを待ちましょう。


 
 しかし、自閉症児が「注意がそれはじめる」「いつまで経っても返事が返ってこない」「とんちんかんな答えを言う」というような反応を示すのであれば、それは、質問の仕方が難しかったということです。

より簡単な質問への切り替え方法
 質問の仕方が難しすぎたという感触を得たら、すぐにより簡単な質問に切り替えます。

 例えば「何色のボールを使う?」と聞いて自閉症児が答えきれなかったら、「朱のボールにする?青のボールにする?」と選択肢形式の質問に変更します。

 「今日は何があったの?」に答えられなければ、答えるべき対象を限定します。例えば「今日の給食は何だったの?」というように質問の範囲を狭めます。

質問に答えられるようにサポートします
 上記の「簡単な質問に切り替える」は現実的だと思います。
 しかし、自閉症児がもう少しでこの質問形式に答えられそうだという感触があるのであれば、大人がヒントを出して答えられるように助けてゆきます。

 例えば、「夏休みに行きたいところはどこ?」という多くの可能性の中から選ばなければならない質問に答えが返ってこなければ、「そういえば、この前は山の中のペンションに泊まったよね」「プールに行ったときは楽しかったの?」など、いくつかヒントになるようなコメントを加えてゆきます。

質問攻めにならないように
 最後に、療育の基本は「自閉症児が自ら発話を開始できるようになる」ということが大きなことです。

 質問ばかりしていると、「質問された時にしか口を開かない」という方向に行ってしまう危険もあります。

 この項に書いた、質問に答える力は長い時間をかけて育って行くものです。短期間で成果を挙げようとするのではなく、長期的に見て、「自分から発話する」ということを基礎にしながら、時には質問をするというように組立てて行きましょう。

「質問する-答える」だけでも最小限のキャッチボール
相手の話に知らんぷりで勝手にしゃべる自閉症児も多い
 第4ステージでは、二語文、三語文と文の構成力を伸ばしつつ、「様々な目的のために発話する」という発話目的を拡大することに重点が置かれていました。

 ここまでは主に「自閉症児自身が発話する」という課題が中心です。しかし、もう一方で非常に大切なのは、「会話相手に合わせる」ということです。


 
 言葉がそれなりに伸びたお子さんでも、他人が何を話しかけてもおかまいなしに一方的に自分の喋りたいことだけを一人で喋りまくっている自閉症児もいます。他人が話しかけると、それまで独語気味に喋っていたのをピタリと止めてしまう子供もいます。

 相手がもたらしたテーマに合わせて発言しなければ、言葉のキャッチボールは全く成立しません。

まず、「質問する-答える」最小限のキャッチボールから始める
 「相手のテーマに合わせて発話する」の最小限のものは、「相手の質問に対して、答える」でしょう。これが関連性をもったやりとりの第一歩となります(相手の質問に答える応答であっても、相手の質問内容と関係がなくなってしまう自閉症児もいますが)

答えやすい質問形式から始めよう | 易しい質問形式から難しい質問形式へ、まずレベル1
最も返答するのが容易なのはイエス-ノークウェスチョン
 会話の基本をなす応答形式から始める-しかし、実は質問の仕方にも、答えるのが容易な質問から難しい質問まであります。

 質問-応答のペアを成功させるには、最初は答えやすい質問から始めなければなりません。
 最も答えやすい質問形式はイエス-ノークウェスチョンです。「イエス」(うん)「ノー」(ちがう)この二つのどちらかを言えば、相手の投げた玉を返したことになります。

りんご、おいしい?

リュック、重い?

このお人形、使う?

 などです。イエス・ノークウェスチョンは、子供の要求に結びついた質問の方がやりやすいです。報告させる・確認するなどの目的よりも「このお人形、使う?」「みかん、食べる?」など、イエスと答えれば、欲求する物がもらえるという状況がいいでしょう。

 ノーを出させるのは、子供があまりやりたくないと思っている事の方が出やすいでしょう。(もっと遊びたそうな時に)「おもちゃ、片付ける?」、(疲れが見えてきたときに)「もっと先まで歩く?」などです。

次に容易な選択肢形式の質問
 選ぶのが二つの中のどちらかでいい質問。これを少し難易度を高くすると次に難しいのが、「選択肢形式」の質問です。

 話の最後に、A?それともB?という選択肢を入れてやります。子供はそのどちらかを選んで言えばいいだけです。イエス-ノークウェスチョンがイエス・ノーの2つのうちどちらかを言えばいいだけなのに対して、単語を一つ言えばいいだけです。しかも、その単語は直前に大人が言っているものです。

どっちを食べる?りんご?みかん?

どっちに行きたい?公園?児童館?

ブランコ、続ける?止める?

 選択肢形式の質問は、子供の欲求に関するものが多いので、要求と結びつければ、こちらの方が入りやすいお子さんもいるでしょう。

答えがほぼ決まっているWHクウェスチョン
「何?」
「誰?」
「どこ?」
「いつ?」
 これらの質問は、「既に答えが決まっていること」を質問するのであれば、その答えをいうだけで済みます。
 例えば、次のような質問です。

このヒーローの名前は何?

手に持っているのは、何?

この写真に写っている先生は誰?

クラスで一番背が高いのは誰?

発表会をやるのはどこ?

これからお友達とどこに行くの?

お泊まり保育が始まるのは来週のいつ?

新放送はいつから始まるの?

 これらも、「決まっている事」について聞き手が情報を知らないので、時間・場所などについて聞いているのに過ぎません。答えが決まっている質問です。子供が情報を知っていて「どこと聞かれたら場所を答える」「いつと聞かれたら時間を答える」「誰と聞かれたら人の名前を答える」などのルールを知っていれば、答えられます。

 もちろん、このような質問に答えられるようになれれば、相当伸びていると評価して良いでしょう。

親一人が笑われ役、もう一人がコメント役
変な格好・行動で「おかしい」コメントを引き出す
 このように、言葉の用法の中で、なかなか出にくいものについては、療育的な工夫が必要です。

 大人2人で役割を分担し、1人がおかしい格好や動作をし、もう1人がお子さんに「おかしいね!」と楽しそうに言い、「おかしいね」というコメントを引き出しましょう。打ち合わせを事前にしたものであっても、本当におかしそうに「おかしいね!」と言って、勢いに乗せてしまいましょう。
  「お父さんおかしいね!」   「  おかしい 」      「ただいまー」



(ちなみに、私も「変な格好をして帰ってくる」あるいは「出迎える」という方法はよく用いましたが、色々なリアクションを引き出す事ができました)

ターゲットのコメントは子供のレベルによって変える
 ある程度の社会性を持ったコメント(「おかしい」「変だ」「ダメだ」などの方が出やすい子供もいますが、出にくい子供もいます。

 社会性を持った言葉が出にくければ、「赤いね」「丸いね」「重いね」などの物理的なコメントをターゲットとしましょう。

なるべく「コメントする価値があるもの」にコメントさせる
注意!知育に走らない。なるべく伝達の価値があるものにコメントする
 「おかしい」のように「何が社会的に普通なのか」という社会的判断を含むコメントに比べて「赤い」などのような物理的特徴に対するコメントは社会的判断を含みません。

 社会的判断が苦手な自閉症児には言いやすい場合もよくあります。中には「青い」「四角い」などを「こんな風に続けてゆくと『知育』になる」という判断からたくさん言わせたくなる保護者様もおられるでしょう。

 しかし、「物理的特性についてたくさんコメントさせる」方向に走らない方がよいと思います。

 上に挙げたような、私たち大人が交わす会話の中のコメントはどのような対象に対して下されるのでしょうか。それは、話し相手にとっても「コメントするに価値があるもの」に対してなされます。

 通常の会話では(驚きの感情をこめて「大きいね!」と言うような場合をのぞいて)、「二人ともそれを見ていて『分かり切った事』」に対しては一々コメントしません。「自分が対象に対してどんな感情・判断を抱いているのか」ということを相手に伝えたいときにコメントをするのです。


 
 言葉があり、社会性もある自閉症児であっても「分かり切ったことをわざわざ口に出す」ことによって相手をウンザリさせることがあります。物理的特徴に対するコメントは練習用と割り切って、なるべく社会的判断を含んだコメントが出るように方向付けてゆきましょう。

「ね」と「よ」の使い分けはとても難しい
 なお、自閉症児にとって文末の「ね」と「よ」の使い分けは難関です。「ね」は「楽しかったね」というように、「相手も既に知っていること」に対して用いられます。それに対して「楽しかったよ」の「よ」は相手が知らない事態に対して報告的に用いられます。

 「相手が既に知っている事か、知らない事か」という「相手の予備知識」に対する推測は自閉症児には難しい問題です。


 
 最初からこの使い分けがそこそこできる場合ならよいのですが、混同が多いようであれば「すごい」「おかしい」など、「ね」「よ」抜きで初めてもおかしな発言には聞こえません。